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「今どきの若者は・・・」はいつの時代も耳にする言葉である。その若者もいつしか大人になり、また「今どきの若者は・・・」を繰り返すことになる。
80年代はニューアカデミズムをはじめ、消費論や都市論、若者論などが流行した時代だった。 83年に出版された『構造と力』(浅田彰著・勁草書房・2310円)は、難解と言われるフランス現代思想(ラカンやドゥルーズ=ガタリなど)を紹介した本だが、異例のベストセラーとなり、同年に出版された『チベットのモーツァルト』(中沢新一著・講談社学術文庫・1103円)とともに、いわゆる「ニューアカ」ブームを生み出したとされる。翌年に刊行された『逃走論』(浅田彰著・ちくま学芸文庫・693円)からは、「スキゾ」「パラノ」などの流行語が生まれた。 80年代フェミニズムの旗手と言われた上野千鶴子がデビューしたのは、82年のことだった。『スカートの下の劇場』(河出書房新社・494円)はベストセラーになった。80年代日本の消費社会を分析した本に『〈私〉探しゲーム』(ちくま学芸文庫・1050円)がある。 80年代に流行した「ポストモダン」とは何だったのか?興味のある読者の方は、『差異としての場所』(柄谷行人著・講談社学術文庫・1050円)や『郵便的不安たち#』(東浩紀著・朝日文庫・819円)などを一読されたい。 80年代に入ると、マーケティングの分野を中心に消費論ブームが起きている。電通や博報堂などの広告代理店が提唱した80年代の新しい消費者像(「少衆論」や「分衆論」など)は大きな反響を呼び、消費社会をめぐる言説において『柔らかい個人主義の誕生』(山崎正和著・中公文庫・620円)といった大衆社会論が注目された。 このブームに記号論、とりわけジャン・ボードリヤールの消費社会論が与えた影響は大きいと言われる。ボードリヤールは『消費社会の神話と構造』(今村仁司・塚原史訳・紀伊國屋書店・2039円)や『シミュラークルとシミュレーション』(竹原あき子訳・法政大学出版局・2625円)などの著作において消費社会の記号論的分析を行なったが、マーケティングのパラダイムを提出するものとして好都合に受容され、記号や差異を強調する「消費記号論」がマーケット戦略のうえで脚光を浴びることになった。 80年代は都市論が流行した時代でもあった。文学作品をテキストにして都市を読み解いた『都市空間のなかの文学』(前田愛著・ちくま学芸文庫・1680円)や、後の東京論ブームを生んだ『東京の空間人類学』(陣内秀信著・ちくま学芸文庫・945円)は、80年代書かれた都市論を代表する作品である。『江戸東京学事典』(小木新造ほか編・三省堂・5040円)では、あらゆる視点から江戸東京が解読された。 86年には「路上観察学会」が発足され、話題を呼んだ。『路上観察学入門』(赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊編・ちくま文庫・819円)は、そのマニフェストの書である。『超芸術トマソン』(赤瀬川原平著・ちくま文庫・945円)や『建築探偵の冒険 東京篇』(藤森照信著・ちくま文庫・819円)では、それまでになかった視点から東京が描かれている。 最近の本では、80年代的な広告都市を象徴する「渋谷」が90年代に移行するにつれて変容していく過程を分析した『広告都市・東京――その誕生と死』(北田暁大著・廣済堂出版・1470円)、かつての電気街からオタク街へと変貌しつつある「秋葉原」の現在の姿を描き出した『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』(森川嘉一郎著・幻冬舎・1575円)をお勧めしたい。 新しく登場してきた「新人類」をめぐる若者論が隆盛したのも80年代だった。 『若者論を読む』(小谷敏編・世界思想社・1988円)では、70年代〜80年代にかけて提出された若者論を紹介、整理しながら、それらの言説が産出された時代背景やその意味を考察している。 「おたく」をめぐっては、今日まで様々な視点から多くの議論が積み重ねられてきている。80年代の終わりに書かれた『定本物語消費論』(大塚英志著・角川文庫・650円)をはじめとして、『コミュニケーション不全症候群』(中島梓著・ちくま文庫・672円)、『電子メディア論』(大澤真幸著・新曜社・3045円)、『オタク学入門』(岡田斗司夫著・新潮OH!文庫・750円)、『戦闘美少女の精神分析』(斎藤環著・太田出版・2100円)、『動物化するポストモダン』(東浩紀著・講談社現代新書・693円)など枚挙に暇がない。今年に入って、「1980年代論」という副題をもつ『「おたく」の精神史』(大塚英志著・講談社現代新書・998円)が出版された。 ![]() 『「おたく」の精神史』 講談社現代新書・998円
