|
中秋の名月、つまり旧暦の8月15日は、今年は9月18日にあたるそうだ。毎日忙しい生活を送っていると月がどっちに出ているのか知ることもないが、一年でいちばん月が美しく見えるというこの機会に本を片手に空を見上げてみよう。
月には兎が住んでいる、と昔の人も本気で信じてはいなかっただろうが、1969年7月21日にアポロ11号が月へ降り立ったことでそういったファンタジーは完全に否定されることになった。「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」とアポロ11号の船長・ニール・アームストロングが言った、人類を月へはこんだアポロ計画とはどのようなものだったのだろうか。1961年、ソ連のガガーリンによる有人宇宙飛行に対抗して、ケネディ大統領は、十年以内にアメリカは人類初の月着陸をなしとげてみせると宣言する。デイヴィッド・スコット、アレクセイ・レオーノフ著『アポロとソユーズ』(ソニー・マガジンズ・2100円)は、その両国の競争の真っ只中にいたデイヴィッド・スコットとアレクセイ・レオーノフの二人の宇宙飛行士のドキュメントである。エリート・パイロットだったデイヴィッド・スコットと、父がスターリンの粛正にあい、貧しい少年時代を送ったアレクセイ・レオーノフだが、月にかける思いは同じ。時間軸に沿って話が進むのでわかりやすい。 『アポロとソユーズ』が宇宙飛行士のドキュメントなら、『月をめざした二人の科学者』(的川泰宣著・中公新書・819円)は2人の科学者の軌跡を追っている。アポロ計画を成功させたフォン・ブラウンと、スプートニクを打ち上げたコロリョフである。ナチスのもとで大型ロケットを開発していたフォン・ブラウンと、粛清で強制収容所に送られた経験もあるコロリョフの二人が宇宙ロケットを打ち上げ、ついに亡くなるまでの生涯を描く。 立花隆が宇宙飛行士を取材している『宇宙からの帰還』(中公文庫・840円)には、アポロ11号に乗り、二番目に月へと降り立ったバズ・オルドリンについても言及されている。たいていの宇宙飛行士は自分が体験したことを人に話すのは半ば義務だと感じインタビューにも積極的に応じてくれるが、彼はそうではなかった。その理由を探ると、冷戦やNASAの予算獲得に絡んださまざまな思惑が交錯する宇宙計画の状況がみえてくる。そのほか、月から地球を見る体験をした人の、神秘体験を得て神の存在を確信する人もいれば、うつ病になった人もいる現状をレポートしている。上下や高低のない宇宙空間を体験し、地球を外から見た人は、概して視野がひろがったとされている。月という宇宙空間は人の体にどういう影響を与えるのか。『宇宙医学入門』(マキノ出版・1470円)は、骨や筋肉が衰え、背が伸びるというよく知られた事実ばかりではなく、精神的なストレス対策についても言及している。また宇宙船の中では筋肉ばかりではなく心肺機能も落ちていくため、ロシアでは大リーグ養成ギプスのような「ペンギンスーツ」というものも開発されたとか。通常の宇宙服の解説も詳しい。さらに地球とは違い、短時間で夜と昼がいれかわる宇宙空間では睡眠のリズムが狂いやすい。それを24時間周期を保つための方法なども紹介されている。これは地球にいるわたしたちにも役に立ちそうだ。 現実の宇宙開発に決定的な影響を与えたのが、ジュール・ヴェルヌの小説『月世界へ行く』(創元SF文庫・525円)である。武器マニア「大砲クラブ」の面々が月に砲弾を設置しようとし、結局二人のアメリカ人と一人のフランス人を乗せたロケットが月へ発射されることになる物語だが、1969年という設定で(アポロ11号が月へ降り立ったのも1969年)、19世紀からみた未来の科学はこんなふうだったのかと想像するのも楽しく、また、文明批評として読んでも楽しめる。まるで冷戦時代を予言しているかのような内容ともとれる。
月は地球の衛星ということは知っているものの、それ以上のことはよくわからない、という方も多いのでは。 大判のA・ルークル著『エリア別ガイドマップ 月面ウォッチング』(地人書館・5040円)は、地球から見える面の地形を、76のエリアに分けて紹介している。クレーターには、それを発見した科学者たちの名前がつけられている場合が多い。この本では地名とその由来に詳しくなれる。ジュンク堂池袋本店では月球儀も販売している(15750円)。普段月は同じ面ばかり地球に向けているが、地球から見えない月の裏側もじっくりと観察できる。 『月のすべて』(朝倉書店・4410円)には月の裏側の写真も載っている。月の内部構造や、隕石ばかりではなく、地球の地震と同じような原因からおこる月の地震「月震」などについても解説してある。重力が地球の六分の一しかないという月の様子を想像することができる。