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小説家としての乱歩が活躍していたのは、大正末期から昭和初期にかけて、今から70年以上も昔のことだが、現在でもほぼ全作品が新刊書店に並んでいる。大衆文学の世界でこれほどの人気を維持している作家は数少ない。 まず、手っ取り早く乱歩を読んでみたいという方には、春陽文庫の「江戸川乱歩文庫」(全30冊・各450円〜570円)がお薦め。現時点で児童向けを除いた全作品を読めるのは、このシリーズだけである。 一方、創元推理文庫の「乱歩」シリーズ(現20冊・各525円〜819円)は、刊行ペースが極端に遅く、なかなか完結しないものの、編集方針では春陽文庫版を圧倒している。乱歩の全集は生前に何度も刊行されているが、その最後のものである桃源社版全集を底本とし、初出時の挿絵をできる限り収録するというやり方で、乱歩全集の決定版を目指している。じっくりと乱歩を体験したいという方には、こちらがお薦めだろう。 ![]() 『江戸川乱歩全集 第1巻』 光文社文庫・1050円 さらに昨年から光文社文庫でも「江戸川乱歩全集」の刊行が始まった(現13冊・各900円〜1100円・毎月1冊発行)。これは創元推理文庫とは対照的に、それぞれの作品が初めて収録された全集を底本とし、詳しい解題をつけたマニア向けの内容となっている。さらに、これまで単行本化されていなかった幼児向けの作品も含め、全ての小説が収録される予定となっている。乱歩の全てを知りつくしたいという上級者にお薦め。 一般的には名探偵・明智小五郎が悪人と戦う長編小説で知られる乱歩だが、本格ミステリ・幻想文学のファンからは短編作家として高く評価されている。その短編小説を全て収録したのが、ちくま文庫の『江戸川乱歩全短篇』(日下三蔵編・全3冊・各1260円)である。全体を「本格推理」編と「怪奇幻想」編とに分類している。 また、怪人二十面相で知られる児童向けの「少年探偵団シリーズ」は、「少年探偵・江戸川乱歩」としてポプラ社から刊行されている(全26冊・各1029円)。98年から新装版に切り替わり、挿絵や装丁などが改められ、今も子どもたちに読まれている。 ![]() 『日本探偵小説全集(二)江戸川乱歩集』 創元推理文庫・1260円 もちろんいきなり全集に手を伸ばすのはためらわれる方も多いだろう。そんな方には、傑作選もいくつか編まれている。 本格ミステリ・幻想文学に絞って代表作を編集したのが創元推理文庫の『日本探偵小説全集(二)江戸川乱歩集』(1260円)である。「屋根裏の散歩者」「陰獣」「パノラマ島奇談」などの名作がずらりと並び、これ一冊で乱歩の魅力は網羅されている。 新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』(460円)は、短編を九編にまで絞って紹介し、手軽に乱歩に触れられる内容となっている。
![]() 『幻影の蔵』 東京書籍・8000円 江戸川乱歩に関する研究書もいろいろと発行されている。 まず、近年最大の収穫は、一昨年に発行されてファンを驚かせた、新保博久と山前譲による『幻影の蔵──江戸川乱歩探偵小説蔵書目録』(東京書籍・8000円)である。池袋にある旧江戸川乱歩邸に収蔵されている探偵小説コレクションの詳細な記録で、乱歩の読書傾向だけでなく、当時の海外ミステリ翻訳事情についても窺い知ることができる、貴重な資料となっている。また、付録のCD‐ROMは、乱歩邸探索を疑似体験できる機能など、遊び心のある楽しい内容となっている。 十年前の乱歩生誕百周年を記念して刊行された大冊が『乱歩 上・下』(新保博久、山前譲編・講談社・各6090円)である。乱歩の主要作品、エッセイに加え、小酒井不木、夢野久作などによる同時代評、また中井英夫、笠井潔ら、現代作家の視点からの評論などを集大成し、乱歩の批評書としては資料価値の高い内容となっている。 