80年代にベストセラーとなった文芸書には、『なんとなく、クリスタル』(田中康夫著・新潮文庫・460円)や『サラダ記念日』(俵万智著・河出文庫・462円)などがある。
ここからは80年代に起こった代表的な事件や事故を振り返りつつ、それ関する書籍を紹介しよう。 あの一億円拾得事件の起こった80年、新宿駅西口で起きたのが、バス放火事件である。停留所に停まっていたバスの中に火とガソリンが投げ入れられ、多くの死傷者を出した事件である。『生きてみたい、もう一度』(杉原美津子著・新風舎文庫・725円)は、この凶悪事件の被害者の一人である著者が、全身の80パーセントを焼かれ、2度も生死の境をさまよいながらも懸命に己の人生と立ち向かう姿を描いた感動作。85年には桃井かおり主演で映画化もされている。 84年、日本中を震撼させたのが、グリコ・森永事件である。江崎グリコ社長誘拐に端を発し、次いで食料品メーカーであるグリコと森永他4社に対して相次いで脅迫が行われ、青酸カリ入りの菓子がばらまかれた事件である。自らを「かい人21面相」と名乗る犯人は未だ捕まらず、事件は2000年に全事件で時効を迎えることとなった。この事件に関しては、『グリコ・森永事件』(朝日新聞大阪社会部編・新風舎文庫・830円)、『闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相』(一橋文哉著・新潮文庫・660円)、『グリコ・森永事件 最重要参考人M』(宮崎学、大谷明宏著・幻冬舎文庫・560円)などに詳しい。 85年の重大ニュースと言えば、日航ジャンボ機の墜落だろう。羽田空港から大阪に向かって飛行していた日航ジャンボ機が群馬県・御巣鷹山の尾根に墜落。歌手の坂本九氏を含む乗客乗員520名が死亡するという大惨事となった。『日航ジャンボ機墜落』(朝日新聞社社会部編・朝日文庫・588円)には、マスコミの立場から事件をどのように捉え、報道したのか、その全記録が収められている。『葬り去られた真実 日航ジャンボ機墜落事故の疑惑』(宮本浩高著・青心社・1995円)は、この事故におけるマスコミの報道姿勢や日本の危機管理のあり方に警鐘を鳴らすドキュメント。『墜落の夏』(吉岡忍著・新潮文庫・540円)は、事故を取り巻く、たくさんの関係者―遺族、被害者、日航社員、警察―など、それぞれの視点から浮かび上がった事実を緻密に描いている。『墜落遺体』(飯塚訓著・講談社+α文庫・714円)は、この事故において検死を行った担当警察官の立場で書かれた本。そのため事故そのものについて知るに適した本ではないが、「遺体」から見えてくる事故の悲しみや不条理さが伝わってくる本である。同じ著者の続編、『墜落現場 遺された人たち 御巣鷹山、日航機123便の真実』(講談社・1575円)も併読されたい。 また、85年には阪神タイガースが21年ぶりに日本シリーズを制し、関西は大トラ・フィーバー。その熱狂を小説という形で表したのが、『1985』(真田至著・太田出版・1575円)である。吉田義男元監督をして「読んでいて、ホンマに優勝するのかとハラハラする」と言わしめた、阪神的青春小説。あの感動をご存じの方は、胸が熱くなること必至である。 87年、バグダッド発ソウル行の大韓航空機が爆破され、乗員乗客115人全員が死亡した。重要参考人として拘束された2人の男女は「蜂谷信一」「蜂谷真由美」という日本名を名乗り、一時、日本を騒然とさせた。その後、蜂谷真由美=金賢姫により事件の全貌が明らかにされた。『破壊工作』(野田峯雄著・宝島社文庫・680円)は、この偽装と謀略にあふれる事件を、緻密な取材力で描いたノンフィクションである。『北朝鮮女秘密工作員の告白 大韓航空機爆破事件の隠された真実』(趙甲済著・池田菊敏訳・徳間文庫・540円)は、朝鮮日報社の記者である著者が、この事件の実行犯である金賢姫に徹底した単独インタビューを行い、書き上げたドキュメント。その金賢姫が自らの半生を綴った『いま、女として 金賢姫全告白 上下』(金賢姫著・文春文庫・各650円)は、ベストセラーとなった。 消費税制度のスタートした80年代最後の年、89年には幼女を誘拐し殺すという、あの宮崎勤事件が起きた。『宮崎勤事件 塗り潰されたシナリオ』(一橋文哉著・新潮文庫・620円)は、捜査資料と精神鑑定書の再検討、関係者へのねばり強い取材によって裁判でも明らかにされていないこの事件の真実を浮かび上がらせた。『宮崎勤裁判 上中下』(佐木隆三著・朝日文庫・上巻609円、中巻840円、下巻882円)は、第1回公判からこの事件の裁判を傍聴している著者による事件と裁判の記録。この事件では犯行のあまりの異常さに、犯人・宮崎の精神状態を疑う声が挙がり、彼の精神鑑定に関する書籍も多く出版された。『夢のなか 連続幼女殺害事件被告の告白』(宮崎勤著・創出版・1575円)は、宮崎勤本人に文書によって行われたインタビューや被告からの手紙、評論家の解説などを収録。タイトルの「夢のなか」とは、宮崎が犯行を行ったときの気持ちとして語り波紋を呼んだ言葉である。 この年、昭和天皇が崩御し、時代は昭和から平成へと移り変わった。そして今や、時代は21世紀である。あの頃の「未来」に、僕らは立っているだろうか? ![]() 『夢のなか』 創出版・1575円
