書標 2004.4月号
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特集 睡眠

 春眠暁をおぼえず
 私たちが決してうち克つことのできない誘惑、それが眠気である。食欲はコントロールできても睡眠を完全に支配することはできない。そして、睡眠は、平均して人間の人生の3分の1の時間を占める。
 人はなぜ眠るのか?それは眠いからである。
 人生の3分の1を睡眠に費やしているが、私たちは睡眠の仕組みについてほとんど知らない。今回は睡眠について記述されている書籍を紹介する。



いつでも、どこでも、ぐっすりと「快眠」セラピー
光文社カッパブックス・840円

 ひとくちに眠りといっても睡眠にはさまざまな要素がある。『いつでも、どこでも、ぐっすりと「快眠」セラピー』(高田明和著・光文社カッパブックス・840円)、『快適睡眠のすすめ』(堀忠雄著・岩波新書・819円)の二冊の新書は、「快眠」という切り口から眠りのメカニズムを説明する入門書である。私たちは睡眠物質のせいで眠気を感じる。この眠気にもリズムがあり、私たちがみな持っている体内時計によって決められている。
 寝装品メーカーが研究した眠りについての情報本『ねむりのはなし』(ロフテー株式会社快眠スタジオ編著・六甲出版・1365円)や『上手な快眠術』(井上昌次郎監修・実業之日本社・1365円)は快眠法を模索しつつ眠りの仕組みについて易しく解説されている。
 

図解雑学睡眠のしくみ
ナツメ社・1260円

 もう少し詳しく睡眠というものについて知りたければ、『図解雑学睡眠のしくみ』(鳥居鎮夫、睡眠文化研究所監修・小林保著・ナツメ社・1260円)がある。本書では、大体見開き一ページに一項目ずつ、物理・化学・生物・数学・天文学などさまざまなテーマを図と文でわかりやすく解説している。例えば、人の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、ノンレム睡眠は深い眠り、レム睡眠は魚類や爬虫類と同じ睡眠で睡眠中も大脳皮質は覚醒に近い状態にある。
 『20章でさぐる睡眠の不思議』(ペレツ・ラヴィー著・大平裕司訳・朝日選書594・1680円)では睡眠学の専門家が眠り・夢・脳のしくみと役割について詳しく説明している。一日は24時間だが、人の体内時計は一日を25時間周期で過ごしているといわれている。このずれを調整するのに光が重要な役割を果たし、脳の近くに存在する内分泌腺の一種によって生成されるメラトニンが、光に反応して一日25時間である体内時計と外部環境の橋渡しをする。
 体内時計はサーカディアンリズムとも言われるが、動物はそれぞれ固有のサーカディアンリズムを持っている。『ツルはなぜ一本足で眠るのか〔適応の動物誌〕』(小原秀雄、林壽郎、柴田敏隆ほか著・渡辺富士雄画・草思社・1680円)では、動物たちのさまざまな眠りについて図入りで紹介されている。昆虫のミツバチは睡眠行動が見られない。じっとしている場合でもそれは寒さで動けないだけか、単なる休息行動であって、睡眠ではない、等々である。大脳皮質の発達があまり見られない爬虫類や両生類は古い方の眠りといわれるレム睡眠だけをとり、脳を休息させるより、からだを休息させることを目的とするが、鳥類や哺乳類になるとレム睡眠とノンレム睡眠の両パターンの睡眠をとるという。
 

ツルはなぜ一本足で眠るのか〔適応の動物誌〕
草思社・1680円

 動物は、生活環境によってさまざまな眠りの形態をとっている。『行動としての睡眠』(鳥居鎮夫著・青土社・2243円)では、睡眠学者の著者が、動物から人間に至る睡眠の進化のあとをたどりながら、睡眠物質や睡眠周期、夢など眠りのなぞを解き明かしている。また本書には眠りとストレスをめぐる考察が記載されており、動物は生存するために生活環境に睡眠形態を適応させるが、人間は睡眠物質のひとつDSIPに感情の調節効果があることからストレス緩和を期待してよりよい睡眠環境を作り上げようとするのである。


