書標 2005.5月号
今月の表紙 歳時記〈5月〉 著書を語る 特集「めざせ不老不死」 書標・書評
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めざせ不老不死

 高齢化が叫ばれて久しい日本では、先日90歳以上の人口がついに100万人を突破した。平均寿命も82歳で、世界第1位を誇っている。60代で定年・引退を迎えても、まだまだ30年近い老後を過ごさなくてはいけないのだ。かつては不老長寿といえば人々の憧れだったかもしれないが、いまは生活や健康への不安をもつ人のほうが多いようだ。しかしどうせ長生きするなら、死ぬまで元気に楽しく過ごしたいものだ。そこで今回は幸せに年を重ねるための書籍を集めてみた。

■この人を見よ

 一口に老人といっても千差万別。例えば三浦家の人々は一般的な老人像とは程遠い。百歳の現役スキーヤー・三浦敬三、70歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎、その息子三浦豪太はオリンピック・モーグル競技に2回出場している。そんな三浦家三世代の強さの秘密を探ったのが、『三浦家の元気な食卓』(昭文社・1680円)だ。エベレスト登頂の時に食したという鍋料理や、毎日実際に食しているレシピを誰でも真似できる。三浦敬三さんは圧力鍋で調理をし、魚や鶏を骨ごと食べている。また、煮干をミキサーにかけて粉にしておき、いろいろなおかずにかけることで骨を丈夫にしているそうなのだが、これらすべて自分で調理し、工夫しているのだ。科学的に有効だと裏付けられたメニューと、それぞれのトレーニング法を交互に紹介した『三浦家のいきいき長生き健康法』(廣済堂出版・1575円)もある。
 白寿でモンブラン大滑降に成功した三浦敬三さんのエッセイは、『98歳、元気の秘密』(祥伝社・1300円)『99歳、モンブラン大滑降に挑む』(草思社・1890円)や、『百歳、山スキーと山岳写真に生きる』(草思社・1995円)など毎年出版されている。最新刊は『101歳の少年』(実業之日本社・1470円)。現在続けているトレーニングは50代から始めたそうで、一般に頭に思い浮かべる人生設計とはまるで話が違う。あの『生きかた上手』(ユーリーグ・1260円)がベストセラーとなった、90歳を超えて現役の医者である日野原重明さんとの共著『100歳「元気生活」のススメ “一生元気”を実現する生き方の処方』(祥伝社・1400円)では75歳からが人生の晴れ舞台だとしている。
 三浦雄一郎さんの著書には、『三浦雄一郎の元気力』(小学館・1260円)などがある。長生きをして、しかも元気でいる「サクセスフル・エイジング」を実践している人として、「元気」をつくるにはどうしたらよいのか、自分の経験から導き出して答えている。『高く遠い夢』(双葉社・1575円)は、60代のときはただのデブだったと自ら振り返っている著者が、五年かけてエベレストに登るまでと、エベレスト登頂日記、次の目標などを綴っている。
 三浦家以外でも、元気な人たちは大勢いる。『不老力』(ゴルフダイジェスト社・1260円)の著者塩谷信男は、明治35年生まれ、百歳の医学博士であり、現役ゴルファーでもある。もともと頑健な人だと思いがちだが、実は子供時代は病気がちな少年だったという。本書では14歳で出会った腹式呼吸法から試行錯誤を続けて、60歳のときにようやく完成したという「正心調息法」についても解説。その他、『大健康力』(ゴルフダイジェスト社・1631円)やゴルフ指南書も多い。
 『102歳のロビンソン・クルーソー』(マキノ出版・1470円)は、97歳の時に奥さんを亡くし一人暮らしを始めたという渡久地政瀧さんが、無理をしない自給自足生活を紹介している。百歳を超え、「テーゲー(ほどほどに)」をモットーに、早起きして野菜を作り、午後には三線を弾き島唄をうたう生活だ。
 ヘルマン・ヘッセの『人は成熟するにつれて若くなる』(草思社・1575円)は、読むとタイトルのような境地に達することができるかもしれない本。人生の後半だからこその素晴らしさを文豪が綴ったエッセイ。
 『思うとおりに歩めばいいのよ』(メディアファクトリー・1680円)は、ターシャ・テューダーの言葉を集めた本。絵本画家として有名な彼女の言葉は、経済的な豊かさを至上とするのではない、別の価値観に貫かれている。シリーズで、『楽しみは創り出せるものよ』『今がいちばんいい時よ』(どちらも1680円)もある。『暖炉の火のそばで』(3670円)は、長男が建てた家に住むターシャ・テューダーの手仕事を詳しく紹介した本。庭仕事をし、かごを編み、チーズやバターを手作りし、身の回りのものをほとんど手作りしている。また、長女がターシャ・テューダーの生い立ちや独特の世界について『小径の向こうの家』(メディアファクトリー・2100円)を書いている。築百年以上の水道も暖房もない家での暮らしをのぞき見することができる。
 『カナダ生き生き老い暮らし』(サンダース・宮松敬子著・集英社文庫・560円)は、60代で娘のいるカナダに移住し70代で海外一人暮らしを始めた母親について、娘が綴った本。トロントへ渡ってから、どんどん趣味を増やし、いろいろな人と交流していく。
 「この頃 思うんですけどね 何だか 私 死なないような気がするんですよ はははは は」と98歳にして言い放った宇野千代。それをタイトルとした『私何だか死なないような気がするんですよ』(集英社文庫・480円)では、老いてなお楽しい生き方を語っている。『生きて行く私』(角川文庫・620円)は自伝で、波瀾万丈の生涯をさらりと記述する。『私はいつでも忙しい』(中公文庫・800円)は、身近のことを題材にしたエッセイで、何をするにも全力で行う著者の生活が参考になる。『私の長生き料理』(集英社文庫・760円)は、なんでもない和食のようでいて著者なりの工夫が細かいところに感じられるレシピ集だ。
 女優という職業についている人は一般に若く見えるものだが、その中でも飛びぬけて若さを保ち続けているのが由美かおるだ。彼女は西野式呼吸法というものを実践していて、『由美かおるのダイエット呼吸法』(竹書房・1575円)などの教本をモデルも務め出版している。この本にはVHS版(3990円)やDVD版(6090円)もあり、わかりやすい。そのほかにも『美齢 西野流呼吸法のアンチ・エイジング』(サンマーク出版・1365円)、『若さのビューティー・スパーク』(竹書房・1575円)など著書は多い。
 古典『老年について』(キケロ著・岩波文庫・483円)では、84歳になる政治家・カトーが若者2人を自宅に迎え、老いについて講釈する。やはり若いときから鍛えておくことが重要らしい。老いた人間のひとつの理想像が描かれている。


