書標 2004.6月号
今月の表紙 歳時記〈6月〉 著書を語る 特集80年代という時代 書標・書評
新刊案内 トークセッションレポート ジュンク堂ベストセラー 読者から 本屋うらばなし
インフォメーション バックナンバー

著者が語る○386           


  「えきのこっくす 五十句」

               著述業 浅羽“南狐(にゃんこ)”通明



 ナショナリズム篇―――二十五句

四十五歳 割腹似合う我でなく
猫又に習いて古事記神代巻
風避けてヤマタノオロチという酒場
天の奥 凧は吸われて手のしびれ
雑念は消えてアマミノクロウサギ
アリバイとアイヌの鏃 迷宮入り
天空をおおう翼や 神の嫁
柱時計 外され当主所在なし
路地幾重 正岡子規は死にました
旧家没落 座敷童子も奉天へ
この木々が春には桜 神田川
春昼の双尾の蛇となりおおせ
富士塚は高層マンション借景に
お神楽が好きです少女の時分から
里ごとに残る神祇や信濃道
山河みな要害 猿飛霧隠れ
鉄塔線 山越え縫うは日本国
紀元節 叫びは億のパトリから
裏声で歌えインター 招魂社
けがされた神ゆえ土に祀るべし
花の宵 にせきちがいの黙りこむ
ばあさまはなまことなりて月の海
溜飲の下がる啖呵や父帰る
曇天や明日はオディロン・ルドン展
北一輝享年五十四銃火葬

ナショナリズム』ちくま新書・945円


アナーキズム篇―――二十五句

三十八歳帝都もろとも大杉忌
一の糸 断ちて司馬遷刺客伝
月慕い歩めど果てぬ坂の街
角店へ風を拉致してテロリスト
武器店は青く凍てつく帰路のはて
秋の店 遠くから来た男たち
革命歌 秋の乱取り虚偽の恋
パチンコは力学の宴 弾ぜる夏
ゆく春や 名画座二軒廃業す
ジキタリス われ白丁の子と生まれ
けものみち 子羊抱いていっさんに
青すぎる気圏の底のトドの国
うなされる九月のトドのいやな声
擦りガラス 透かしてトドがいる気配
肝炎の少女は目白の目が嫌い
前髪が少しくはねて初デート
予後良好 小説はまだ読めません
猫屋敷 まえに無能の人ふたり
縞猫の縞のしっぽの曲げごこち
好きだとはいえずしっぽの気持ちかな
奇遇だね 淡いジャケツの色さえも
辻占は森戸博士を知っている
大伯父は逃げてシカゴの黒社会
神の死も自然淘汰か 皆既食
四十五歳 思想は不治の病かや

アナーキズム』ちくま新書・945円