書標 2006.1月号
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お金持ち


 所得格差が拡大し、将来に夢も希望も持てない若者が増えていると言われている昨今。お金があると何が違うのか、お金持ちとはどのようなものなのか、今回は探ってみたい。
ITバブル――億万長者とは

 金持ちといってもそれで思い浮かべるイメージは人によってさまざまだが、『日本のお金持ち研究』(日本経済新報社・1890円)によると、日本のお金持ちは2つのパターンに分けられるという。一つは、企業の創業者。もう一つは開業医である。この本では、高額納税者にアンケート調査をし、サラリーマン経営者とオーナー経営者や企業家では所得はどう違うかを明らかにし、日本のパワーエリート=上流階級の実態を調べ、その形成について論じている。
 累積納税額第一位・斎藤一人の本は数多く出版されている。『変な人が書いた成功法則』(講談社+α文庫・630円)は、最も手軽に彼の成功哲学を学べる一冊。
 経済格差が拡がる昨今、脚光を浴びているのはベンチャー企業の経営者たち。彼らも「企業の創業者」だから、ITITとは言うけれど、金持ちとしてはオーソドックスな部類なのかもしれない。
livedoor?何だ?この会社』(ライブドアパブリッシング・1001円)は、ライブドアの会社案内とも言える本で、TVなどで報道される限りでは、ITといっても何をやっているのかわからない会社が何をしているのかを紹介している。『渋谷ではたらく社長の告白』(藤田晋著・幻冬舎・1680円)は、女優と結婚・離婚して有名になったベンチャー企業の社長のブログをまとめたもの。いわゆる現代の「社長」がどういう生活をしているのかが窺い知れる。
ビル・ゲイツ 立ち止まったらおしまいだ!』(ダイヤモンド社・1680円)は、世界一の資産家ビル・ゲイツのインタビューを集めた本。小さい頃のエピソードも収録され、そのころから起業家精神に溢れていたことがわかる。

財閥――お金を減らさない

 一代でお金を築き上げても、相続税でだいぶなくなってしまう。減らしたくないという場合どうしたらよいのか。財閥や閨閥というのは古い時代の話なのだろうか。それとも現在も相変わらず続いているのだろうか。
 創業者一族で企業を支配している「財閥」を概観するのが『世界財閥マップ』(久保巖著・平凡社新書・798円)。日本のテレビ局にも出資したことが話題となったメディア王マードックや、ドイツのジーメンス、石油のロックフェラーや小売のウォルマートから韓国やアラブの財閥まで、世界中を網羅している。
 世界に冠たる富豪・ロスチャイルド家の閨閥を調査した本が『赤い楯 1〜』(集英社文庫・2巻690円・その他730円)だ。18世紀末から20世紀末までの膨大な系図はただ眺めているだけでは何が何だかわからないが、ジェームズ・ボンドやオードリー・ヘプバーンなど映画界も飲みこむ巨大な力であるらしい。次々と世界の大富豪やスターが登場し、読んでも覚えきれないくらいだが、映画や宝石と深く結びつき、近代の歴史がほとんど「ロスチャイルド家」と関っていることに驚いてしまう。
 ロスチャイルド家については、『ロスチャイルド家』(横山三四郎著・講談社現代新書・735円)もある。『ロスチャイルド自伝』(古岡修訳・中央公論新社・2100円)は、英国ロスチャイルド家の五代目N・M・ロスチャイルド・アンド・サンズ元会長の自伝。帝王学を学び、世界周遊旅行にでたという話を読むとやはり一般の人とはまるで違う人生だ。
 スタンダード石油の創始者で、ロックフェラー財閥を築き上げたジョン・デイヴィソン・ロックフェラーの伝記『タイタン 上』(ロン・チャーナウ著・井上廣美訳・日経BP・各2835円)。哲学者のラッセルや作家のH・G・ウェルズも著作で言及しているような人物ながら、実像はあまり知られていない彼を調査した大著だ。
 日本のお金持ちたちの系図がくわしく載っているのが『閨閥 特権階級の盛衰の系譜』(神一行著・角川文庫・840円)。政界編と財界編に分けて書かれているが、それらは簡単には分けることができないほど入り組んでいる。閨閥で政治資金が動き、権力も閨閥内で築かれる。著者によると「日本は特権閨閥によって支配されている」ということになる。閨閥については、主に大名家を研究した『閨閥の日本史』(中嶋繁雄著・文春新書・714円)という本も出版されている。
 日本の財閥についてなら、三菱財閥の一代目・岩崎弥太郎の一生を本宮ひろ志が漫画化した『猛き黄金の国岩崎弥太郎 1〜』(集英社文庫・各630円)が読みやすい。
 日本の資本主義の父といわれ、五百を超える会社を設立した渋沢栄一と、放蕩し廃嫡された二代目・篤二、『旅する巨人』(佐野眞一著・文藝春秋・1835円)にあるように宮本常一のパトロンでもあった孫の敬三については、『渋沢家三代』(佐野眞一著・文春新書・882円)に詳しい。
 金持ちになりたいと思うなら、『金持ちと上手につきあう法』(リチャード・ニコフ著・楡井浩一訳・講談社・1995円)も参考になるかもしれない。「金持ち」を動物として研究している。「なぜ、パーティーをするのか?」「優位性の示し方」「目立ち方の研究」などを、実在の金持ちを例に、他の動物(サルやマンドリル、チンパンジー、ゴリラなど)と、ユーモアを交え揶揄も込めつつ比較している。

