書標 2004.10月号
今月の表紙 歳時記〈10月〉 著書を語る 特集「辞書・事典変り種」 書標・書評
新刊案内 トークセッションレポート ジュンク堂ベストセラー 読者から 本屋うらばなし
インフォメーション バックナンバー
辞書・事典 変わり種

国語辞典といえば、「広辞苑」(岩波書店)。百科事典なら平凡社の「世界大百科事典」といわれる。だがいかに知識の宝庫とはいえ、これらをはしからはしまで読み通す人はあまりいない。わからないことを調べられればいいからだ。だが例外もある。赤瀬川原平の『新解さんの謎』(文春文庫・540円)を読んでいると、三省堂の『新明解国語辞典』(2940円、CD‐ROM版は6510円)の説明のユニークさが紹介されているので、自分でもはじめからくまなく読み込んで面白い語句説明はないかと探してみたくなってくるのだ。どれでもだいたい同じように思える国語辞典にも際立った個性を持っているものがあるということに気付かせてくれる。赤瀬川原平に『新解さんの謎』執筆のきっかけを与えた夏石静子による『新解さんの読み方』(角川文庫・660円)では、四版から五版の変化まで、さらに詳しく『新明解国語辞典』について説明している。
 今回は、定番の辞典や事典ではなく、数多くある、読んで面白く見て楽しい変わった辞典や事典を特に紹介します。

■辞書、事典を探す本

 辞書や事典は、とにかく数多く出版されていて、いったいどんなものがあるのかということをすべて把握するのは難しいが、次に挙げる本が参考にはなる。
 『辞書の図書館』(清久尚美編・駿河台出版社・3990円)は総記、哲学、歴史、社会科学、自然科学、技術、産業、芸術、言語、文学などのカテゴリーに辞書を分類する辞書の辞書。
 『辞書・事典全情報90/97』(日外アソシエーツ・19950円)は、90年から97年までに発行された辞書・事典を網羅している。98年以降の情報の載っているものの発行が待たれる。
 「辞書」「事典」「図鑑」のランキングをつけているのが『この辞書・事典が面白い!』(室伏哲郎監修・トラベルジャーナル・1260円)だ。品切のものも含まれているし、これも五年前の本なので最近の書籍は含まれていないが、読み物としてとにかく楽しい。割り切ってトップテンを選んでいるのもわかりやすくてよい。が、この本を読んだだけなのにいろいろな分野に詳しくなった気になってしまうのには要注意。
 これらのうちの一冊あれば今回の特集はおしまいでいいのではないか、などと言ってはいけない。編纂に長い時間がかかる辞書も、どんどん新しいものが出版されているのだ。


■最近のベストセラー

 最近出版され、よく売れているものには次のものがある。
日本語はオノマトペを多く含むというが、『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社・3990円)を見るとそれがよくわかる。品切中の『おそ松くん』(赤塚不二夫著)からの例など、コミックでの用例も豊富に収録しているのが特徴だ。また「ふっくり」「ふっくら」「ぷっくり」など似た言葉の違いもしっかり解説してある。
 国語辞典を引いても、どんな語でも数の数え方まで説明されているわけではない。よってなんでもかんでも一個や一つと数えがちになるのだが、その数の数え方に特化した辞書が『数え方の辞典』(飯田朝子著・町田健監修・小学館・2310円)だ。「こう数えます」ということだけではなく「どうして、そう数えるのか」ということも説明されているのでよく納得でき、数え方も覚えやすい。さらにコラムで、「昔はこういう数え方だったが、今はこうだ」ということにも触れてあり、至れり尽くせり。 『日本文化を英語で紹介する事典 第三版』(杉浦洋一、ジョン・K・ギレスピー著・ナツメ社・2079円)は、日本の日本という国、日本の伝統文化、現代日本人の生活様式、自然を通して見る日本という四部に分け、英語と日本語で説明している。「英語で説明する」以前に、自分の国のことをあまり知らなくとも、この本ではどちらも学べる。
 『日・中・英 企業・ブランド名辞典』(莫邦富、呉梅編・日本経済新聞社・1890円)では、中国でグッチやマイクロソフト、ベンツなどブランド名がどう訳されているかを知ることができる。本来は中国でビジネスをする人向けに出された辞典だが、「可口可楽(コカコーラ)」などの名訳を眺めているだけでも楽しい。物だけではなく、歌手やアニメ作品も収録されている。スパイスガールズは「辣妹」、ドラえもんは「机器猫」。
 『ネーミングのための8か国語辞典』(横井佳子編・三省堂・5145円)は、あいうえお順に並ぶ日本語の見出しから、英語、ラテン語、ギリシャ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語が一度に引けるようになっている。広告業界の人にしか縁のない辞典だと思うことなかれ。気の効いた個人サイトづくりや、ハンドルネームを考えるのにも役立つはず。例えば、「朝」を引くと、「英語→morning(モーニング)」「ラテン語→mane(マーネ)」「ギリシャ語→heos(ヘオース)」「フランス語→matin(マタン)」「スペイン語→manana(マニャーナ)」「イタリア語→mattina(マッティーナ)」「ドイツ語→Morgen(モルゲン)」と同時に引けることになる。