■アンチエイジング

 老いてなお元気に生きるためにはどうしたらいいのだろうか。まずは第一歩として、そもそも老化とは何かを知ろう。『老化とは何か』(今堀和友著・岩波書店・735円)は、生命現象としての老化を科学的に理解する一助となる一冊。寿命や加齢といった用語が老化と混同されて議論されがちだが、その違いを特に細胞の死という観点から一般の人に向けて説明している。最終章では老化防止の因子を探す「疫学」の現状を紹介。
 また『老いをめぐる9つの誤解』(ダグラス・H・パウエル著・青土社・2520円)は、「老人というものは、多かれ少なかれ同じようなものである」や「老化とともに真っ先に衰えるのは記憶力である」といった、巷で聞かれる九つの誤解に答える形で、最適の老化とは何かを考える。目標は「加齢に必然的にともなう様々な制限の範囲内において機能を最大限に保つ」こと。本書はそのための、肉体・記憶力・社会性・心理など広範囲に渡る老化プロセスの研究成果をまとめたものだ。そう聞くと難しそうだが、筆者の身近にあった事例を取り上げているので読み物としても面白い。例えば、車の給油の際にキャップを付け忘れて失くしてしまった話。ある日キャップを忘れて、自分の「老い」を感じてしまった著者が、実際には老若男女を問わずキャップを忘れるなんてことは誰にでもあることに気付き、つまりそれを老化の現象として捉えてしまうことに老いに対する誤解がある、といったエピソードにはなるほどと感じる人も多いはずだ。
アンチエイジング入門』(田中 孝、中山芳瑛著・主婦の友社・1470円)は、話題の老化防止法を概観するのに最適な本だ。老化現象とはどんなものか、よいサプリメントの選び方、ホルモン療法、さらに加齢とともにほとんどの人が悩まされる肥満・高血圧・糖尿病などの防ぎ方をまとめてある。自分でできる抗加齢度チェックもいるので、まずはやってみて自分に適したアンチエイジング法を選んでみよう。
大島清の「快老」学』(麗澤大学出版会・1470円)は、大脳生理学の第一人者である著者が、自らの実践と体験を通して説く、溌剌と「快老」するためのノウハウ本だ。年齢に関係なく五感を総動員して脳に刺激を与え続けることによって、脳の劣化・老化は食い止めることができる。脳への刺激とは快楽を追うことでもあり、どんなに年齢を重ねても楽しむことできる人こそ「不老」になれるのだ。古稀を迎えて、一キロの水泳を週に三回楽しみ、藤沢・鎌倉間をマウンテンバイクで飛ばす著者の言うことだけに、説得力がある。食の重要性、視覚・聴覚・臭覚といった五感の刺激の仕組みについても分かりやすく解説されており、うつ病を早起きで克服した例や、悪い姿勢が脳に与える悪影響など、身近な話題もあって興味深い。巻末付録として毎日続けたい簡単なトレーニングがついている。また同じ著者の『脳がよみがえる80のヒント』(実業之日本社・1575円)では、話題の右脳を鍛えるトレーニングについて、実際には右脳と左脳をバランスよく機能させることが重要だといった話など、気軽に読める80のトピックがまとめられている。著者によると、好奇心をもって常に脳を活発化させることが重要なので、「聞くのが恥ずかしい」と思っていたら、老化の一歩手前と思うべし、だそうだ。
125歳まで元気に生きる』(満尾正著・小学館・1575円)は、米国アンチエイジング学会認定医の著者による最先端医学に基づいた、若返りの知恵をまとめた一冊。気をつけたい老化のサインや、日常生活でとりいれることのできる老化防止のためのちょっとした習慣を紹介している。
 かつては人生50年と言われていたのが、いまはその倍に徐々に近づきつつある。『ヒトは150歳まで生きられる』(呉柏林著・JTB・1470円)では、遺伝子工学の研究が進めば、人類の寿命はさらに倍増するとしている。10年にわたるプロジェクトによって、ヒトゲノムの解読が完了したとの報道は記憶に新しいが、これらの研究がさらに進み、遺伝子診療によって「不治の病」が過去のものになり、さらには若返りDNAによって不老不死が現実のものになる可能性についても語る。本書には本格的な研究が進むのはこれからとある、とはいえ、健康に生き続けられる時間、寿命は、今後も確実に延びていくのは間違いない。他にも、は死や老化の原因と、様々な健康法がどのくらい寿命延長に効果があるのか検証する『長生きするヒトはどこが違うか?』(S・ジェイ・オルシャンスキーほか著・春秋社・2415円)や『寿命をのばす5つの方法』(川島誠一郎著・どうぶつ社・1575円)がある。