バブル――お金の使い方

 日本で金持ちが一気に増えたかのように思えたのがバブルの時代である。
 バブル経済がどう発展し、どう崩壊したかについては『平成バブルの研究 上』(村松岐夫、奥野正寛編・東洋経済新報社・各4410円)がある。
 バブル時代の不良債権について盛んに言及されても、額が大きすぎていまいちどの程度のものだかイメージしづらい。『あの金で何が買えたか』(村上龍著・角川文庫・600円)は、バブル期の銀行や企業の債務を補填した公的資金があれば、どんなことが可能になったかを解説している。今はみずほファイナンシャルグループになっている第一勧業銀行には9000億円の公的資金が投入されたが、8400億円あれば、世界中の途上国すべての子どもたちが基礎教育を受けられるようになるという。
消えた名画を探して』(糸井恵著・時事通信社・1890円)は、バブル期に買いあさられた印象派の絵画はどこへいってしまったのかということを通して、日本人と美術を考えるドキュメント。損保ジャパン東郷青児美術館にあるゴッホの「ひまわり」は、安田火災がバブル期に購入したことで有名だが、値上がりを予想して買われた絵画は、今では銀行の金庫に眠っていることが多いらしい。
 バブルの時代に、地上げ屋の愛人になったり不倫をしたりし、金持ちにお金をぞんぶんに使わせた女性に取材した小説『アッコちゃんの時代』(林真理子著・新潮社・1575円)は、どのあたりまでが本当でどこからが嘘かはわからないが、バブル期の東京の雰囲気はつかめる。
 日本におけるバブル景気のようなものは世界的にも何度も起こっている。世界恐慌、20世紀後半の日本やアメリカまで、金融投機の歴史を見渡せるのが『バブルの歴史』(エドワード・チャンセラー著・日経BP・2520円)である。
 17世紀にオランダで起こった異常な投機ブームの対象は「チューリップ」だった。『チューリップ・バブル』(マイク・ダッシュ著・文春文庫・840円)には、球根を売り買いするだけで利益をあげる先物取引の様子が描かれている。こうした花の投機バブルも歴史上何度も起こっており、ヒヤシンスやダリア、グラジオラスでも起こったことがあるそうだ。

金持ち――正直言ってうらやましい?