■変り種辞書・事典


 前述した『新明解国語辞典』の三省堂は辞書・事典をたくさん出版している。『民間学事典 人名編』(鹿野政直、鶴見俊輔、中山茂編・7980円)は、市井の研究者たちを集めた事典。学者ばかりというわけでもなく、「古賀政男」や「吉屋信子」という項もある。同じ編者の『民間学事典 事項編』(6930円)もでている。
 『日本山名事典』(徳久球雄、石井光造、武内正編・5565円)は、二万五千分の一の地図に記載されている山や峠をすべて収録したもの。異称、標高、所在地、緯度経度などのデータはもちろん、鉄道駅からの方角と距離まで載っている。
 大修館書店も多い。『〈さようなら〉 の事典』(窪田般彌、中村邦生編・大修館書店・2100円)は、フランス、イギリス、アメリカの詩や映画や日記から、別れや死に関するものを抜き出したものだ。現代から過去へとさかのぼっていく形式になっている。最初のページはウッディ・アレンの言葉。最後のページは叙事詩「ベオウルフ」からとられている。
 普通の人は、道を歩いていてスフィンクスに謎かけされたり、洞窟でなぞなぞ合戦をするはめになったりはしないと思うが、そんなときにもきっと役立つのが『世界なぞなぞ大事典』(柴田武著・大修館書店・16800円)だ。世界七十か国、6600のなぞなぞを集め、日本語訳と原文をどちらも記載した世界初の大事典。ただしとても重いので携帯は難しい。
 『〈つまずき〉の事典』(中村邦生編・2310円)は、失敗や挫折から生まれた名言、名句を集めている。つまずいてばかりいても、文学作品や映画のなかではこんな言葉で飾られているのだと思えば元気もでるというもの。作家、作品案内としても使える。
 また、東京堂出版は面白い辞典や事典の宝庫だ。本屋で、こんな変わった辞典もあるのか!と手にとると東京堂出版だったということが多い。目録をめくってみると、あまりにあることに驚く。ここ2ヶ月間に出版されたものに限っても『古代ギリシア遺跡事典』(周藤芳幸、澤田典子編・3360円)、『甲子園高校野球人名事典』(森岡浩編・2520円)、『西洋たべもの語源辞典』(内林政夫編・2940円)など、広い分野にわたっている。
 『からだことば辞典』(東郷吉男編・3045円)は、顔が広い、目が飛び出る、腹黒い、手を焼く、足を洗う、身銭を切るなど、体の働きから連想して作られた語六千語を網羅した辞典。「頭が上がらない、頭隠して尻隠さず、頭金など、慣用句や熟語も収録している。
 『ペンネームの由来事典』(紀田順一郎著・2730円)は、夏目漱石、太宰治、中村草田男、司馬遼太郎など近代の作家、詩人、歌人のペンネームの由来を説明している。二葉亭四迷が父親から「くたばってしめえ」といわれたからだとか、江戸川乱歩がエドガー・アラン・ポーだとかいうことは知っていても、逆に本名はあまり知らないということに気づかせられる事典。
 日本人はやたらと年齢を気にする国民性だといわれるが、誰が何歳で何をなしとげたかということを調べられるのが『年齢の事典』(阿部猛編・2100円)。徳川綱吉が生類憐れみの令を出したのも、湯川秀樹がノーベル賞を受けたのも、小松左京の『日本沈没 上』(光文社文庫・650円)がベストセラーになったのも、大厄の42歳のときだそうだ。
 マジックに関する事典もいろいろある。『コインマジック事典』(高木重朗、二川滋夫編・2625円)、『カードマジック事典』(高木重朗編・3990円)、タバコ、コップなどありふれた道具を使う『クロースアップ・マジック事典』(松田道弘著・3045円)、『クラシック・マジック事典』(松田道弘著・3570円)、難しいテクニックを使わずできる『セルフワーキング・マジック事典』(松山光伸著・2520円)など。マジックについてだけでもこんなにも種類がある。もちろんタネを明かしているのでマジックを見るほうで楽しみたい人は開かないほうがよい事典だ。
 ストレスの多い時代を生きぬくため、「癒し」に関係する事典もでている。『モニカ・ヴェルナーのアロマテラピー実践事典』(モニカ・ヴェルナー著・畑澤裕子、林真一郎著・2940円)はドイツの代表的なアロマテラピストによる本で、ハーブなどの植物から摘出した精油の香りで心と体のバランスを整えるアロマテラピーの具体的なレシピが多く収められている。『アロマセラピーとマッサージのためのキャリアオイル事典』(レン・プライスほか著・ケイ佐藤訳・2730円)は、アロマセラピーに利用される各種の植物油の抽出方法や成分構成、注意事項などの情報を収録している。ほかにも、英国式足裏健康法の『リフレクソロジーの事典』(塩瀬静江著・2730円)や花の力で癒すという自然療法を紹介した『バッチフラワーエッセンス事典』(ゲッツ・ブローメ著・5145円)というものもある。
