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日本人はほんとに桜が好きなんだなあと改めて思う。この時期本屋の店頭には桜が表紙の雑誌が数多く並ぶ。旅行雑誌、グルメ雑誌、園芸雑誌は言うに及ばず、男性情報誌、女性情報誌、中高年向きの趣味誌、地方情報誌とこぞって各地の名桜や花見の名所を特集する。そして他の号よりよく売れるのだからやっぱりみんな桜が好きなんだ。
でも『日本人は桜のことを何も知らない。』(美しい日本の常識を再発見する会編・学研・1260円)のだそうだ。桜、ときいてまずわれわれが思い浮かべる桜の品種はソメイヨシノであり、事実日本の桜の八割は今やこのソメイヨシノが占めているのだけれど、大半は2005年、寿命を迎えいっせいに朽ち果ててしま
う! らしい。ソメイヨシノは江戸期に突然変異で生まれた一本の木である。そのため、実生(種)がなくて接木でないと増えない、いわゆるクローン植物なんだそうな。成長が早くどこでも同じように育つこのソメイヨシノが明治期に大人気となり、全国に広がった。増やすのはお手軽だけれど、寿命が短い。種が無いから接木接木で増やすけれど、そもそもがもはや老木なのだから、芽も老化している、だからせいぜい六十年くらいで枯れてしまうというわけだ。
『サクラを救え「ソメイヨシノ寿命60年説」に挑む男たち』(平塚晶人著・文藝春秋・1850円)によると、今あるソメイヨシノは戦後に植えられたものが多く、そろそろ寿命が来るのだという。桜の名所から桜が消えてしまえば、経済効果も変わってしまう。「最古のソメイヨシノ」を擁する名所弘前のモデル・ケースをもとにその苦労を描いている。
だから桜はソメイヨシノ以外がいいと言う専門家も多い。日本には現在、自生種(山桜)と園芸品種(里桜)を合わせて三百種以上あると言われている。ソメイヨシノはその中の一種に過ぎない。古来日本人は様々な品種の桜を長い年月愛でてきたのである。
京都の「桜守」16代佐野藤右衛門氏は全国各地の桜に会いに出かけ、病んだ桜の手当てをし、貴重な品種の「跡継ぎ」を自分の桜畑で育てている。全国の名桜を訪れ、その名桜のもとで桜への思いを『櫻よ「花見の作法」から「木のこころ」まで』(集英社文庫・630円)で、聞き書きの小田豊二氏を相手に語っている。佐野氏は他にも『桜のいのち庭のこころ』(草思社・1680円)などの著書がある。
古来からの日本人の桜愛について考察したのが小川和祐氏の『桜と日本人』(新潮選書・1155円)である。『万葉集』『平家物語』『古今和歌集』などの桜に関わる歌や記述を並べ、桜美が、文学から波及し、美術、工芸、演戯に浸透し、なぜほどまでに人が桜に魅せられるのかの答えを求める。牧野和春氏も『新桜の精神史』(中公叢書・1785円)で花に憧れた日本人の美意識の源流を探る。氏は、『桜伝奇』(工作舎・2940円)で樹齢2千年の山高神代桜をはじめとして荘川桜、薄墨桜など12の桜の老巨木をめぐり歩いてその地の桜の伝奇を追跡している。
白幡洋三郎氏は『花見と桜〈日本的なるもの〉再考』(PHP新書・693円)で、桜だけをみて「花見」に目を向けなければ、日本文化の本質を理解した事にならないとして、その世界に類をみない民衆文化について考察する。
佐藤俊樹氏は『桜が創った「日本」ソメイヨシノ起源への旅』(岩波新書・777円)で、人工的な桜ソメイヨシノが、どんな語りを生み、いかなる歴史を人びとに読み込ませてきたのか、を現実の桜と語られた桜の往還を追いながら「日本」と「自然」の姿に迫っている。
