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2005年度は「日本におけるドイツ年」。1999年度にドイツで開催された「ドイツにおける日本年」に呼応して開催されている。文化、科学、経済など多岐の分野にわたった催しが全国で企画されているが、それについては「日本におけるドイツ年」の公式サイトを見ていただくとして、今回の特集では、今手に入るドイツ年をより楽しむための本を駆け足で紹介したい。
本屋でいちばん親しめるドイツといったら文学だろう。子どもの頃に読んでいた本の作者がドイツ人だということを大人になってから発見することもあるはず。 『グリム童話』の国だけあって、ドイツには児童文学においても名作が揃っている。例えば、誰もが知っているミヒャエル・エンデの『モモ』(大島かおり訳・岩波書店)。赤いケースに入った愛蔵版(2940円)はこれまでもプレゼントとして人気があったが、最近になって岩波少年文庫版(840円)が発売された。エンデには他にも、映画の原作として有名な『はてしない物語 上下』(上田真而子訳・岩波少年文庫・上756円・下840円)や『ジム・ボタンの機関車大旅行』(上田真而子訳・岩波書店・1890円)など多くの作品がある。そんな「エンデワールド」の源泉を感じさせるのが、『鏡のなかの鏡』(丘沢静也訳・岩波現代文庫・1050円)だ。この作家の実父であり、シュール・レアリスティックの画家エドガー・エンデの挿絵と共に、子供向けとは一味違う、もっと哲学的で濃密な幻想世界を味わうことができる連作短編集だ。 エンデと並ぶドイツの児童文学作家にエーリヒ・ケストナーがいる。『飛ぶ教室』(若松宣子訳・偕成社文庫・735円)や「エーミール」シリーズなど、たくましい子ども達が活躍する作品が彼には多い。名前が印象的な『点子ちゃんとアントン』(池田香代子訳・岩波少年文庫・672円)もその一つ。ちなみに点子ちゃんはドイツ語のPunktchenをそのまま翻訳したものだそうだ。また『ケストナーの「ほらふき男爵」』(池内紀、泉千穂子訳・ちくま文庫・998円)は、「ガリバー旅行記」や「長靴をはいた猫」などのおなじみの物語をケストナー流に再話したもの。この作家の作品を多く手がけた、トリヤーやレムケの挿絵がカラーで入った、贅沢な一冊だ。 作家プロイスラーと聞いてぴんとこなくても、『大どろぼうホッツェンプロッツ』(中村浩三訳・偕成社文庫・945円)を知らない人はいないだろう。おばあさんのコーヒーひきを盗む、ちょっとまぬけな大どろぼうを少年たちが追跡するこの作品、実は作者が他の作品の執筆で行き詰っていたときに生まれた作品だった。その難航していた作品が『クラバート 上下』(中村浩三訳・偕成社文庫・各735円)だ。ドイツのラウジッツ地方の伝説を基に、11年の歳月をかけて練り上げられた。少年クラバートが夢に誘われて水車場の見習いとなり、昼間はそこで働きながら、金曜の夜は12羽目のカラスとなって、親方から魔法を習う。陽気なホッツェンプロッツとは違う、本格ファンタジー長編だ。 コルネーリア・フンケの『どろぼうの神さま』(細井直子訳・WAVE出版・1890円)は、祖父の家を逃げ出して、ヴェネツィアの映画館の廃墟にこっそりと暮らすプロスパーとボー兄弟の冒険小説。「どろぼうの神様」と名乗る少年怪盗が登場し二人を助けるという、子ども達が胸を躍らせる展開になっている。フンケの作品には、他にも『竜の騎士』(細井直子訳・WAVE出版・1890円)や『魔法の声』(浅見昇吾訳・WAVE出版・1995円)がある。 ペーター・ヘルトリングの『ヨーンじいちゃん』(上田真而子訳・偕成社・1470円)は、「んのっ」が口癖のヨーンじいちゃんと、孫たちとの愉快な交流を描いた、心温まる作品。新しい家族になったおじいさんが、皆を困らせたり、喜ばせたりしながら、家族としての絆を深めていく様子が、生き生きと描かれている。また『ヒルベルという子がいた』(上田真而子訳・偕成社文庫・735円)は、病気のために心を閉ざしてしまった少年と、彼を取り巻く大人たちとの関係を扱った問題作だ。 近年日本でも人気が出ている、ドイツの絵本作家に、ヤーノシュがいる。ちょっとわがままな小さなトラと、優しくて料理好きの小さなくまの仲良しコンビが有名だ。