 『英国らしさを知る事典』(小池滋著・2730円)は、日本人がイギリスと聞いて思い浮かべる語を90取り上げ、その実際を解説する。アイルランド、アーサー王伝説、アフガニスタン……。思い込みを正し、本当のイギリスを知ることができる。
 そのほか、各社さまざまな書籍を出している。
 『新編 漂着物事典』(石井忠著・海鳥社・3990円)は、漂流物を分類して並べているだけではない。古来どんなものが海岸に流れ着いているのかだとか、各地でのフィールドワークの様子、漂着物と環境との関わりなど、さまざまな問題に言及している。普通の人にはゴミとしか思っていなかったものも、見方によって宝の山となるということを教えてくれる。海に流れ着くのは椰子の実ばかりではないのだ。
 『図説 日本未確認生物事典』(笹間良彦編・柏書房・2854円)は、「幻人・幻獣・幻霊」をさまざまな文献から集めている。出典も詳しく書かれているので後からあたりやすい。「擬人的妖怪編」「魚と亀の変化」「龍蛇類の変化」「獣類の変化」「鳥類の変化」「湿性類の変化」に分けられている。同じ著者の『図説 世界未確認生物事典』(2940円)も出ている。
 『いろの辞典 改訂版』(小松奎文編著・文芸社・2625円)は、色といってもお色気や色事の辞典。辞書を作れるほど色事に関する言葉があるのか……ということにまず驚く。出版直後はTVなどでも紹介された。最近刊行された官能小説から性的な表現を集めた『官能小説用語表現辞典』(永田守弘著・マガジンハウス・2415円)もある。
 『NHK日本語発音アクセント辞典』(NHK放送文化研究所編・NHK出版・3990円、CD‐ROM版18690円)では、共通語のアクセントを参照できる。NHKのアナウンサーのように話したい人に最適な辞書。アナウンサーを目指す方だけではなく、全国をとびまわるお仕事の方にも役立つ辞典だ。
 『ニュースポーツ事典』(北川勇人著・8400円)は、レクリエーションを目的としたニュースポーツを、アウトドア系、ウォータースポーツ系、ダンス・体操系、ターゲット系、チーム・ボール系、ゴルフ系、テニス系、バレーボール系、ウォールゲーム系、ホイール系、格闘技系に分けて紹介。オリンピック種目にない、知らないスポーツは実はこんなにあったのだ。
 『完訳世界文学にみる架空地名大事典』(アルベルト・マングェル、ジアンニ・グアダルーピ著・高橋康成ほか訳・講談社・7980円)は、ホグワーツ、中つ国、プロスペローの島、ムーミンパパの島、オズの国など架空の世界のガイドブック。イラスト満載、出典索引もバッチリの夢広がる事典。
 『クロスワード辞典』(ニコリ編・波書房・4587円)は、文字数順に、カタカナで言葉が収録されている。意味や用法などは全く無し。ひたすら言葉の羅列だ。これで自分でもクロスワードパズルが作れるようになる。逆に、クロスワードパズルを解いていてどうしても思いつかない言葉をこれから捜すこともできる。パズルを解く、という楽しみはなくなってしまうが……。
 「ブライス」や「スーパードルフィー」など今や大人気のお人形。一九五一年以降に発売されたお人形の正面と後姿の写真を網羅した『お人形事典〜ファッションドール編』(たいらめぐみ著・グラフィック社・2625円)は、ABC順に並べられていて、索引もつけられている。美しい写真が特徴だが、そればかりではなく、身長やメーカーなどデータも詳しい。
 便利なのかどうかわからない珍道具ばかりの事典が『仰天珍道具事典』(日本珍道具学会編・カタログハウス・999円)だ。雑誌「通販生活」の一コーナーがまとめられたもの。「洗濯物乾燥ゴルフクラブ」「だんご繰り上げ器」など、ばかばかしい珍発明の数々に笑わずにはいられない。パート2、3もあります。
 若い人は知らないだろうが「月刊ビックリハウス」という何ともふざけた雑誌が昔存在した。その誌上で繰り広げられていた言葉遊び「大語海」と、現在でも売られている「御教訓カレンダー」を合体させたのが『御教訓大語海』(榎本了壱監修・PARCO出版・1600円)だ。「御教訓カレンダー」というのは、日めくりで「お父さんお母さんを猥褻にしよう」だとか「手を上げて渡る世間に鬼はなし」だとかという文句があらわれる脱力カレンダーで、これが24年分収録されている。「大語海」は「すこんぶ→はき古したクツ下のこと」などというこれまた脱力国語辞典。 