 ここまで寿命が延びるとなると、これまでの人生設計そのものを考え直す必要がありそうだ。あとはお迎えを待つだけと言いながら、何十年も生きることになりかねない。健康、そして生活そのものを見直して、長寿社会の一員としての自覚を持とうと呼びかけているのが、『めざせ100歳!』(デービッド・マホーニー、リチャード・レスターク著・サンブックス・1575円)。日本より平均寿命が短いアメリカ人二人の共著だが、かたや神経科医、かたや経済界で活躍してきた経営者という、異色の組み合わせが面白い。百歳以上生きる人を「一世紀人(センテリアン)」と呼ぶそうだが、実際長生きすれば22世紀を見ることが夢ではない。合理主義のアメリカらしく、百歳まで生きることを前提として、自分の生活と仕事を系統的に整理し、長寿のための戦略を立てるための理論と実践を紹介している。
 健康に気を使っていても病気になる人もいるし、お酒もタバコもやるのに若々しくぴんぴんしている人もいる。それなら実際に長生きしている人はどんなふうに暮らしているのだろう。『百歳の食卓』(廣済堂出版・1575円)は眺めているだけで長生きしたくなってくる一冊。百歳を過ぎてなお元気につつがなく毎日を過ごしている人が、どんなものを食べているかよくわかる。冒頭に11人の顔写真が載っているのだが、まさに年齢を重ねたいい顔とはこんな顔だと、見入ってしまうに違いない。本書を見る限り食べているものは皆それぞれで、甘いものが好きな人や、脂ののった肉が好物という人もいるし、喫茶店でコーヒーを飲むのが習慣という人もいる。しかし共通するのは、皆さん本当によく食べるということだろうか。
65歳からの食卓』(足立己幸ほか著・NHK出版・1680円)は反響の大きかった特集番組から生まれた一冊。バランスのよい食事が大切だとは誰しも分かっているけれど、それを毎日実践するとなると難しい。それはなぜなのかを探るため、65歳以上の高齢者を対象に、誰と何をどのように食べているかといった食生態調査を行い、その問題点を分析している。ここで注目されるのが、年をとると食事が億劫になることだ。60歳台の女性が描いた若い頃の食卓の絵には、たくさん家族もいるし、食卓に何品ものおかずが並んでいる。しかし一人暮らしの老人は、どうしても単調な食生活に陥ってしまう。食事を作ること自体、いやその前に必要な買い物さえ、年を取った体には負担になる。健康にいい食べ物を考えるのも大事だが、一緒に食卓を囲む家族や友人の存在も重要だ。3人に一人が高齢者という秋田県南外村の健康プロジェクトも紹介されている。高齢になってからでも食生活の改善は大きな効果をあげることがわかる。この村には平均年齢68歳のバレーボールチームがあるそうだ。
 貝原益軒の『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫・735円)は有名だが、その西洋版ともいえるのが『長寿学』(どうぶつ社・3150円)。著者のフーフェラントはヨーロッパ近代医学の創始者であり、プロイセン国王・王妃の侍医、ゲーテやシラーの主治医も勤めたドイツ人医師。彼は江戸末期の日本の蘭学者たちにも大きな影響を与えた。近代医学の萌芽期に、広く一般の人に向けて真に科学的な健康法や衛生法を指南した本書は、二百年以上前の知識に基づくために当然修正を要する箇所もある。しかし基本的な生活習慣についてはそのまま読むことができるし、なにより実直な人柄を感じさせる語り口が魅力だ。肌着にはウールがいいか亜麻布がいいか、はたまた寿命延長の一要因としての幸せな結婚生活など、当時の暮らしが垣間見えて楽しい。
  ドー・ホン・ゴック著『ベトナム老人はなぜ元気なのか』(草思社・1470円)が勧めているのは、避けられない老化を嘆くのではなく、老いと上手に付き合おうというもの。小児科医である著者が、自らも老年にさしかかって脳出血に倒れ、その療養中に老いについて深めた考察をまとめたものだ。実用的なアドバイスを抱腹絶倒のエピソードとともにつづっている。ベトナムではまだ「敬老」の精神が健在だが、同じ東洋でも日本はどうだろうか。老いは文化の問題でもある、これからますます老人が増えるのなら、敬老の精神が行き渡った社会にしたいものだ。貧しいながら元気で陽気なベトナム老人に学ぶところは多い。