病気になって甘えるトラを、くまが健気に看病する姿が微笑ましい『ぼくがげんきにしてあげる』(石川素子訳・徳間書店・1631円)や、家の仕事をさぼってばかりのトラが、わがままでお調子者の小さなブタに翻弄される『ぼくがおうちでまっていたのに』(石川素子訳・徳間書店・1680円)など、読むと元気になること間違いなし作品ばかりだ。他にも「はいや、やー!」の掛け声が楽しい『それゆけ、フェルディナント号』(つつみなおこ訳・徳間書店・1470円)や、花も実も一つもつけなかったリンゴの木に、ある日巨大なリンゴの実がなる『おばけリンゴ』(やがわすみこ訳・福音館書店・1260円)などがある。 ミヒャエル・ゾーヴァは、一見かわいいのに、どこか奇妙な作風で知られる、ベルリン在住の画家だ。映画『アメリ』の主人公の部屋に飾ってあった絵で、ゾーヴァをご存知の方も多いかもしれない。挿絵画家としても人気があり、『ちいさなちいさな王様』(アクセル・ハッケ・講談社・1365円)『エーリカ』(エルケ・ハイデンライヒ作・三浦美紀子訳・三修社・1680円)では、ゾーヴァのイラストが作品の魅力の一つになっている。最近の作品では、オブローモフという名前の犬を主人公に、実在のバレエ・ダンザーのヌレエフや作家のカポーティが登場する『ヌレエフの犬』(エルケ・ハイデンライヒ作・三浦美紀子訳・三修社・1260円)がある。日本で初の本格的な原画展が行われた6月には、未発表作品も含めた代表作45点を収録した『ミヒャエル・ゾーヴァの世界』(講談社・3000円)や、画文集『少年のころ』(那須田淳文・小峰書店・2940円)が立て続けに発売され、ますますファンを増やしている。 「 もうねなさい」と言われたのに、まだまだねむたくないもん、と逆立ちした主人公アンナとともに、ページもひっくり返ってしまうのが『月夜のオーケストラ』(イェンス・ラスムス作・小学館・1470円)。猫のルドルフシリーズで有名な児童書作家の斉藤洋が、翻訳を手がけている。知らずにページを開くと、乱丁かと思ってしまうから要注意の、楽しい絵本だ。ドイツの古典的絵本の傑作にDerStruwwelpeterがある。これは、1844年のクリスマスに医師のハインリッヒ・ホフマンが、息子へのプレゼントのために書いた教訓絵本で、指しゃぶりをやめないと、指をちょん切られてしまいますよとか、火遊びするとこんな怖い目にあいますよと、子供たちに諭す内容になっている。髪も爪も伸び放題の男の子が呆然と立っている表紙はとにかくインパクトがあって、一度読んだら忘れられない不思議な魅力のある絵本だ。とぼけたユーモアが漂う本書は、各国語に翻訳されており、『ぼうぼうあたま』(いとうようじ訳・教育出版センター・1529円)『もじゃもじゃペーター』(ささきたづこ訳・ほるぷ社・2310円)など日本語版もいくつか出ている。その現代版であるDerAnti-Struwwelpeterを書いたことでも知られるF・K・ヴェヒターの作品が、『赤いおおかみ』(小澤俊夫訳・古今社・2415円)だ。人間の世界から転がり落ちて、オオカミの群れで育った、ある犬の数奇な運命を描いている。赤い犬「ぼく」の一人称で淡々と語られる生と死の物語は、不思議な静けさと清々しさを感じさせる。 『マウス はるなつあきふゆ』『マウス いまなんじ?』『マウス おでかけしようよ』(イーナ・シュタインメッツ画、マルティン・フライ・ボルヒャース、カーレン・ティーロ著・プチグラパブリッシング・各924円)は、「日本におけるドイツ年」のマスコットキャラクターの絵本。マウスはドイツで30年にわたって親しまれている人気テレビ番組のキャラクターだ。オレンジの体に茶色の耳、それに眠たそうな目がトレードマークの憎めないやつ。ドイツでの認知度は実に95パーセント以上というから、日本で言えばさしずめ「ドラえもん」だろうか。今回の「ドイツ年」をきっかけに、日本でもおなじみの存在になるかもしれない。
