書標 2005.1月号
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エキセントリック人物伝

 『奇人は世界を征す エキセントリック』(集英社文庫・700円)での荒俣宏による定義では、エキセントリックであるということは、奇行に走るということを意味しない。エキセントリックとは破格の存在だという。この本では、日本からは粘菌研究の南方熊楠、自ら植物画も描いた植物学者・牧野富太郎らを、外国からは画家ウィリアム・ブレイクや世界規模の通信や気候のコントロールを可能にするという「テレゲオダイナミクス」という技術を考案した発明家ニコラ・テスラなどという、既存の枠からはみだした人物を並べている。今月は、あなたの日常に風穴をあける、目からウロコの人物伝を紹介します。

 荒俣宏の本では、知られざる面白い人物が登場することが多い。『大東亜科学綺譚』(ちくま文庫・924円)では、俳優・西村晃の父で人造人間を製作した西村真琴や、火星の土地を売った男・原田三夫、作家・星新一の父で発明家の星一、作家・中井英夫の父で植物学者・中井猛之進、宗教学者中沢新一の祖父・中沢毅一などが登場する。
 さらに、これまた荒俣宏の本によく登場する水木しげるのマンガにも、面白い人生を送った人物を採り上げたものが多い。先にも挙げた南方熊楠の生涯を描いた『猫楠』(角川ソフィア文庫・693円)や、スウェーデンボルグや安倍清明、コナン・ドイル、宮武外骨らの生涯を独特の視点から漫画化した『神秘家列伝』(角川ソフィア文庫・其ノ一、其ノ二ともに660円)などだ。いろいろな人生があることを知り、水木さん自身も安心するそうである。
 『東西奇ッ怪紳士録』(小学館文庫・750円)では、エレキテルを発明した平賀源内や、東京の門前仲町に「二笑亭」という人が住めないような奇妙な間取りの家を建てた渡辺金蔵、日本人初の人力飛行を行った浮田幸吉、郵便配達夫で、道で石を拾い集めてオリジナルな宮殿を建てたシュヴァルなどが紹介されている。
 そのうち浮田幸吉の人生をもとにした小説を筒井康隆が書いている。「空飛ぶ表具屋」というもので、新潮文庫の自選ドタバタ傑作集『傾いた世界』(460円)に収録されている。筒井康隆なので、かなりのひねりが加えられていて評伝といった感じではないが、雰囲気はつかめる。
 シュヴァルの生涯については、岡谷公二著『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』(河出文庫・798円)に詳しい。南フランス・オートリーヴの郵便配達夫のシュヴァルは、ある日ふと変わった形をした石を見つけたことから、33年の歳月をかけて奇妙な建造物を創り上げることになる。写真も収録されているのでぜひ見て欲しい。
 反骨のジャーナリスト宮武外骨に関する書籍は数多く出版されている。『外骨という人がいた!』(ちくま文庫・840円)では、赤瀬川原平が外骨の魅力を余すところなく伝えてくれる。表紙では、赤瀬川原平自身が外骨の遺品を借り、外骨に扮している。その遺品を貸し出した、外骨の甥の吉野孝雄による『宮武外骨』(吉川弘文館・1785円)は、明治、大正、昭和と「滑稽新聞」を発行し、また晩年には明治の新聞雑誌を蒐集した彼の真面目な評伝。外骨自身の著作は、「滑稽新聞」などをテーマ別に編集したものが河出文庫から何冊か出版されている。それらを見ると、今でいう「オタク」にも通じるような彼の気質が見て取れる。
 唐沢俊一が文を書き、ソルボンヌK子が漫画をつけた『すごいけど変な人×13』(サンマーク出版・1365円)でも宮武外骨は紹介されている。変人ぶりはこの本にまとめられているエピソードがわかりやすいかもしれない。他に、すごいけどワガママだったという北大路魯山人や、外タレ第一号・快楽亭ブラック(現在のブラックではなく、明治・大正時代に活躍した一代目)や、三つのペンネームを使い分けた作家・長谷川海太郎、関節をはずして何度も脱獄した白鳥由栄なども収録されている。