■実践編

生活体力』(NHK出版・1470円)は毎日のちょっとした運動で生活に必要な体力を鍛えようというもの。一般のトレーニングブックと違うのは、何かができるようになるための筋力増強が目的ではなく、できなくならないように、つまり医療などの手助けを借りずに身の回りのことを自力でやり続けるための運動である点だ。写真つきで紹介されているエクササイズはどれも一見簡単そうで、運動になるのかなと思ってしまうが、これらを少しずつ毎日続けていくというのが重要なのだ。体力というとすぐに筋力や持久力のことを考えてしまうが、寝たきりにならないためには、柔軟性や敏捷性も含めて身体機能全体を鍛える必要がある。本書には運動不足チェックや、年代に合わせた体力チェックができるように作られているで、まずは自分の体力を見極めることから始めたい。とにかく大切なのは、ほどほどに無理なく楽しく行うことだ。
40歳からきれいな身体をつくる』(山岡有美著・草思社・1470円)は、40代から気になる肥満、糖尿病、腰痛などの予防を目的としたトレーニングブック。マシンやダンベルを使わずに、家庭でできる運動を紹介する。実際の動きを説明するイラストも、少しぽっちゃりしたおばさん風なのが心憎い。また寝たきりの人のためのリラックス法や、介護をする人のための腰痛予防の体操も載っていて親切だ。
50歳からの「ながら運動」健康法』(長野 茂著・PHP研究所・1365円)は、日常の動きに一工夫して体を鍛えるフィットネスを提案している。布団たたみや歯磨きをしながら、あるいは買い物袋や掃除機を使って、ちょっとした運動ができるアイデアが、わかりやすいイラストで載っている。気張らずに今日から早速やってみようかなと思えてくる。『50歳からの健康エクササイズ』(岩波書店・1575円)は、アメリカの国立老化医学研究所が長年にわたる研究成果に基づき、国民の健康増進を目的に制作した運動ガイドブックの日本語版。運動の必要性と持続の秘訣、そして実際の運動を丁寧に解説する。別売で女性インストラクターが指導するビデオ版(2940円)もあるので、合わせて利用すればより効果的だ。
 体だけでなく頭も鍛えたい。『脳を鍛える大人の料理ドリル』(くもん出版・1050円)は発売以来人気の高い川島隆太教授の「脳を鍛える大人のドリル」シリーズの一冊。料理を作るための技術を、基礎から応用まで一日一つずつ、30日間でマスターできるようになっている。千切りなどの料理の技術を身につけながら、脳を鍛え、さらにバランスの取れた食事で健康にもなろうという、欲張りな本だ。また川島隆太・齋藤孝・陰山英男という話題の先生たちが関わって作った『脳の健康を守るげんきプリント』(小学館・1050円)もある。簡単な計算問題、音読、字を書くという単純なトレーニングを8週間続けて脳を活性化させるというもの。毎日のプリントに東海道五十三次の宿場を当てはめるなど、60歳からの読み・書き・計算を楽しめる工夫が施されている。『和算で遊ぼう!』(佐藤健一著・かんき出版・1260円)は、江戸庶民の娯楽でもあった和算で、楽しみながら頭の体操ができる。鶴亀算や油を升で等分する方法など、各テーマで三問ずつ解いていく、特に三問目は原文で出題。イラストも豊富で、江戸情緒も満喫できる楽しい一冊だ。