ドイツ文学の代表的な文学者といえば、ゲーテ、ヘッセ、カフカ等スラスラと名前を挙げることができる。どれも教科書にも載っている文豪ばかり。 ゲーテの『ファウスト』は、映画や小説など、様々な物語のモチーフとして使われ、また現在でも新訳が出続け、文学の中で忘れ去られることはない。最近では2000年に、ドイツ文学者の池内紀によって翻訳されている(『ファウスト』集英社文庫・第一部720円・第二部980円)。 池内紀は、『ゲーテさんこんばんは』(集英社・1995円)という著書を上梓しており、齋藤孝も『座右のゲーテ』(光文社新書・735円)を刊行するなど、ゲーテに親しむ手がかりとなる書籍は多数出版されている。なぜゲーテに親しみたいのか、それは『ゲーテ先生、生きる知恵を聞かせて』(マンフレート・ヴォルフ編著・村瀬有編訳・鳥影社・1890円)が答えを教えてくれる。重厚な印象があるからこそ、人生のいざというときに頼りにしたいのが、ドイツ文学のようだ。 ちなみに他の文豪の新訳についてご紹介すると、カフカはこれまた池内紀が斬新な新訳で、白水社から『カフカ小説全集』(全六冊・2940円〜4515円)が出ている。ヘッセは現在臨川書店より『ヘルマン・ヘッセ全集』(四巻3150円・九巻2940円)を日本へルマン・ヘッセ友の会・研究会編で刊行中である。 また、トーマス・マンもドイツ文学を語るうえで忘れてはならない作家だ。20世紀の教養小説をはじめとして、ドイツ文学に多大な影響を与えた。『魔の山 上下』(新潮文庫・各840円)といえば必ず文学史に登場するし、ルキノ・ヴィスコンティ監督で映画化された『ヴェニスに死す』(岩波文庫・420円)は映画について詳しくない人でもそのタイトルを聞いた事があるだろう。 『ブリキの太鼓』(集英社文庫・第一部550円・第二部580円・第三部500円)や、『女ねずみ』(国書刊行会・2854円)などで知られるノーベル文学賞受賞作家のギュンター・グラスの作家活動では戦争の影響がやはり大きい。政治的発言もしている。82年のフェルトリネッリ賞の受賞講演で「アウシュヴィッツの後で書くこと」と題した講演を行っている。 現代ドイツ文学はその他にも優れたエンターテイメントであるパトリック・ジュースキントの『香水』(文春文庫・770円)や『夏の家、その後』(ユーディット・ヘルマン著・河出書房新社・1680円)、『干潟の光のなかで』(ハンス・ヨゼフ・オルトハイル著・エディションq・2415円)などまだまだ紹介されるべき多くの書籍がある。
ドイツの文化で特に日本人が親しんでいるものといったら音楽だろう。バッハやベートーヴェンの曲解説や人物伝などは数多いので、店頭で存分に選ぶことができる。ここでは、書店の音楽書コーナー以外の棚に入れられていることが多い本に限定して、紹介したい。 『バッハの思い出』(山下肇訳・講談社学術文庫・1050円)は、バッハの妻が夫であるバッハの生涯を語る、という形式で書かれた本。バッハの音楽だけではなく18世紀の生活も想像することができる。平凡社ライブラリーの『バッハの四季』(樋口隆一著・1260円)では、教会のオルガン奏者でもあったバッハの曲がどのような教会の行事のために作られたのか、季節の移り変わりに沿って紹介する。平凡社新書の『ゲーテとベートーヴェン』(青木やよひ著・903円)は、1812年にボヘミアで出会ったという詩聖と楽聖の友情を研究している。 『ベートーヴェンの遺髪』(ラッセル・マーティン著・白水社・2100円)は、1994年にサザビーズの競売にかけられたベートーヴェンの遺髪が本物なのか、どういう来歴なのかを探る歴史ノンフィクション。 『ニーベルングの指環 上下』(あずみ椋画・講談社+α文庫・各980円)はワーグナーのオペラをコミックで読める。宇野功芳による名演解説もついていて、超大作オペラを理解する手助けになってくれる。 音楽6月には現代音楽の巨匠カールハインツ・シュトックハウゼンが28年ぶりに来日した。『シュトックハウゼン音楽論集』(現代思潮社・4410円)ではより深く思想にも触れられる。ポップミュージックについては、テクノの先駆者・クラフトワーク周辺について『ドイツのロック音楽』(明石政紀著・水声社・2625円)という本が出版されている。これまた6月に来日していたピナ・バウシュの半生と作品についての入門書は『ピナ・バウシュ 怖がらずに踊ってごらん』(フィルムアート社・2100円)。 ドイツ演劇については、ベルリンの壁崩壊以前/以後にドイツ演劇がどう変化したかをレポートする『演劇都市ベルリン』(新野守広著・れんが書房新社・2100円)がある。
第二次大戦からちょうど60年の今年。「日本におけるドイツ年」は特に歴史に関する催しに力が入れられているわけではないが、どんな催しに参加するにせよ、それらは基礎的な知識としておさえていた方がいいに違いない。
国内の催し物に飽き足らず、ドイツへ行ってみたくなった方のためにドイツの旅についていくつか本を紹介しよう。 |