80年代を代表するゲームと言えば、MSXとファミリーコンピュータだ。 MSXとは83年にアスキーとマイクロソフトによって提唱された八ビットパソコンの世界統一規格で、様々な会社からハードが発売されていた。ゲーム機としての一般への浸透度ではファミコンに負けてしまったが、専門誌も発行されていた。92年夏号を最後に発行が途絶えていたMSXの雑誌「Mマガ」が、公式エミュレータ「MSXPLAYer」付きで復活している。『MSXマガジン 永久保存版』(アスキー・2625円)と『MSXマガジン 永久保存版2』(アスキー・二九四〇円)で、名作ゲームも収録されている。これを手に入れればWindowsでも遊べるようになる。 一方、83年に発売されたファミリーコンピュータについては、その名も『ファミリーコンピュータ』(太田出版・2625円)という本が出ている。全ソフトの写真や堀井雄二らクリエイターのインタビューも多く収録されている。東京都写真美術館で開催された特別展「レベルX」と連動しているので、資料としてもしっかりしている。 ゲーム業界全体については、『ゲーム大国ニッポン神々の興亡』(滝田誠一郎著・青春出版社・1575円)に詳しい。任天堂やスクウェアなどの裏側が覗けて興味深い。 現在の日本でのヒップホップカルチャー隆盛は、原因を80年代に遡ることができる。『Jラップ以前 ヒップホップ・カルチャーはこうして生まれた』(後藤明夫著・エフエム東京・1575円)は、80年代に日本でラップを見よう見まねではじめた人々のインタビュー集。現在も活躍中の人々だが、彼らの試行錯誤が今に繋がったのかもしれない。 80年にデビューし、ノイズ・ミュージックを知らしめたのが、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンだ。『日蝕狩り』(武村知子著・青土社・5040円)は、リーダーのブリクサ・バーゲルトをめぐる書。その音楽をそのまま表しているかのような不思議な本だ。 『リンダリンダラバーソール』(大槻ケンヂ著・メディアファクトリー・1260円)は、90年代初頭のバンドブームの頃を描いた作品だが、ミュージシャンである大槻ケンヂの自伝的小説なので、80年代のこともちょくちょく出てくる。80年代がどんなふうだったのか、1人の人間を通して雰囲気が味わえる。 80年の大晦日にフジテレビでYMOの武道館ライブが放送された。テクノポップはそれほど注目されていた。YMOのマネをしてみんながテクノカットにした。『テクノポップ』(シンコーミュージック・1890円)では、各国のテクノポップと呼ばれるアルバムを紹介している。コラムやインタビューもいくつか挟みこまれていて、単なるディスクガイド以上のものになっている。 YMOともコラボレートしていたのは、雑誌「ビックリハウス」。ビックリハウス生誕30周年を記念して出されたのが『ビックリハウス131号』(パルコ・840円)で、「ビックリハウス事典」も付いているので、当時を知らない人にもどのようなものだか窺える作りになっている。今ある雑誌のルーツがここにあったのか!と発見することが多い。 また、YMOの一員である細野晴臣は「スネークマンショー」のアルバムをプロデュースしている。MANZAIブームのさなか、オチの無い「スネークマンショー」は一世を風靡した。それについては、『これ、なんですか?スネークマンショー』(桑原茂一2監修・新潮社・1365円)に詳しい。 MANZAIブームを牽引したのが、やすし・きよしだ。『天才伝説 横山やすし』(小林信彦著・文春文庫・500円)では、不祥事が絶えず自滅してしまう、やすしの人生を愛情もって描いている。 80年代には「ガンダム」や「ナウシカ」など今でも多大な影響力をもつ長編アニメーションが多く生まれた。昨年には「風の谷のナウシカ」のDVDが発売された。劇場版を漫画化した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(安彦良和著・角川書店・588〜609円)は6巻まで刊行中だ。 漫画『東京ガールズブラボー 上下』(岡崎京子著・宝島社・各945円)や『東京トンガリキッズ』(中森明夫著・角川文庫・580円)には、80年代の東京の風俗が描かれている。もちろんこの本の内容が80年代のすべてではないだろうが、懐かしかったり今見ると恥ずかしく思ったりする人も多いのではないだろうか。 『20世紀アイドルスター大全集Part3 1980〜1989』(近代映画社・1575円)では、80年代アイドルが勢ぞろい。表紙のレイアウトも80年代を思い起こさせる。
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