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昭和48年からスタートした東映映画「仁義なき戦い」シリーズは、公開後30年以上を経て、なお新たなファンを獲得しつづけている。シリーズの脚本家・笠原和夫と監督・深作欣二の2人が平成15年の正月を挟み相次いで亡くなった頃からブームは再燃し、出版界でも関連本がたくさん発行された。
今年に入り、笠原和夫が脚本執筆のため作成した取材ノートが『「仁義なき戦い」調査・取材集成』(太田出版・3360円)として単行本にまとめられ、そろそろ関連本は出尽くしてきた観がある。ここらで、ブームを振り返ってみたい。
「仁義なき戦い」シリーズはよく知られているとおり、戦後の広島やくざ抗争を描いた飯干晃一のノンフィクション『仁義なき戦い』(全2冊・角川文庫・「死闘編」441円・「決戦編」525円)をベースに、笠原和夫が事件を再取材して脚色し、深作欣二監督によって映画化された東映実録路線の映画である。
深作欣二はそれまで東映のアクション映画を中心に活躍しており、「仁義なき戦い」で名声を確立した後は「柳生一族の陰謀」、「蒲田行進曲」、「バトル・ロワイアル」などの大作や話題作も監督している。没後に刊行された『映画監督深作欣二』(山根貞男編・ワイズ出版・4410円)はその全作品についてのインタビュー集。深作欣二が得意とした群像劇が、どのような視点から撮影されたのか、みっちりと語られている。
一方、笠原和夫は昭和30年代から、東映専属の脚本家として美空ひばり主演映画や時代劇、任侠映画などの脚本を担当していた。当初はプログラムピクチャーの仕事を職人的にこなしていたが、昭和四十年代にはテロリスト、やくざ、太平洋戦争など、昭和の「闇」を徹底した取材に基づいて描くようになる。
そのキャリアは死去の直前に刊行された大冊『昭和の劇』(荒井晴彦、すが秀実著・太田出版・4500円)において自身の言葉で詳細に語られている。企画の成り立ちや作劇法など、ファンにはたまらない話題が満載。本書ではまた同時に、作品の題材となった昭和史の裏側が笠原の視点からつづられており、映画ファンのみならず、近代史について興味を持つ人にとっても非常に読みごたえのある本に仕上がっている。
笠原和夫はエッセイも多く残している。『破滅の美学』(ちくま文庫・819円)は、取材で知り得たヤクザ、軍人たちの実際の姿を描いたもの。登場人物のモデルになった人たちも多数登場し、生々しいエピソードが披露されている。
『「妖しの民」と生まれきて』(ちくま文庫・819円)は、自伝的なエッセイ。取材を徹底する笠原らしく、一家の系図から筆を起こし、自身の「非エリート」な生い立ちを語る。骨太な笠原作品の背景を知ることができる。
『映画はやくざなり』(新潮社・1575円)では、東映に入社して数々の名作をものにした時期のエピソードを披露している。また脚本執筆の秘訣をまとめた「秘伝シナリオ骨法十箇条」も収録されている。取材、プロット造りなどの要点が解説されるが、それより印象に残るのは「ドラマ熱」のくだりである。
脚本家は、自身の構築したドラマの重みに耐えきれず、生理に変調を来して、しばしば高熱を発した状態でクライマックスを執筆するという。笠原作品の名セリフもこの「ドラマ熱」に浮かされた状態から自然に出てきたものらしい。
また『笠原和夫 人とシナリオ』(シナリオ作家協会・3568円)は「総長賭博」「日本暗殺秘録」「仁義なき戦い 代理戦争」「県警対組織暴力」など、笠原和夫の代表作七本を収録している。
さて、深作欣二と笠原和夫のコンビで製作された「仁義なき戦い」シリーズは大ヒットを記録し、5作品が公開された(ただし、笠原の脚本参加は4作目まで)。次にこのシリーズに密着した本を紹介していこう。
