書標 2004.8月号
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特集2 人生相談

 人間は悩み深いものであるが、現実に悩みが解決することは少ない。ただ、私たちが気の持ちようを換えて行動するだけである。
 喫茶店に行って二人以上が席に着いている卓に耳を澄ませてみる。その半分以上は世間話から悩み相談へと話題が移行している。悩みを人に話すことで、自分の中に客観的な視点を持ち、且つ第三者の意見を聞いてみるのだ。様々な人がいるぶんだけ様々な悩みがある。それでも悩みに普遍性を見出すことができる。むしろ回答のほうがばらばらである。
 例えば、『大正時代の身の上相談』(カタログハウス編・ちくま文庫・714円)では、教師になりたいが、このまま勉学を続けるべきか、結婚をするべきか。といった悩みや、定職につかずに次々と転職を重ねてしまう悩み、出産後の職場復帰への悩み等現代の人々が抱える悩みとそう変わらない。これに対する解答も現代の私から見てもそれほど現代の価値観と違いがあるとは感じない。違いを感じるとすれば、男女の社会的な地位の違いで夫が妻の純潔を疑う相談がしばしば見られることである。それでも、家庭生活についての相談は妻が自分をないがしろにするという夫や夫の浮気に悩む妻など現代の人生相談と相違ない。
 オーソドックスな人生相談回答者は宗教関係者である。例えば僧侶などは説法を行い人々によりよい生き方の指南をしているが、人生相談の回答も宗教活動の一環として数多くの書籍が出版されている。有名なところでは、作家兼尼僧である瀬戸内寂聴の書籍がある。『瀬戸内寂聴の人生相談』(NHK生活人新書・672円)『寂聴相談室 人生道しるべ』(講談社文庫・580円)などの人生相談の書籍を出版している。『あおぞら説法』など数多くの仏教関連書籍を出版する一方で、雑誌や新聞など数多くのメディアで人生相談に対して仏教を絡めた回答を寄せている。
 瀬戸内寂聴の師匠である今東光は参議院議員、直木賞作家でありながら天台宗大僧正、中尊寺貫主として活動した。瀬戸内寂聴と同じように奔放な人生経験をもとに過激な毒舌で他の宗教関連書とは一線を画す人生相談の回答を寄せた。『毒舌身の上相談』(集英社文庫・520円)では毒舌ながらも爽快な口調で悩める人々に喝を入れている。
 同じ作家でも、芥川賞作家で現役僧侶でもある玄侑宗久は、『まわりみち極楽論』(朝日新聞社・1470円)で僧侶らしく仏の教えを説いている。
 前に述べた3人は宗教者と作家を兼ねているが、ものを考え文筆するという職業のせいか、作家も人生相談の回答者になることが多い。
 芥川賞作家でミュージシャンの町田康と作家のいしいしんじの共著である『人生を救え!』(毎日新聞社・1575円)では、帯に「苦しみよ さようなら」と頼もしい文句が書かれ、書籍の前半で読者からの人生相談に対して町田康が回答している。町田康の適度に脱力したそれでいてどこか神経に障るような文章と同じようにところどころどきりとして納得させられるような回答が載せられている。
 インターネットから出てきた作家の田口ランディは『田口ランディの人生相談 神様はいますか?』(マガジンハウス・1260円)を出版している。直接読者からの反応が帰ってくるインターネットのように、田口ランディのエッセイは常に読者を意識して語りかけるように書かれている。人生相談本である本書も田口ランディのエッセイと同じくまるで相談者に語りかけ説得するように回答している。
 橋本治の『青空人生相談所』(ちくま文庫・714円)は客観的な回答のところどころに意地悪さが漂っていて大変面白い。人生相談を読むと、相談者があまりにも虫の良い回答を期待して相談していたり、見ず知らずの回答者に対して身近な人にするように甘えた相談をしたりしていらいらさせられることがある。橋本治はそういった相談に対して、「質問の意図が分からない」「答える必要はない」など時にははっきり宣言して相談者と非相談者という一方的に寄りかかりきりになりがちな関係にもきちんとした距離をとっていて爽快である。