行動としての睡眠
青土社・2243円

 『眠りの文化論』(吉田集而編・平凡社・2310円)では、動物の眠り方と人間の眠り方の違い、睡眠時間や睡眠環境などをグラフ、写真入で紹介している。『快眠の科学』(早石修監修・井上昌次郎編著・朝倉書店・7140円)では日常に起こる睡眠問題とその調整法、いかにして快眠を得るか、また快眠とはどういう状態か、という疑問について実験をもとにしてグラフと図を使って詳しく検証する。


ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?
講談社・1680円

 『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』(ウィリアム・C・デメント著・藤田留美訳・講談社・1680円)では、睡眠環境や睡眠について科学的な根拠をもとに少し易しく具体的な事例を挙げて述べている。レム睡眠中はわたしたちの眼球はまぶたの下で小刻みに反復運動を繰り返し、夢を見る。一日に8時間睡眠をとるとするとその間の90分ほど夢を見ている。夢を見るという行為はわたしたちの脳の働きに大いに関係があるようだ。
 『ヒトはなぜ、夢を見るのか』(北浜邦夫著・文春新書・725円)『睡眠と夢』(ミッシェル・ジュヴェ著・紀伊國屋書店・2415円)『眠りと夢を科学する』(松本淳治著・大月書店・2039円)の3冊は夢を見るとはどういうことか、ということを解説している。夢を「見る」というが、夢を見るのは脳の働きのためで視覚のみの行為ではない。脳内の夢発生装置から刺激が送られて、その結果、脳内にある多数の神経細胞が相動的に活動する状態にあるのである。味、においのある夢もあるし、目覚める前の浅い眠りのときに落下する感覚を覚えることある。


睡眠と夢
紀伊國屋書店・2415円

 『不思議の国のアリス』(書籍情報社・ルイス・キャロル著・高橋宏訳注・2100円)のように全ては夢の中の出来事だったというようなお話が多いのもこのリアルな感覚によるものであろう。
 『一人の男が飛行機から飛び降りる』(バリー・ユアグロー著・新潮文庫・700円)は、149本の「自分で夢に見るにはちょっと怖そうだけど、かりに夢の聴診器みたいなものがあって他人の夢をモニターできるとしたら、こんな夢を傍受できればさぞ楽しいだろう」と訳者の柴田元幸氏があとがきで述べる「たのしい悪夢」の世界。自分も昨夜見たかも知れない、と思わせる。
 心理学でも夢を分析して研究する方法があるのはご存知の通りである。心理学者でなくても朝目覚めたときに、夢でみた蛇は何か意味があるのだろうかなどと夢占いの本を紐解かれた経験もあるのではないか。何れもたくさん出版されているが『夢判断 上』(ジグムンド・フロイト著・高橋義孝著・日本教文社・上巻1940円、下巻2140円)と『夢占い大事典』(不二龍彦著・学習研究社・2625円)をあげておく。  
 睡眠には様々な要素があると述べてきたが、第一線の研究者たちが領域を超えて執筆した『睡眠学 眠りの科学・医歯薬学・社会学』(日本学術会議ほか著・高橋清久編集・じほう・3570円)は、医学や社会学といった様々な視点から「睡眠学」として睡眠をテーマに一冊の本にまとめた本である。
 また睡眠のメカニズム、という視点に絞ると『睡眠のメカニズム』(井上昌次郎、山本郁男編・朝倉書店・3780円)、『睡眠の科学』(鳥居鎮夫編・朝倉書店・6825円)の二冊が挙げられる。


3時間熟睡法
かんき出版・1365円

 通常私達が睡眠に興味を持つ理由のひとつは、目覚めている時間を有効に使いたいためである。そのためにいかに効率よく眠るかが問題になってくる。その究極は『3時間熟睡法』(大石健一著・かんき出版・1365円)1日3時間しか眠らなければ残り21時間はフル活動できる、というもの。8時間睡眠をとっている人に較べたら1日5時間のお得、1年だと……。
 効率よく眠るためには眠りの質も重要になってくる。