『「仁義なき戦い」をつくった男たち』(山根貞男、米原尚志著・日本放送出版協会・1680円)は、深作欣二と笠原和夫を中心に、東映プログラムピクチャーの歴史なども絡めながら、シリーズの魅力を多角的に分析している。2003年5月に同タイトルで放映されたNHKの特集番組を書籍化したもの。シリーズの背景が手堅くまとめられており、入門書としては最適だろう。
『仁義なき戦い浪漫アルバム』(杉作J太郎、植地毅編著・徳間書店・1890円)は、重症の「仁義」マニアたちが作り上げたファンブック。複雑な人物関係を整理した詳細な作品解説はもちろん、作中登場する広島弁の紹介、京都での撮影地巡り(東映京都撮影所で製作されたため、ほとんどのロケは広島ではなく、京都市内で行われている)、監督・脚本家その他スタッフへのインタビューなど、盛りだくさんの内容だ。
「仁義なき戦い」シリーズは、広島で実際にあったやくざの抗争事件を題材としている。冒頭で紹介した飯干晃一の『仁義なき戦い』以外にも、この実際の事件を描いた本はいくつか出ている。
洋泉社ムック『実録「仁義なき戦い」外伝』(1365円)は、当時の広島やくざ社会の状況を含めて、作中人物のモデルとなった人々の紹介など、映画との関係を重視しながら実際の抗争を取材している。
映画のモデルとなった広島やくざの中で、特に伝説な人物として人気があるのが「悪魔のキューピー」と呼ばれた大西政寛と「殺人鬼」山上光治である。この二人を主役に置いたドキュメンタリーが『広島ヤクザ伝』(本堂淳一郎著・幻冬舎アウトロー文庫・600円)。映画で描かれた以上に過激で凶暴な生き様を知ることができる。
今でこそ70年代を代表する邦画の一つとされる「仁義なき戦い」だが、製作時は東映プログラムピクチャーの一本として企画された。では、このような映画を生み出した東映という会社はどのような組織だったのだろうか。
まず『波瀾万丈の映画人生』(岡田茂著・角川書店・1785円)は、昭和46年から東映の2代目社長に就任した著者の自伝。時代劇の黄金時代、そして任侠映画から実録路線へと、現場を指揮した敏腕プローデューサーの興味深く貴重な証言が満載の本だ。
『惹句術』(関根忠郎、山田宏一、山根貞男著・ワイズ出版・2957円)は、映画の宣伝コピーを考える「惹句師」をテーマにした本。東映宣伝部に勤めた関根忠郎氏にインタビューする形式で、東映の宣伝の歴史を振り返る。「殺(と)れい!殺(と)ったれい!」や「《盃》は騙し合いの道具ではなかった筈だ…!」など、男のボンクラ魂にボッと火をつける名文句が誕生した背景を、詳しく紹介している。
深作欣二によって映画化された、つかこうへいの『蒲田行進曲』(角川文庫・399円)は、東映京都撮影所を舞台にスター役者と大部屋俳優との関係を描いた小説。大部屋俳優とは時代劇の斬られ役、やくざ映画のチンピラ役など、観客の目には「その他大勢」と映る役者たちだが、深作欣二の演出はこの大部屋俳優に大きくスポットライトを当てたことで知られている。
そのような役者の一人で「仁義なき戦い」にも出演し、現役時代の回想を『どこかで誰かが見ていてくれる』(集英社文庫・600円)にまとめた福本清三は、最近になってハリウッド映画「ラスト・サムライ」に印象的な役で出演し、大きな話題となった。
最後に、深作欣二・笠原和夫と同時代に活躍した東映の監督の関連本に触れておきたい。
笠原和夫脚本の「日本暗殺秘録」を監督し、実録路線でも活躍した中島貞夫はインタビュー集『遊撃の美学』(ワイズ出版・3990円)がある。また、つい先日亡くなった石井輝男は『石井輝男映画魂』(ワイズ出版・3978円)という本が出ている。
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