日本人と桜のかかわりの深さを示すエピソードとして荘川桜がある。御母衣ダムの底に沈む村から移植されたエドヒガシという品種の桜。移植されたその桜に自らの運命を重ね合わせ、涙する村人たち。移植桜の成長を見守るうち、桜に平和を託し、名古屋〜金沢間のバス路線に2千本の桜を植え続けて桜のトンネルを作り、夭逝した国鉄バス車掌の佐藤良二氏。それらは『さくら道 新訂版』(中村儀朋編著・風媒社・1509円)に詳しく、さらに映画「さくら」にもなった。作家水上勉氏はこの御母衣ダムの荘川桜の移植に尽力した笹部新太郎氏をモデルにして小説『櫻守』(新潮文庫・580円)を書いた。水上氏は車掌の佐藤氏にも取材し、佐藤氏は桜のトンネルの植樹について笹部氏に相談し文通を続けたという。桜が人びと繋いでいったのだ。
薄墨桜は宇野千代氏が小説『薄墨の桜』(集英社文庫・420円)を著して一躍有名になった。桜にまつわる、桜が主題の小説は多い。桜の樹の下には屍体が埋まっているという、『檸檬』(梶井基次郎著・新潮文庫・420円)に収録されている衝撃的な出だしの「桜の樹の下には」や、『秘剣・柳生連也斎』(五味康祐著・新潮文庫・660円)に収録されている、2人の武士が桜の枝を斬って武芸の技を競う「桜を斬る」や、桜の魔性に憑かれたように母と娘が同じ男性を愛してしまう『桜の樹の下で』(渡辺淳一著・新潮文庫・上巻460円・下巻500円)がある。『桜の文学史』(小川和祐著・文春新書・861円)には詳しく個々の作品と桜との関わりが解説されている。
今年も又各誌が桜を特集しているが、ここでは書籍を紹介する。
『これだけは見ておきたい桜』(栗田勇、久保田淳ほか著・新潮社とんぼの本・1680円)手軽なヴィジュアル本としての先駆け的な存在のこのシリーズはその特色をいかし、各地の名桜を美しい写真と文章で魅せる。さらに後半には「幻想の桜考」と称して感覚的美学の旗手、栗田勇氏が桜への恋に似たあこがれを語る。在原業平の歌、絵巻、襖絵、硯箱の蒔絵、仁清の壺絵、能衣装など日本古来の芸術に現された桜についても論じている。それをまた写真で我々は身近に見ることが出来る。また戸板康二氏は「桜花満開の景」として歌舞伎の桜を、花見を語る。桜の場面は「義経千本桜」だけではない。戸板氏によれば、10や20の演目がすぐ数えられるという。
とんぼの本には『夜桜』(1575円)もある。これはカメラマン清水洋志氏が各地を巡って撮りためたライトに照らされ妖しい魅力にあふれた夜桜の写真集である。
夜桜に惹かれて酔いしれた写真家は他にもいる。『日本の夜桜』(庄子利男写真、文・光村推古書院・1680円)清水氏とはまた違った桜の魅力がここにはある。
明るい日の光に輝く桜の写真集には『一本桜百めぐり森田敏隆写真集』(講談社・2940円)がオススメ。佐野藤右衛門氏が訪ね歩くような孤高の巨木の姿を見ることができる。
首都圏の桜めぐりには、『東京の桜』(樋口一成写真・藤沢健一ほか著・山と渓谷社・1575円)。桜名所、散歩コース、隠れた穴場がカラー写真入りで紹介されている。京都の桜めぐりには、『京都桜百景』(土村清治写真・山と渓谷社・1575円)。いずれも花紀行というシリーズで、地図・ガイドつき。全国版なら『日本桜めぐり38の天然記念物と116名所ガイド』(小林義雄監修・JTB・1575円)がある。
究極の桜ガイドが、『桜は一年じゅう日本のどこかで咲いている 桜とともに四季を歩く旅』(印南和磨写真、文・河出書房新社・1680円)。日本には四季折々に咲く桜があり、十月桜や二季咲桜、四季桜、冬桜がある。夏になっても人知れず山の奥で咲く桜もあ る。全国の桜の詳細なデータ、写真、薀蓄。コラム執筆や植物撮影、出版編集等を生業とする著者が桜にとりつかれ足繁く通いつめてつくりあげた渾身の力作である。
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