フランスミステリの評論家として知られる松村喜雄は『乱歩おじさん』(晶文社・2345円)という本を書いている。著者は乱歩と親戚関係にあり、幼少の頃より乱歩と身近に接していた。評論家として乱歩の業績を整理する一方で、親戚として「乱歩おじさん」の素顔を描き、面白い本になっている。 『江戸川乱歩ワンダーランド』(沖積舎・1365円)は、さまざま人たちから乱歩にまつわる文章を集めた本。島田荘司による乱歩論など、読み応えのあるものが揃っている。 平凡社コロナブックスの一冊『江戸川乱歩』(1600円)は、都筑道夫、荒俣宏、佐野史郎らによるエッセイを集め、乱歩に関連した写真やイラストなどとともに収録したもの。さまざまな角度から乱歩の魅力を知ることができる。 また、『文藝別冊 江戸川乱歩』(河出書房新社・1200円)は、横溝正史との書簡、著名人の書いた乱歩にまつわる雑多な文章などを集めた1冊。中でも、新発見された未発表小説は貴重だ。 江戸川乱歩と言えば、子どもの頃に怪人二十面相と明智小五郎との戦いを愛読された方も多いだろう。その少年探偵団シリーズの研究書も2冊出ている。 『少年探偵団読本』(黄金髑髏の会編・情報センター出版局・1631円)は、単行本未収録を含めた全作品解説をはじめとし、主要キャラクターの紹介や、魅力の分析など、充実した内容。 一方『江戸川乱歩と少年探偵団』(堀江あき子編・河出書房新社「らんぷの本」・1575円)は、図版や写真などの資料が充実している。挿絵画家の比較などは面白い記事だ。 乱歩は同業の作家にとっても色々と興味深い人物であるらしく、乱歩をテーマにした小説も数多い。 『乱歩の幻影』(日下三蔵編・ちくま文庫・1050円)は、乱歩をテーマにした小説、あるいは乱歩が登場する作品など10編を収録したアンソロジー。伊賀出身である乱歩をネタに人を喰った忍法小説を仕立てる山田風太郎や、名作「目羅博士」の続編を狙った竹本健治、現代の東京を舞台に幻想的な物語を綴る島田荘司など、壮観である。 劇作家・北村想の『怪人二十面相・伝』(出版芸術社「ふしぎ文学館」・1680円)は、少年探偵団シリーズの一エピソードでポロリと明かされる二十面相の本名と素顔を膨らませ、彼の生い立ちを小説に仕上げている。 久世光彦の『一九三四年冬‐乱歩』(新潮文庫・500円)は、実際にあった乱歩の失踪をテーマに、失踪期間中の乱歩を描いている。作中に登場する「梔子姫」という架空の乱歩作品が話題となった。 小説と言えば、極めて異色な作品が岩田準子『二青年図』(新潮社・1785円)である。著者は乱歩の挿絵画家として活躍した岩田準一の孫で、乱歩と準一の同性愛が本書のテーマになっている。どこまで本当なのかよくわからないが、ひとまずは小説として読んでおきたい。 また、乱歩の小説を漫画化した作品も昔から数多い。現在入手可能なものとしては、藤子不二雄A『怪人二十面相』(全2冊・ブッキング・各410円)、高階良子『黒とかげ』(講談社漫画文庫・630円)、横山光輝、古賀新一らの作品を集めた『白髪鬼』(角川ホラー文庫・840円)などがある。また、山田貴敏が少年探偵団シリーズの諸作をコミック化した『少年探偵団』(小学館ビッグコミックス・現1冊・530円)が、現在刊行中である。いずれの作品も、原作を尊重しながらもそれぞれの時代の読者にあわせたアレンジが加えられていて面白い。
乱歩が活躍した戦前の時期は、雑誌「新青年」を中心に多くの探偵小説作家が人気を集め、第一次ミステリブームを形成していた。
大正12年に短編「二銭銅貨」でデビューした乱歩は、昭和初期にかけて人気作家として活躍した。この時代は関東大震災を挟み、近代都市・東京が形成された時期にあたり、乱歩の作品は当時の街や風俗を知るための貴重な資料ともなっている。
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