書標 2005.3月号
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今月の表紙  その202 伊丹三樹彦


 三尊は苔仏で候(そろ) 濡れ落葉

 野の仏は好きなので、随分撮ってきたが、こんなに見事な苔に鎧われた石仏は初めてだ。写真展も街に出ると、いつでも、どこでも立ち寄っているが、この仏の作品を見たことはない。余程の秘境と思われるかもしれないが、実はわが故郷に近い志染の里である。それも、小学生時代に遠足で訪ねたことがある金水の洞のほとりであった。金水の名が生じたのは、菜の花が咲く頃になると、その洞窟に湛えられた水面が、金色に染まるからである。生物学的には光藻の発生によるらしいが、幼ない頭では神秘的としか思えなかった。
 その金水は冬場の為に見られなかったが、この苔仏を発見して、僕は大声を発した位。洞窟のある断崖から、絶えず清水が滴り落ちる為に生じた苔の鮮緑は日矢が射すと、息を呑むほど美しかった。



(表紙題字 陳舜臣)