 池内紀著『二列目の人生 隠れた異才たち』(晶文社・2310円)では、知られざる才人たち十六人が紹介されている。同じような力を持ちながら、よく知られる人物の影に隠れてしまっている人物に光をあてている。もう一人の南方熊楠とされる大上宇市、もう一人のラフカディオ・ハーンとされるヴェンセスラオ・デ・モラエス、もう一人の棟方志功とされる篁牛人などだ。自分のやりたいことに真っ直ぐなあまりに、まわりの世の中の評価にまで思い及ばなかった人々の評伝集だ。
 電子音楽の祖としてにわかに有名になったテルミン。怪奇映画の音効や、ビーチボーイズやレッドツェッペリンの曲などで、テルミンが製作した電子楽器「テルミン」の音色は知らず知らずのうちに耳にしているはずだ。『テルミン エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男』(竹内正実著・岳陽舎・2100円)では、テルミンがレーニンの蘇生を試みようとしたり、盗聴装置の研究にも関わっていたりしたことが語られている。
 どうしてかはわからないが、イギリスで編集された「奇人伝」も多い。『英国畸人伝』(青土社・2520円)は、イギリスの詩人イーディス・シットウェルが集めたはみ出し者たちの記録。訳者によるあとがきを読むと、著者本人もこの本の仲間入りをしてもいいくらいの人だったとある。鰐の背に乗るくせに、かわいがっているヒキガエルを醜い畜生と言われて激怒した「チャールズ・ウォタトン」や、他人の家で何晩も徹夜する教授やライオンにならって一日一食しかとらない解剖医などを紹介した「学識者たち」などの章に分かれている。
 『奇天烈紳士録』(ジョン・ミッチェル著・工作舎・2625円)には、地球は平らだと信じている人々や、地球の内側に住んでいると信じる人々、出版されている本はすべて集めないと気がすまないと言い切り、結婚すらも本が収集できるかどうかで決定する男などが登場する。著者がやはりイギリス人ということもあって、馴染みのない人物が並ぶが、その内容は面白いものばかりだ。
 フランスの『万国奇人博覧館』(G・ブクテル、J‐C・カリエール著・筑摩書房・3360円)は、フランスものだが、アイウエオ順に有名な人から無名な人まで並べられている。一番はじめの項目は「愛書家」で、誤植で決闘も起きたというエピソードが紹介されている。
 頭の回転がものすごく速いイメージのある理系の才人たち。数学者エルデシュは、頭の回転も速いが放浪癖もあった。必要最小限の荷物だけを持ち、世界中を飛び廻りながら数学の問題を解き続けた。その伝記が『放浪の天才数学者エルデシュ』(ポール・ホフマン著・草思社・1890円)だ。1913年にハンガリーで生まれたエルデシュは、学生時代から一箇所に留まることができなかった。独特の造語を用いて会話し、一日19時間も数学に取り組んだ。
 ノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスの自伝が『マリス博士の奇想天外な人生』(ハヤカワ文庫・777円)だ。それによると、彼がノーベル賞を受賞するきっかけとなった、DNAの配列解読を簡単に行えるPCR技術はデート中の思い付きだったそうだ。O・J・シンプソン事件との関わり、LSD体験や超常体験も語っており、読者の好奇心を存分に満たしてくれる。
 世界初の奇人研究という副題がつけられている『変わった人たちの気になる日常』(デイヴィッド・ウィークス、ジェイミー・ジェイムズ著・草思社・1890円)では、789人の奇人を調査し、貴人といわれている人々のほうが、他の人々より若々しく健康で長生きする=つまり幸福だと結論づけている。ひとつ間違えると珍獣を愛でるようなおもむきもある「エキセントリックな人々伝」だが、この本にはそういったところはなく、真面目に科学的に調査をしている。「普通」という窮屈な檻に閉じ込められるのをこばむエネルギーはじわじわと広がり、いつか「世界を征す」かもしれない、と思わせてくれる。