エラリイ・クイーンや藤子不二雄、岡嶋二人、「キン肉マン」のゆでたまごなど合作ペンネームは数多い。また、夫婦合作というのもたくさんある。しかし、それぞれがもともと名を知られているビッグネーム同士の合作というのは数が限られてくる。話はもちあがっても、結局予定があわなくて立ち消えになってしまうのだろうということはすぐ予測がつく。今回はそんな苦労を乗り越えて完成までたどりついた本を紹介しよう。 作家同士の合作は、圧倒的にミステリの分野に多い。夫婦合作と現在手に入らないものは挙げていない。 ミステリの巨匠エラリイ・クイーンがフレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの合作ペンネームだということは周知の事実だが、『盤面の敵』(ハヤカワ文庫・819円)は、彼らのプロットをもとにSF作家であるシオドア・スタージョンがゴーストライターを務めたという複雑な合作本(?)。この時期以降のエラリイ・クイーン作品ではいろいろな若手作家がゴーストライターをしているという。 ジョン・ロードとカーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)による合作は『エレヴェーター殺人事件』(ハヤカワポケットミステリ・1050円)だ。ミステリの巨匠同士の合作で、題名通り密室殺人もの。 それぞれミステリ作家として活躍していたピエール・ボアローとトーマ・ナルスジャックは数々の合作を残しているが、現在たやすく手に入れることができるのは『悪魔のような女』(ハヤカワミステリ文庫・530円)のみ。アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督によって映画化もされている作品で、保険金殺人の話。 名無しの探偵シリーズで知られるビル・プロンジーニと、ミステリばかりではなくSFも書くバリー・N・マルツバーグによる合作もいくつもあるが、これも今のところ二点しか手に入らない。驚天動地の結末が用意されている『裁くのは誰か?』(創元推理文庫・756円)と反則すれすれのフーダニットものの『嘲笑う闇夜』(文春文庫・770円)。 『悪霊の群』 山田風太郎と高木彬光による合作というものもあり、『悪霊の群』(出版芸術社・1680円)。山田風太郎作品に登場する荊木歓喜と高木彬光作品に登場する神津恭介が競演する。2000年に36年ぶりに復刊された。 『白銀荘の殺人鬼』(光文社文庫・650円)は二階堂黎人と愛川晶による合作本。カッパノベルスで出されたときは、彩胡ジュンというペンネームがつけられていて、作者当てクイズも実施されていた。スキーシーズンのペンションを舞台にしたサイコ・サスペンス。 純文学作家同士のコラボレートといえば、映画化もされた恋愛小説『冷静と情熱のあいだ』(角川文庫・各480円)。江國香織が女性の視点から書いた「Rosso」と、辻仁成が男性の視点から書いた「Blu」の二冊に分かれている。事実はひとつのはずなのに、異なる人間からみるとこんなにも違ってしまう。すれ違いがせつない。 作家とほかの分野の人との合作本もいくつかある。 『夜のくもざる』(平凡社・2039円)は、雑誌のシリーズ広告のために村上春樹が短い話を書いて、それにあわせて安西水丸がイラストを描いたものを収録している。一部がJ・プレスという洋服の広告、二部がパーカー万年筆の広告のためのもので、広告に小説を載せるというもともとのアイデアは糸井重里がだしたのだという。一部書下ろしも含まれている。 『だれかのことを強く思ってみたかった』(角田光代著・佐内正史写真・実業之日本社・2499円)は、中央線沿いに住んでいるという二人がいっしょに東京の街を歩いたことからインスパイアされてできた短編集+写真集。初版には佐内正史のポストカードも付いている。 『俺、南進して。』(新潮社・1995円)は大阪を舞台として町田康を主役にアラーキーが写真を撮り、その写真にインスパイアされて町田康が小説を書き下ろした本。写真からも行間からも濃密なものがあふれ出す。熱をだしそうなほどエネルギーに満ち満ちているので、本を読む側にも覚悟が必要だ。 いとうせいこうの文と子どもの頃から「仏像スクラップ」を作るほど仏像が大好きだったというみうらじゅんのイラストで構成されたのが『見仏記』(角川文庫・672円)。まっとうな旅行記・ガイドとして読めるいとうせいこうの文と、仏像への愛がみっしりつまったみうらじゅんのイラストはそれぞれの役割を百パーセント果たしていて読んでいておなかいっぱい。欄外にまでうんちくが。 『ハプニングみたい』 いとうせいこうには他にも合作本がある。『ハプニングみたい』(講談社・1000円)は、岡崎京子のイラストからいとうせいこうがストーリーを考えたもので、7話収録されている。ただしそのイラストというのが完成途中のものも何枚も掲載されており、その出来あがっていく過程に沿って物語が考えられているのだ。完成までに時間がだいぶかかっただろうと想像されるが、2人の想像力の飛躍がすばらしい。 作家と漫画家の合作本はほかにもある。『猫田一金五郎の冒険』(講談社・1470円)には、「美容院坂の罪作りの馬」というとり・みきと京極夏彦の合作(横溝正史のパロディ)が収録されている。ストーリーを京極夏彦が考えた、という類いの合作ではない。京極夏彦も漫画を描いているのだ。しかもけっこう上手くて驚く。装丁も凝っていて、表紙にまで漫画が描かれている。何が何でも購入させようという姿勢がたのもしい。 とり・みきは合作好きなのか、同じ漫画家のゆうきまさみとも『土曜ワイド殺人事件』(角川書店・945円)という漫画を描いている。以前徳間書店から出ていたものが角川書店から復刊された。合宿までしてネタだしをしたそうでやる気まんまんのように思えるが、連載を持つ人気漫画家同士でスケジュールを合わせる苦労話が編集者もまじえて巻末で語られている。 漫画家同士の合作はいろいろあるが、単行本化されていて入手可能なのは次の2冊。 『お父さんは心配症 第四巻』(岡田あーみん著・りぼんマスコットコミックス・410円)には、引退し伝説となってしまった漫画家・岡田あーみんとさくらももことの合作が収録されている。「お父さん」の強烈なキャラクターと「ちびまるこちゃん」のほのぼのキャラが同じページに同居している。不条理なストーリー展開にまるこもたじたじ。独特の世界がめまぐるしく展開する。 講談社「アフタヌーン」の漫画家が勢ぞろいしたのが『大合作』(1050円)だ。トニーたけざき総指揮の創刊十周年記念作と、園田健一総指揮の創刊十四年記念作をまとめたもの。一ページに何種類もの絵柄がつまっていてくらくらするが、これだけ大人数の漫画家をまとめあげた手腕には感服する。ある漫画家の漫画を別の漫画家が描いたイラストもたくさん収録されていて、楽しめる。 そのほかの分野では、『まなざしの記憶――だれかの傍らで』(阪急コミュニケーションズ・2575円)がある。哲学者の鷲田清一が植田正治の写真を選び、文をつけるというかたちをとっている。「ホスピタリティ」について考えるとき、鷲田は必ず植田正治の写真を思い浮かべるのだという。哲学的な問題にかかわる文もあるが、それよりも多く身の回りのことに関する卓越したエッセイが並んでいる。 『あさ/朝』(アリス館・1365円)は、右から読むと「朝」という詩集、左から読むと「あさ」という絵本になる珍しい本で、奥付が真ん中のページにある。詩集のほうは、既に発表されている谷川俊太郎の朝についての詩に吉村和敏が写真をつけていて、絵本のほうは、吉村和敏の写真に谷川俊太郎が書き下ろしで文をつけている。 『あさ/朝』