 金持ちにどういった印象を抱くか、といったらどちらかといったら悪いものが多いかもしれないが、最後に、後味のいい金持ちの本を紹介したい。
 深田恭子主演でドラマ化もされた『富豪刑事』(筒井康隆著・新潮文庫・460円)は、原作では主人公は男である。ミステリに出てくる刑事にはなんとなくお金持ちだというイメージは無く、這いずり回って事件に取りくむのが常という気がするが、この小説の刑事は何でも金の力で解決していくのに清々しい。金は使いよう、ということがよくわかる。
 漫画でも、お金持ちの登場するものはいくつもある。小林よしのりの『おぼっちゃまくん1〜』(幻冬舎・各800円)は、巨大財閥の御曹司という設定の御坊茶魔11歳が下品なギャグを連発する。最近実写ドラマになった『花より男子1〜36』(神尾葉子著・集英社・各410円)は、お金持ちばかりが通う高校に入学してしまった庶民・牧野つくしが主人公の少女漫画。学校を牛耳るお金持ちでカッコイイ男の子集団・F4との闘いや恋という少女漫画の王道ストーリーと、雑草のようにたくましい牧野つくしのキャラクターがいい。『有閑倶楽部1〜19』(一条ゆかり著・集英社・各410円)は、聖プレジデント学園の生徒会「有閑倶楽部」のお話。多芸多才で金持ちで美男美女ばかりの有閑倶楽部の面々(でも高校生)が事件に巻き込まれる。フランスのシャルトル財閥をめぐるシリーズ『シャルトル公爵の愉しみ1〜』(名香智子著・小学館文庫・600円〜620円)は、登場人物たちのお洋服や背景の調度品もお金持ちらしく豪華絢爛。
 生まれながらに金持ちというのもあまり印象よく受け取られない場合が多い。しかし、18歳で父親から巨万の富を受けついだハワード・ヒューズの破天荒な人生は魅力的だ。『ハワード・ヒューズ』(ジョン・キーツ著・ハヤカワ文庫・940円)はその生涯を描いたノンフィクション。ハリウッドでの映画制作や航空機事業にのりだし成功を収めながらも、晩年は妻とも会わない孤独な生活を送った。彼の人生の、航空関係に焦点を絞った伝記では『ハワード・ヒューズ――ヒコーキ物語』(藤田勝啓著・イカロス出版・1890円)がある。
 コール・ポーターやフィッツジェラルド、ヘミングウェイやピカソなど華やかな名前が多数登場する、マーフィ夫妻の半生『優雅な生活が最高の復讐である』(カルヴィン・トムキンズ著・青山南訳・新潮文庫・540円)は、1920年代の華やかな時代を生きた2人の生活を紹介している。彼らは「快適な生活とひどい仕事、ないしは、ひどい生活と美しい仕事、どっちかだよ。」というレジェの言葉をよく引いていたという。1929年の世界恐慌により、その優雅な生活も終わりを告げることになるが、その趣味のよさは永遠である。 
 鉄鋼王として築き上げた事業をモルガン財閥に売却し、その後の人生を慈善事業に捧げたのは、カーネギー・ホールで有名なカーネギーである。『カーネギー自伝』(中公文庫ビブリオ・940円)を読めば、カーネギー・ホールはその慈善事業のほんの一部なのだとわかる。
カネが邪魔でしょうがない』(紀田順一郎著・新潮選書・1050円)は、明治初期から大正時代にかけての成金列伝である。豪邸を構え、愛人を囲うという典型的な「成金」イメージのルーツはこのあたりにあるのだろうか。この本の登場人物たちは、たいてい晩年は落魄して貧乏になる。驕れるものは久しからず、と溜飲を下げられるのだが、そのギラギラした上昇志向は、とかく無気力だといわれる今の世の中には参考になるのかもしれない。あとがきによると、豊臣秀吉は「おごらずとても久しからず」と言ったという。気になる言葉だ。