 他には作家で詩人でもある伊藤比呂美の『万事OK』(新潮社・1050円)がある。作家ではないが、白夜書房の取締役で「平凡パンチ」など数々の伝説の雑誌を立ち上げたカリスマ編集者・末井昭の『スエイ式人生相談』(太田出版・840円)は著者が着物を着て女装し三つ指をついている目を引く表紙だが、内容は人生経験豊富な末井昭の堅実な人生相談本である。朝日文庫からシリーズで出版されている『中島らもの明るい悩み相談室』(中島らも著・朝日文庫・504円)は、また、ターバンのインド人は日本でスクーターに乗るときヘルメットをどうするのだろうか?といった明るくて何気ない相談にひさうちみちおや内田春菊、みうらじゅんなどの挿し絵つきで中島らもが答えている。
 人生相談ではジャンルが独立している分野がある。恋愛相談である。
 恋愛相談の回答者は当然だが恋愛に精通していると思われる人が回答者になる。その顕著な例が、数々の恋愛・結婚に関するエッセイで知られ『ブリジット・ジョーンズの日記』(ヘレン・フィールディング著・ソニーマガジンズ・735円)でブリジットがすがっていたジョン・グレイ博士の『恋がうまくいかない本当の理由』(ソニーマガジンズ・1260円)だ。本書は博士が回答者を務める新聞や雑誌連載の恋愛相談コーナーをまとめたもので、「異星人」同士といえるほどに違った生き物である男と女それぞれの悩みを、「金星人(女性)の悩み」「火星人(男性)の悩み」という二つのパートに分けて収録している。
 「だめんず・うぉ〜か〜」シリーズで知られる倉田真由美のコミック人生相談『たま先生に訊け!』(双葉社・900円)はアクションという男性向けの雑誌に連載されていたので男性からの恋愛相談が多い。問いに対し、倉田真由美は自分の経験を交えて解答している。おまけのページとして漫画家のさかもと未明と倉田真由美が対談形式で読者からの悩みに答えるコーナーと、書評家の吉田豪が様々な人生相談本を紹介するコーナーがついている。吉田豪のコーナーは、絶版の書籍がほとんどを占めるが、スポーツ選手や作家など様々なジャンルの回答者による様々な人生相談本が紹介されていてあらすじを読むだけでも楽しめる。
 テレビのバラエティー番組でしばしば恋愛に関するコメントを寄せている作家の室井佑月と岩井志麻子もそれぞれ恋愛相談の本を出版している。
 『恋のQ&A』(室井佑月著・文春ネスコ・1470円)は一章が女性編、二章が男性編と分かれている。『ぼっけえ恋愛道――志麻子の男ころがし』(岩井志麻子・太田出版・800円)は岩井志麻子が自分の恋愛観を語っている。相談内容は、どうしたら好きな人に振り向いてもらえるか、相手の浮気を止めるにはどうしたら良いか、などで先に出てきた『大正時代の身の上相談』とそれほど変わっていない。
 恋愛相談で恋愛の達人と思われる人が回答を寄せるように人生相談では回答者の説得力、カリスマ性が重要になる。したがってある分野で成功した人が人生相談の回答者になることが多い。スポーツ選手などがその顕著な例である。
 プロレスラーで若者にも根強いファンを持つアントニオ猪木は何冊か人生相談本を出版しているが、現在手にすることができるのは『アントニオ猪木の人生相談 風車の如く』(アントニオ猪木著・集英社・1575円)のみである。相談者は圧倒的に男性が多く、みな猪木を慕っているのが分かる。作家への人生相談では自分の抱えている問題に解答を出してもらおうという相談が多かったが、本書では自分の兄にでも相談するように喧嘩に強くなる方法、外見的なコンプレックス、例えばデブだけどかっこよく見せるにはどうしたらよいか、という相談を寄せている。対する回答者の回答も大変豪放で、後輩の妻に一目ぼれしたのだがどうしたらよいかという相談に後輩の妻も後輩もものにしてしまって三つ巴になれ、とすすめている。
 スポーツのジャンルでは梶原一騎の弟で空手家の真樹日佐夫『マッキーに訊け!真樹日佐夫のダンディズム人生相談』(ぴいぷる社・1470円)もある。
 回答者がスポーツ選手、特に格闘家の場合、相談者は回答者に問題の解決策を提示してもらうというよりは回答者のようになりたがっているようにみえる。
 他に人生相談の回答者としては、知名度から芸能人がなることも多い。
 タレントのYOUの『YOUのこれからこれから』(宝島社・1260円)は女性の相談者が恋愛や年のとり方などのアドバイスを求めている。
 同じタレントでも高田純次の『人生教典』(河出書房新社・1000円)はどこからどこまで本当なのか、おちゃらけていて娯楽本として楽しめる。
 一口に人生相談といっても深刻なものからそうでないものまで多くの書籍が出版されている。