書標 2005.6月号
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今月の表紙  その205 伊丹三樹彦


 忽然と天守現(あら)わる 松の花

 年を経ると、松の木に心惹かれるようになった。常緑樹は一体に地味だが、そこが逆に良く思えてくるのだ。とはいえ、晩春初夏の頃には花が咲く。蕋も立つ。その辺を俳句の季語で、〈緑立つ〉ともいうのだ。最近だが、東京は国分寺の殿ヶ谷戸庭園で、松手入を眺めていたところ、その作業を〈緑掻き〉と稱することを教わった。動詞なら〈緑掻く〉だ。これは立派な新季語になるのではないか。(手許の歳時記には載っていない)
 尤もこの写真は富山城である。出来心で大阪駅に来た特急が富山行だったので、その儘乗るという気儘な旅の所産である。城などは絵葉書写真になりがちだから、あちこち歩き廻って、近景にこの松の花をアップにして撮るのを思いついたのだ。雌雄同株で、花も蕋も備えている。それ以上に光の美しい午前だった。



(表紙題字 陳舜臣)