こちらも大判で写真も多い。 円盤をまわして今日の月齢がすぐ調べられる『月の動きがよくわかる光る星座早見』(三省堂・1050円)は、光る素材で印刷された星座盤。暗いところでだんだん発光していくインクなので、外に持ち出して実際に月を観察しつつ使うときにとても便利。惑星や彗星のシールもついていて、子どもの学習にも最適。 『もしも月がなかったら ありえたかもしれない地球への10の旅』(ニール・F・カミンズ著・東京書籍・2310円)は、「もしも月がなかったら?」「もしも月が地球にもっと近かったら?」などの疑問をシュミレーションする思考実験。九月二十五日で終了する「愛・地球博」にはこの本をテーマとしたパビリオンもあり、人気だそうだ。一方、松岡正剛の『ルナティックス』(中公文庫・980円)は、太陽は見るからに野暮ではないか! として月にまつわる蘊蓄をかたむける。現実の月のことではなく、月について人間はどう表現しているのかを、自らの該博な知識から惜しげもなく披露している。章立てもちょうど十二ヶ月と、内容にあわせて設定されている。巻末には月神譜つき。世界の月の神たちに詳しくなれる。 『月からのシグナル』(根本順吉著・筑摩書房・1260円)は、月そのものについての概説からはじまって、中国は月を表す単語が他の国にくらべて多いだとか、また各国に伝わる月の神話について、さらに「月夜のカニには身がない」などという、経験として知られている月に関する事実について考察している。 ダイアナ・ブルートン『月世界大全』(鏡リュウジ訳・青土社・4935円)はアポロ11号の探査など科学的なことから、巨石文化から引き出される天文考古学の成果、オカルト、神話、伝説を網羅した大著。小林秀雄の『考えるヒント』(文春文庫・590円)には「お月見」というエッセイが収録されている。月見の席で、たまたま参加していたスイス人が、今日の月には何か特別なことがあるのかと疑問を言いだしたことに関するエッセイ。日本人特有の月に対する思いについて考察する。 月見をするとき、はたして月を見ているだろうか。花見のときも花を見ている人はほとんどいない印象があるが、月見の場合も同様。そんな状況に異を唱え るのが中野純著『月で遊ぶ』(アスペクト・1575円)である。体験作家という珍しい職業の著者が、「飲月」「闇うさぎ」「携帯月虹」など他愛が無いがオリジナリティのある遊びを繰り広げる。「月遊び」とは聞きなれない言葉だが、この本を参考にすればきっとオーソドックスな月見から脱却することができるはずだ。 イタロ・カルヴィーノ著『レ・コスミコミケ』(ハヤカワepi文庫・840円)『柔かい月』(脇功訳・河出文庫・893円)は、語り部Qfwfq氏が繰り出すホラ話(?)。はしごをかけられそうなほど月が近くにあったころの話や、どろどろの月が地球に落ちてくる話など、幻想的かつ奇想天外な話をまるで見てきたように物語る。
空にぽっかりと浮かぶ月はフォトジェニックなのか、写真集もたくさん出版されている。 金子みすゞや石川啄木などの月にまつわる詩と月の写真をあわせた写真集『月の記憶』や、「月と伝説」「月と万葉集」「月と文学」「月と俳句」「月と童謡」の五章からなる写真集『月の時間』(どちらも森光伸写真・光村推古書院・1260円)がある。 林完次写真『月の本』(角川書店・二六二五円)は、林望「運命」、竹内均「月の神秘」、高山宏「月の図像学」などのエッセイと月の写真のコラボレーションだ。同じく林完次写真『月物語』(光人社・945円)はポストカード集。十六夜、上弦の月、皆既月食などのいろいろなかたちの月のポストカードが集められている。 写真集『銀の月』(西島義和著・ピエブックス・1890円)は主に日本の空にあがった月の写真集。ハワイやオーストラリアでの撮影もあり、エアーズロックの上の月は圧巻だ。全篇モノクロームなので、かえって想像力をはたらかせることができる。 石川賢治写真『月光浴』(小学館・3570円)には月は写っていない。これは満月の光だけで撮影された写真集なのだ。被写体は、どれも少し暗いけれどやさしくまるく写し出されている。『地球月光浴』(3990円)『京都月光浴』(3780円)という続篇もある。
地球が太陽の周りを一回転する期間を一年と定める太陽暦を使用している現代では、あまり月は日常生活に関係していないように思えるが、最近は旧暦=太陰太陽暦も見直されてきており、旧暦の行事などを紹介する本も人気がある。
月の物語といったら、まず誰もが知っている『竹取物語』(岩波文庫など)がある。ビジュアルを多くし、その時代背景もよく理解できるビギナーズ向け『竹取物語』(角川ソフィア文庫・560円)は現代語訳が主だが古文も併記されている。
|