ねむり衣の文化誌 眠りの装いを考える
冬青社・1890円

 睡眠文化研究所ロフテー株式会社では、眠りにとって最も重要なアイテム「枕」を各人の首の高さに合わせて作ってくれるのをはじめとして、様々な「快眠」のためのグッズを研究・販売している。同研究所が著した『ぐっすり眠れる枕の本』(廣済堂出版・1365円)ではその枕理論をわかりやすくイラスト入りで解説している。同じくこの研究所では『ねむり衣の文化誌  眠りの装いを考える』(吉田集而共編 冬青社・1890円)で「ねむり衣」の習慣を世界各地で比較検討。その歴史にも触れている。


日本枕考
勁草書房・2100円

 寝具については他にも歴史や時代背景を俗信などから考察、枕の不思議について書いた『日本枕考』(清水靖彦著・勁草書房・2100円)、『枕 ものと人間の文化史』(矢野憲一著・法政大学出版局・2520円)、羽毛を寝具にしたのはいつか、どのように人間社会と羽毛は拘わってきたのかを研究した『羽毛と寝具のはなし その歴史と文化』(羽毛文化史研究会編・日本経済評論社・三〇〇〇円)、なかなか他人にはわかりにくいはずの寝室を解剖、過去から現代まで古今東西の寝室にまつわる謎を解き明かした『寝室の文化史』(パスカル・ディビ著・松浪未知世訳・青土社・二七一八円)、『ベッドの文化史 寝室・寝具の歴史から眠れぬ夜の過ごし方まで』(ローレンス・ライト著・別宮貞徳ほか訳・八坂書房・三二〇〇円)など、快適な眠りを得るための工夫の歴史や人間の営みを著した本は多い。


ベッドの文化史
八坂書房・1700円

 眠りたいけど眠れない人もいる。『眠りたいけど眠れない』(堀忠雄編・昭和堂・1575円)、『不眠と不安に打ち克つ本』(内山真著・アーク出版.・1365円)、『あなたは5秒で熟睡できる!』(松原英多著・KKロングセラーズ・1325円)、『どんな不眠もこれで治せる』(大熊輝雄著・マキノ出版・1365円)、『これであなたもやっと眠れる 不眠症に悩むあなたを救う とろけるような眠りを誘う炎の写真集』(吉田倫幸著・ワニブックス・1365円)等、タイトルを見ているだけでもその苦しみが伝わってくるようだ。いずれも眠りのメカニズムを易しく説明し、不眠症とはどんなものか、どうすれば効率よくぐっすりと眠れるかを提案している。
 『眠り上手おんなと眠り下手おとこ』(内山真著・集英社インターナショナル・1470円)は、タイトルは惹句的だが、内容は患者さんたちの問いや疑問に答えるためのもの、と著者みずからが力説する「患者や読者のためになる」眠りとつきあう本である。



眠り上手おんなと眠り下手おとこ
集英社インターナショナル・1470円

 『いびきのことがよくわかる本』(高山幹子著・小学館・1260円)は、たかがいびきと侮るなかれ、怖い病気・睡眠時無呼吸症候群との関連についても解説する。もっと知りたい方は『睡眠時無呼吸症候群のすべて』(成井浩司著・三省堂・1575円)をおすすめする。
 最後に異色なものを。『眠気をあやつる本』(筒井康隆監修・造事務所編著・PHP研究所・1575円)。第一部は「眠気を誘う」で、筒井氏の作品、「ドンドンはドンドコの父なり。ドンドンの子ドンドコ、ドンドコドンを生み、ドンドコドン、ドコドンドンとドンタカタを生む。後略(『バブリング創世記』より)」や子守歌、童話、おまじない、グッズ、ツボ等々。第二部は「眠気を覚ます」で、筒井氏の「冒頭から面白」い小説、筒井氏のドキッとする箴言集、眠れなくなる怪談、くささ世界一の食べ物……。筒井氏ならではだが、この本の目的はあくまで不眠、惰眠の克服にある。
 「睡眠学」がもっと進んで謎が解明されれば「眠気をあやつる」ことができるようになるだろうか。