■不老不死

 不老不死を願っても、現時点で現実的ではないが、伝説はいろいろとある。
 「古今著聞集」(新潮日本古典など)には、人魚の肉を食べて10代の若さを保ち、800歳まで生きたという八百比丘尼の伝説がある。司馬遷の「史記」(ちくま学芸文庫など)には、始皇帝が「火の鳥」を探させるため蓬莱山に徐福という男を派遣したという記述がある。
 中国に伝わる、不老不死をめざす道教についての本は多くでている。吉元昭治著『道教と不老長寿の医学』(平河出版社・2940円)は、道教医学とは何かということから道教医学の歴史、扱う薬について、さらには民間療法まで、不老不死を求める人々がどのような方法をとったかを紹介している。同じ著者の『不老長寿への旅』(集英社・1995円)は、一章では不老長寿を願うというのはつまり仙人への道だとして、いろいろな仙人の伝説を取り上げ、二章では不老長寿の食べ物について論じている。霊芝、煎じ薬などいかにもといったものだけではなく、酒や桃、菊などの身近なものもある。
 始皇帝は不老不死の薬だと信じて水銀を飲んでいたそうだが、『毒薬は口に苦し 中国の文人と不老不死』(大修館書店・1995円)は、李白や白居易などの詩人たちも誤った知識で薬を製造しては薬物中毒に陥っていたということを、本草学の歴史にも触れながら紹介した本である。
 そのほか、『不老不死伝説』(三谷茉沙夫著・青弓社・2100円)は、長寿の人の記録や、不死の霊薬について、輪廻転生などを古今東西の書物から調べ上げている。1805年から1973年まで生きた人の話など、惹きつけられる逸話がてんこもりだ。
 さらに、『仙人入門』(東京書籍・1470円)日本人として唯一人中国武術・内家拳の世界的権威である程聖龍氏によって、修行の様子が語られる。幼い頃から甲賀流忍術の師のもとで修行を積んだ著者は、長じて中国での修行へと旅立ち、仙人を目指すことになる。
 こうしてみても、現実には不老不死は実現していないのだが、小説では、16世紀から19世紀まで360年も生き、途中で美少年から女になってしまうというストーリーの『オーランドー』(ヴァージニア・ウルフ著・ちくま文庫・798円)がある。
 ゲーテの『ファウスト』(池内紀訳・集英社文庫・第1部720円・第2部980円)では、ファウストは悪魔メフィストフェレスと取引し、自分の魂と引き換えに霊薬によって若返る。
 また、SFでは有名なところで『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン・ハヤカワ文庫・672円)や『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク著・ハヤカワ文庫・672円)にコールドスリープし、不老不死といってもいいような技術をもっている場面がでてくる。アメリカではお金を積めば、既にコールドスリープの権利を手に入れることができるらしいが、一般人にはまだ手の届かない話だ。
老人力』(ちくま文庫・714円)は、赤瀬川原平が耄碌だと物笑いにされてきたことの数々を捉え、ポジティブな意味に転じている。赤瀬川原平がいうと空元気や強がりではないような気がしてくる。不老不死が実現することがなく、いつまでも若くはいられないとしても絶望することはない。老人力がついたと思えばいいのだ。最終的には開き直りも有効である。