書標 2004.9月号
今月の表紙 歳時記〈9月〉 著書を語る 特集1・名古屋 特集2・合作
出版社訪問 書標・書評 新刊案内 トークセッションレポート ジュンク堂ベストセラー
読者から 本屋うらばなし インフォメーション バックナンバー
特集1 名古屋


 名古屋。この都市の名を聞いて、あなたは何を連想するだろう。名古屋といえば、シャチホコに味噌カツきしめん、ド派手な結婚式にドラゴンズ、過激なまでの郷土愛……今までであればこういった、どこかB級感漂うイメージが先行していたはずだ。
 ところが今、名古屋は日本でもっとも元気のある都市として、様々な分野で注目を浴びる存在となっているのだ。女性ファッション誌を見てみれば毎月のように「名古屋嬢」ファッションの特集が組まれ、多くの女性たちの関心を集めている。経済においては名古屋企業の東京進出が相次ぎ、名古屋のGDPは四年連続プラス成長を記録し、いち早く不況からの回復を遂げていることを証明している。その状況を見て、これまでどちらかというと揶揄される対象であった名古屋の合理性や過激さが、学ぶべき長所として再評価され始めている。
 我々にとって新鮮な魅力と驚きにあふれるこの名古屋という都市をより深く知るべく、今回は名古屋に関する様々な本を集めてみた。

■名古屋はこんな所

 名古屋が今注目されている、というのは、言い換えるならば、名古屋には他の都道府県にはないものがある、ということである。まずはそのような名古屋独特の感覚や気質、文化を分析した、いわゆる県民性についての本を紹介しよう。
 『名古屋学』(岩中祥史著・新潮文庫・460円)は名古屋生まれの著者による一冊。各章ごとに「社会学」「歴史・地理学」「経済学」などと題し、一般的なイメージの裏に隠れた真実の名古屋像を明らかにする。


知ってトクする!名古屋の事典』新潮文庫・1470円

 『知ってトクする!名古屋の事典』(牛田正行著・東洋経済新報社・1470円)は名古屋と名古屋弁に関する503項目からなる事典。基本的データだけにとどまらず、名古屋人にしか分からない地元ネタまで幅広く取り上げられている。
 『名古屋の謎だぎゃあ―ニッポン不思議発見!』(大ナゴヤ人元気会編・ワニ文庫・490円)と『まっぺん!名古屋の謎だぎゃあ―ニッポン不思議発見2』(岩中祥史、大ナゴヤ人元気会編・ワニ文庫・490円)は、名古屋とのかかわりを持つ人たちによる名古屋の分析。
 『摩訶不思議シティ名古屋の本』(中澤天童著・PHP文庫・540円)では、大都市でありながらもこれまで影の薄い存在であった名古屋の文化にスポットライトを当てる。
 『名古屋人の反省』(舟橋武志著・ブックショップマイタウン・1365円)は、これまた名古屋出身者の著書。名古屋の「くらし」「れきし」「まつり」「ほん」「ひと」の五分野について語っている。


■名古屋弁


 方言と聞いて日本人がまず思い浮かべるのは、やはり関西弁だろうか。しかしその関西弁も、テレビで頻繁に関西芸人を目にするようになった今、方言らしい力強さというものが失われているように感じる。その点名古屋弁は、今の名古屋の元気に見合ったパワーがあふれているように感じられはしないだろうか。
 名古屋弁といえば、やはり清水義範を外して語ることは出来ないだろう。『やっとかめ!大名古屋語辞典』(学習研究社・1575円)94年に初版、改訂決定版が98年に刊行され、さらにそれを21世紀版と改めたもの。中身はタイトル通り名古屋弁の辞典だが、掲載された言葉は当然名古屋の特色の一端を表わすものであり、それゆえこの本は名古屋の文化のガイド的な要素も含んでいる。
ナゴヤベンじてん』(荒川惣兵衛編・ブックショップマイタウン・1995円)は、『角川外来語辞典』(角川書店・絶版)の編纂で有名な荒川惣兵衛が自費で出版した幻の本の復刻版。
 『名古屋弁重要単語熟語集1〜5』(舟橋武志著・ブックショップマイタウン・4・5巻各1470円・3巻までは絶版)は爆笑必至の名古屋弁入門講座。例文が笑える。
 『声に出して読みてゃあ名古屋弁―なごや調小咄』(二代目勤勉亭親不孝著・すばる舎・1470円)は、名古屋弁を材料に、中部経済興隆の秘密を解き明かす。各章ごとに掲載されている名古屋弁の例文にも、名古屋人の気質がリアルに表れていて面白い。

■名古屋と経済


世界最強名古屋経済の衝撃
講談社・1680円
 

 『世界最強名古屋経済の衝撃』(講談社・1680円)は今年の一月に発行された本。中京大学教授で名古屋経済に詳しい水谷研治氏の著書で、長らくデフレの続く日本において唯一元気な名古屋経済の秘密を検証している。
 名古屋の景気の良さは具体的には次のような点でうかがい知ることができる。勤労者世帯の貯蓄額の平均が1571万円(日本一)。愛知県全体の自動車の保有台数が479万台(これも日本一)。貿易輸出額が七兆円(これも、日本一)。そして極めつけが、名古屋の経済だけでなく日本経済をも支える大企業・トヨタ自動車の純利益が1兆1620億円である(これに至っては世界一だ)。


トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして
ダイヤモンド社・1470円

そのトヨタの経営理念の基礎となったのが『トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして』(大野耐一著・ダイヤモンド社・1470円)である。1978年に発行された、ビジネス書の古典とも言える名著。トヨタの成功を支える生産方式の理論を分かり易く解説したロングセラーだ。
 そのトヨタの生みの親である豊田喜一郎氏の発表した文章やインタビューをまとめたのが『豊田喜一郎文書集成』(和田一夫編・名古屋大学出版会・8400円)だ。戦中、自動車製造というリスクの大きな事業に取り組み成功に至るまでの軌跡が収められている。
 世界一小さな歯車を作ったことで有名な樹研工業の創立者・松浦元男氏は名古屋の出身。『百万分の一の歯車!』(松浦元男著・中経出版・1470円)は、樹研工業を大企業にも負けない一企業たらしめた松浦氏の経営哲学が記されている。ちなみに世界一小さい歯車の重さは百万分の一グラム。用途はまだ決まっていないとのことでこれも驚きである。
 ミシンや通信機器などの電気製品で有名なブラザー工業の本社も名古屋にある。『ブラザーの再生と進化』(生産性出版・1680円)は、1989年から14年間ブラザー工業の社長を務めた安井義博氏が、80年代後半の深刻な経営危機をいかに乗越え、過去最高の売上高を記録するまでに再生を果たしたのか、その過程が克明に描かれている。
 「ココイチ」の愛称で有名なカレーハウス・CoCo壱番屋も、愛知県に籍を置く企業のひとつ。その社長である宗次徳二氏には、『成功するカレーハウス・驚異の社長製造法 自己資金0でも3年で社長になれる!』(旭屋出版・1330円)という著作がある。氏が作り上げた一風変わったチェーン店運営の方式について述べられた本。
 名古屋名物の一つに「ひつまぶし」という料理がある。そのひつまぶしの名店・蓬莱軒の女将が書いた一代記が『100万粒の涙 名古屋「ひつまぶし」繁盛記』(鈴木せき子著・NHK出版・1365円)だ。ひつまぶしと共に歩んだ60余年の人生を、喜怒哀楽で振り返る。
 『名古屋の企業経営入門』(二神恭一、芝隆史編著・八千代出版・2625円)は、名古屋の企業事情に精通した学者たちが、名古屋の学生・社会人に向けて経営学について記した本。トヨタやエクセレント・カンパニーなど、特色ある中部の企業に焦点を当てながら、分かりやすく解説する。


森村市左衛門の無欲の生涯

 『森村市左衛門の無欲の生涯』(砂川幸雄著・草思社・2100円)は、衛生陶器のTOTO、タイルのINAX、碍子の日本ガイシ、プラグの日本特殊陶業、洋食器のノリタケ、この五大陶磁器企業の歴史の創業者である森村市左衛門の初の本格評伝。森村の崇高な理想と驚くべき経営手法が生き生きと語られている。
 『名古屋でがんばる100社の履歴書』(岩田憲明著・中央経済社・1785円)はその名の通り、名古屋経済を支える百社を紹介したもの。不教知らずの名古屋経済の秘密が何か見えてくるかもしれない一冊である。


■名古屋郷土史

 「尾張名古屋は城で持つ」と言われるように、今日の名古屋の発展は江戸時代における徳川家の威光と切り離して考えることはできない。
 しかし、『古事記物語』(福永武彦著・岩波少年文庫・756円)などを読むと、東海地方を舞台にしたエピソードが意外に多いことに気づく。古代より交通の要所として機能していたことがうかがわれる。
木曽川は語る』(
木曽川文化研究会編・風媒社・2625円)は、愛知県をぐるりと取り囲む木曽川に焦点を当て、この地域の歴史を紹介している本。海路・陸路の発達が東海地方の発展に重要であったことがわかる。また、この地方では有名な史実である薩摩義士による木曽川の治水工事についても触れられている。
 『愛知県の民話』(日本児童文学者協会編・偕成社よりオンデマンド出版・3780円)では、名古屋を中心に古代から現代に至るまで、多くの伝承が収録されている。名古屋の文化的な豊かさを知るのに手頃な一冊だ。
 戦国時代には織田信長、豊臣秀吉というヒーローを輩出し、名古屋という土地の重要度はますます高まる。『国盗り物語 全4巻』(司馬遼太郎著・新潮文庫・740〜900円)など、戦国時代を描いた小説では名古屋がしばしば舞台となる。
 江戸時代には徳川御三家の一つとして尾張は栄える。そんな尾張藩士の綴った日記が『摘録鸚鵡篭中記 上』(朝日重章著・岩波文庫・各798円)である。当時の武士の生活ぶりを知ることができる。神坂次郎の『元禄御畳奉行の日記』(中公新書・693円)は、この『摘録鸚鵡篭中記』をわかりやすく書き改め紹介した本である。
 名古屋城に関する本もいくつか紹介しておこう。建築物としての名古屋城について知りたいのなら、『名古屋城―尾張を守護する金の鯱』(学習研究社・2415円)に詳しい。戦国最大にして最後の要塞であった名古屋城の、知られざる魅力に迫る。写真も多く、目にも楽しめる。
同じ学習研究社から出ている『よみがえる日本の城 1〜5』(各714円)というシリーズは、日本各地の名城を取り上げ、CG・模型・古地図を駆使して史上で再現するビジュアルブック。その第三巻も、名古屋城をはじめ岡崎城・犬山城・田代城・西尾城が収録されている。
 

よみがえる日本の城 第三巻