■読みもの辞典

 なにかわからないことを引くという用途ためというよりも、読んで面白い辞典の定番に、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』がある。
訳もいくつかある。作家の筒井康隆訳(講談社・2100円)、西川正身訳(岩波文庫・693円)、奥田俊介訳(角川文庫・693円)などだ。1881年から1906年まで週刊新聞に連載されたもので、警句箴言集。最初の項のABASEMENT(卑屈)は、「金や権力を前にすれば、自動的にこういう穏やかな心構えになるのは当然のこと。よく見る実例は、社長に対する従業員の口のききかた。」とある。19世紀のアメリカ社会を諷刺しているが、現代でも十分通用する。
 この有名な本にちなんで「悪魔の辞典」という名がつけられた書籍はたくさん出ている。
 『噴版悪魔の辞典』(平凡社ライブラリー・840円)では、安野光雅、なだいなだ、日高敏隆、別役実、横田順弥の5人の執筆者が「あ=愛」から「わ=笑い」までを再定義する。雑誌に掲載されたものをまとめた本で、編集部が用意した項目にそれぞれが執筆した。自分以外の執筆者が何を書いたかは知らされていないので、皆が同じようなことを書いていたり、他の人の書いたことを否定する内容になっていたり、さまざまだ。後書きも五人それぞれが書いている。
 別役実が一人で書いた『当世悪魔の辞典』(朝日文芸文庫・643円)は、別役実なりの論理で世の中を読み解く。『噴版悪魔の辞典』から取られている項目もある。「アカデミズム」は「学術・芸術を志す人間が、当初『そうなることだけは避けよう』と心掛けながら、いつの間にかそうなってしまっている境地のことであり、そうなったらそうなったで、そうでないものの方が間違っているように思える境地のことである。」としている。
 また、『ことわざ悪魔の辞典』(ちくま文庫・630円)では、誰でも知っていることわざを、新しい解釈で読み解く。「じんかんいたるところにせいざんあり」は「『せいざん』は『清算』であり、それまでの金銭のやりとりの決算をすることである」となっている。
 他にもさまざまなジャンルの「悪魔の辞典」がある。
 『ビジネス版 悪魔の辞典』(山田英夫著・日経ビジネス人文庫・550円)は、「人事考課 1、先に順序をつけてから、各人に評点を書き込む作業 2、好き嫌いや印象を定量化する作業」といった調子で、建前ではなく実際のところどのように言葉が用いられているかを説明し、うまく会社社会を泳ぎきれるように作られている。
 『永田町「悪魔の辞典」』(伊藤惇夫著・文春新書・735円)、『悪魔のささやき医学辞典』(稲田英一、LiSA編集部編・メディカル・サイエンス・インターナショナル・1260円)、『カメラ 悪魔の辞典』(田中長徳著・光文社知恵の森文庫・1000円)、『悪魔の俳句辞典』(俳魔神の会編・邑書林・1835円)、というのもあるが、タイトルこそ「悪魔の辞典」だが、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』にあった普遍的な「諷刺」という側面はだんだんなくなってゆく。
 「諷刺」という点では、『悪魔の辞典』よりも時代が遡るが、『紋切型辞典』(G・フローベール著・平凡社ライブラリー・840円または岩波文庫・630円)が挙げられる。俗物思考を千項目以上一覧としている。原題は「世間で認容されたさまざまな考えの辞典」で、いわゆる「ほめごろし」である。フローベールに俗物思考を攻撃されても、フローベールを攻撃することはできないようなつくりにしている。
