書標 2005.6月号
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 この季節、結婚式でスピーチを頼まれる機会が多い。憂鬱だ。あたりさわりのない内容でかつ退屈させないようなスピーチなどなかなかできるものではない。そこで『聞く人の心を打つ結婚式・祝い事スピーチの手帳』(小学館・1050円)といった本の出番となる。慣れないことをすると声もふるえてしまう。震え声のスピーチではおめでたさも半減だ。声にはどんな効果があるのか、声とは何か。今回は演説から文化背景まで、声の本を集めました。

■演説

 演説というのは声の魅力をフルに使わないと迫力に乏しい。
 歴代のアメリカ大統領の演説を解説した『大統領の英語』(松尾弌之著・講談社学術文庫・1260円)によると、大統領選挙ではスピーチが勝敗に大きく影響するという。原文を参照して、字面の意味だけではなくアメリカの文化的な背景まで深く掘り下げて解説している。
大統領の英語ビル・クリントン』(朝日出版社・1995円)は、スピーチをまるごと収録したCDつきだ。不適切な関係を釈明したスピーチも入っている。聞き取りやすく、わかりやすく話しているということがよくわかる。
リンカーンの三分間 ゲティスバーグ演説の謎』(ゲリー・ウィルズ著・共同通信社・2548円)には、教科書にも載っている「人民の、人民による、人民のための政治」という一節を含んだ演説の全文が掲載されている。19世紀中盤のことなのでもちろん録音が残されているわけでもなく、おそらくこう言っただろうという推測まじりのものだが、案外短い。タイトルにあるとおり3分間で終わってしまうのだが、後世に残した影響ははかりしれない。
天皇の玉音放送』(小森陽一著・五月書房・2520円)には、よく言及されているが実際に聞く機会はほとんどない玉音放送のCDがついている。
 また、ナチス・ドイツが演説にプロパガンダとしての効果を認め、研究していたのは有名である。ヒトラーは演説の天才だったと言われている。『ナチ・ドイツと言語 ヒトラーの演説から民衆の悪夢まで』(宮田光雄著・岩波新書・777円)などでもその一端が窺える。

■話し方

 演説に限らず、人が話すことについては古くから研究がある。アリストテレスの『弁論術』(岩波文庫・903円)は、プラトンの見解では「慣れ」の問題だとされていた弁論術の技術を整理している。
 自己啓発本の元祖として有名な『人を動かす』(創元社・1575円)を書いた、デール・カーネギーの『話し方入門』(創元社・1575円)は、アメリカではベストセラーとなった本。株式投資家のウォーレン・バフェットも受講したというデール・カーネギーの話し方教室。この本を読めば実際に受講しなくてもそのノウハウを学ぶことができる。大統領や作家たちのスピーチからの引用が多く、彼らも最初から完璧に話せたわけではないとわかり、勇気づけられる。
 活動写真の弁士で漫談家で俳優で小説家でもあった徳川夢声が、仕事を通して会得した話す技術を披露した本が『話術』(白揚社・1890円)だ。彼が最も人気を得ていた1949年に出版され、ベストセラーになった。この本自体がまるで目の前で徳川夢声が話しているかのように書かれている。
 発声について具体的に学べる本には、次のようなものがある。『声の呼吸法 美しい響きをつくる』(米山文明著・平凡社・1890円)は、声をよくするために必要な知識をまとめ、具体的なエクササイズも紹介している。骨や筋肉の仕組みなども学びながら、呼吸と声の関係について身体で理解できるように図も交えて説明している。
声がよくなる本』(主婦と生活社・693円)は、より実用的な本。録音して自分の声を聞くと違和感がある。これはふだん頭の中に反射した音を聞いていて、それを自分の声だと認識しているからなのだ。もっと若々しく話したい、言葉がはっきりしない、などの悩みにもひとつひとつ答えてくれるので問題を解決できる。声のトレーニングをする人が必ず練習する「外郎売」の文句も載っている。
 同じ著者の『プリマドンナの声帯』(朝日新聞社・1995円)は、来日したオペラ歌手たちの喉を診断した記録。オペラ歌手の声帯は、一般の人に比べて長く大きい場合があるそうだ。大きくかつ低い声を響かせるには練習もさることながら持って生まれた声帯にも関係があるとか。声帯の形状と声の関係を細かく説明してある。自分の声帯の形がどうなっているのか知りたくなる。
NHK日本語発音アクセント辞典』(NHK出版・3990円)は、NHKのアナウンサーのような標準的な話し方を目指す人に最適。CD-ROM版もある(18690円)。
 さらに練習用としては、ベストセラーの『声に出して読みたい日本語』(齋藤 孝著・草思社・1260円)も便利だ。暗記すべき古典の名文や有名な詩を収録している。それぞれの作品には背景や作者のプロフィールなどが説明されていて、ただ読むだけではなくさらに興味がひろがるように工夫されている。最近では珍しく全てにルビがふってある本なので子どもでも一人で読むことができる。続刊や、大型の『子ども版 声に出して読みたい日本語 三巻セット』(3150円)など類書は多数ある。

■声と文化

 声は、使っている言葉や民族によって変わってくるという。『日本人の声』(鈴木松美編著・洋泉社新書y・756円)は、声を通して日本人とは何かということを浮かび上がらせている。第一章では、科学的に声とはどんなものかということを検証し、声から何がわかるのかを説明する。声紋を分析すれば、男の声か女の声か、背格好や年齢までわかるそうだ。第二章では、日本人の声の特徴を他の国と比べている。低くて渋い声がいいとされる理由や、あまり自己主張をよしとしない文化と声との関係について、バウリンガルの開発者でもある声紋研究の第一人者らが論じている。著者らは検察庁科学警察研究所や科学技術庁などで声について研究しているが、それらの研究は、もともと吉展ちゃん誘拐事件の犯人を脅迫電話の声から追及する必要にかられて始まったという。
日本語音声学のしくみ』(町田 健編・研究社・2100円)は、「シリーズ日本語のしくみを探る」の中の一冊で日本語の音声にまつわる疑問に答えるという形式の本。指で唇を左右に引っ張ると、「ガッキュウブンコ」って言えないのはなぜですか? 五十音図の順番には何か意味があるのですか? 「パンツ」はズボンですか? 下着ですか? などの親しみ易い疑問ばかりで、学問の入門書という堅苦しさは無い。
〈声〉の国民国家・日本』(兵藤裕己著・NHKブックス・1019円)は、1920年代に始まったNHKのラジオ放送で流れた浪花節の声が、日本人の民族意識の形成に大きな役割を果したと主張している。
口頭伝承論 上』(川田順造著・平凡社ライブラリー・各1680円)は、音声コミュニケーションとはどういうものかを文化人類学的に考察している。文字をもつ必要がない社会とはどういうものかをアフリカのモシ族を例に掘り下げる。毎日出版文化賞を受賞した。
声の文化と文字の文化』(W・J・オング著・藤原書店・4305円)は、グーテンベルクの発明による書籍の普及によって人間はどのように変化したかということを研究している。現代のように活字が当たり前になっている社会では、それが無い世界を想像できない。この本では、文字の無い世界の文化には文字のある世界とは異なる特徴が見られるということを比較して論じている。