 他にも、『悪魔の辞典』のように「諷刺」という側面を持っている辞書や事典は多くある。 
 『世界毒舌大辞典』(ジェローム・デュアメル著・吉田城訳・大修館書店・3990円)は、皮肉、揶揄、罵詈雑言、ブラックユーモアを集めた悪口の大辞典。何でも痛烈に批判しているので、耳が痛い。文例を日本の文学作品から取っている『罵詈雑言辞典』(奥山益朗著・二六二五円)というのもある。
 『ジョーク・ユーモア・エスプリ大辞典』(野内良三著・国書刊行会・3990円)は、長いあいだ絶版になっていた『ふらんす小咄集』(旺文社文庫)にも収録されていた傑作に、新しいものを加えた本だ。まえがきでは、学者らしく「ジョーク」「ユーモア」「エスプリ」の違いも論じられていて興味深い。704もの話が集められている。この辞典にもブラックユーモアが多く含まれている。
 『珍説愚説辞典』(ジャン=クロード・カリエール、ギー・ベシュテル編・高遠弘美訳・4725円)は、今読むとばかばかしい説や珍説を集めている。「どうして星の位置が決まっているのか?」という質問に対し、神学校の元神学教授は「星々は天空を回っています。しかしあれだけ数が多いのに、互いに衝突することはありません。星は私たちの目を愉しませるために、適度に離れた場所に置かれているのです。壮麗な丸天井に点在する金色の点模様と同じことです。」と答えている……。『仏教珍説・愚説辞典』(松本慈恵監修・国書刊行会・6090円)も今月刊行予定。
 『女と男の日本語辞典 上』(佐々木瑞枝著・東京堂出版・上巻2310円・下巻2520円)は、言葉からジェンダー意識を探る本だ。「大根足」は「女性の太くて不格好な足を野菜の大根に見立てて、嘲って言う。男性には使わない」とある。「ごろつき」は「男に対してだけ使われる語で、男子には『家』を構え、『職』を持つことが当然とされ、それから外れ、ほかに寄宿・寄食すれば、それだけでもはみだし者となる」とある。新聞や小説での用例がたくさん載っている。日頃何の気なしに使っている言葉を、違った視点から見ることができる。
 『世紀末死語事典』(加藤主税編著・中央公論新社・945円)はキャピキャピ(死語)の女子大生から収集した死語のデータを整理・編集したもの。一つの語に意味・用例・女子大生による備考がつけられているが、刊行当時(1997年)は的確なつっこみであったであろうこの「備考」も今では古びている。意図しないところでも「死語事典」となっている。
 『不思議の国の昆虫図鑑』(伊藤博幸著・凱風社・1575円)は、少々問題がある行動を取る人を、虫にあてはめて見開きで紹介した本だ。著者はイラストレーターで、いずれもユーモラスなイラストが付けられている。「オオイソガシムシ」は「イソガシムシ科イソガシムカデ属」で、ほかに「ナニカトイソガシ」や「シワスオオイソガシ」などがいる、とされているなど芸が細かい。
 『下等百科辞典』(尾佐竹猛著・礫川全次校訂/解題・批評社・3990円)は、イロハ順の犯罪用語辞典だ。現職判事であった尾佐竹猛によって書かれ、明治四十三年から大正七年にかけて「法律新聞」に連載されていた。この本ではじめて単行本として出版された。隠語辞典としても使え、また当時の風俗習慣を知ることにも役立つ。忘れ去られたり、隠されたりしがちものを独特の文体で掬い取っている。政治家や行政府に対する鋭い批判も多い。
 幅広く、また奥深い辞書・事典の世界。ぜひあなたも探求して欲しい。