痩せたい!と思うのはなぜだろう。女性誌は定期的にダイエット特集をしている。男性誌でも体を鍛えるといったような特集が目に付く。太りすぎは高血圧の原因になるとよく言われているが、痩せねばならないと思うのは思い込みなのか、ほんとうに必要なのか。今回はダイエット本を探ります。
ダイエットが一般に浸透したのはここ百年というが、太りすぎはよくないという意識は相当古くからあるようだ。
ヒポクラテスの『古い医術について』(岩波文庫・600円)には、すでに「時宜を得ない絶食からは飽食から来るのに劣らぬ苦痛が人間に生じるということは、健康者に徴して見ればよく理解できる」とある。拒食症のことを思い浮かべてしまうような記述だ。そこまでいかなくとも、富が偏ると食に問題がでてくるようだ。
フィクションだが、昔々のお話であるという設定の『ショコラ』(ジョアン・ハリス著・角川文庫・648円)にでてくる神父は、美食家で太りすぎを気にしているし、十八世紀のベストセラー本『プーア・リチャードの暦』(ベンジャミン・フランクリン著・ぎょうせい・971円)は諺を集めた本だが、ここでも、食事をたらふく取るのにたいした運動をしないのは良くないといった内容が書かれている。人はほっておくと楽なほうへ楽なほうへいってしまうらしい。
また、太っているかどうかと美人であるかどうかは密接な関係がある。『美女とは何か』(張競著・晶文社・2400円)や『美女のイメージ』(小玉美意子編・世界思想社・2233円)には、中国と日本の美人像の変遷について書いてある。珍しく肥満気味の女性が持ち上げられている時代・唐代には、楊貴妃など肉付きのいい女性ばかりが絵に描かれているそうだ。身分が高い人はたくさん食べて肥っているので、それが良いことだという考えになったらしい。そういうことであればダイエットなど無縁であるが、たいていの時代はそうはいかない。
「源氏物語」にはふくよかな女性が多く出てくるらしいが、日本では肥満気味の女性が美人とされる時代は見当たらないらしい。写真が発明されたのは十九世紀末だが、『幕末・明治美人帖』(ポーラ文化研究所編・新人物往来社・2400円)を見ると、みんな痩せている。「太っている」という範疇に入る人は見当たらない。美人は痩せていなくてはならないらしい。
そして、太っているとモテない、と思われていた。時代は遡るが『太古、ブスは女神だった』(大塚ひかり著・マガジンハウス・1500円)によると、「万葉集」には「デブの醜男なんかと何で結婚するの」という歌がでてくるという。

『ダイエットの歴史』
新書館・2400円
『ダイエットの歴史』(海野 弘著・新書館・2400円)は、題名のとおり、19世紀末からのダイエットの歴史を振り返っている。現在は「痩せていなくてはならない」というプレッシャーが最も強い時代だそうだ。産業革命以後栄養状態が良くなってきたのと、メディアが発達して痩せているのは善いことだと宣伝するせいだ。
なぜこんなに痩せているのがいいことだという意識が浸透しているのか? 健康でいられるように必要なだけ食べればいいだけのはずだ。
もともとダイエットとは「食餌療法」という意味なので、病気治療の一つの方法だ。肥満が原因で引き起こされる病気には、糖尿病や心臓病、痛風、生活習慣病などがある。健康であればダイエットをする必要はない。ダイエットをすべきかどうかのラインはどこにあるのだろうか。
『やさしい内臓肥満の自己管理』(松澤佑次監修・医薬ジャーナル社・950円)は、病気につながる肥満とはどういうものかを解説している。肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型の二種類があり、特に危険な内臓脂肪型肥満は男性に多いという。内臓肥満の危険性が科学的にやさしく解説されていて、ダイエットが本当に必要なのかどうかも自分で判定できるようにしてある。糖尿病・高血圧・高脂血症・内臓肥満は死の四重奏といわれるほど、動脈硬化をおこす可能性を高めてしまうそうだ。

『やさしい内臓肥満の自己管理』
医薬ジャーナル社・950円
医者が肥満を診断・治療するための本のなかで易しいのは『肥満・肥満症の指導マニュアル〈第二版〉』(日本肥満学会編集委員会編・医歯薬出版・3200円)だ。肥満が引き起こすさまざまな病気の説明や、食事療法・運動療法の具体的な方法が掲載されている。専門用語もときどき出てくるが、判型も大きく、一定の知識を得られる。
食事をコントロールするのが特に重要になる糖尿病の方のためには、『外食コントロールブック』(鈴木吉彦編著・文光堂・1700円)がある。自分の手の大きさを基準とし、それより分量が多いか少ないかで食事を残すべきかどうかを判断できるようにカロリー計算表ができている。外食だとカロリー計算が面倒になりがちだが、本のサイズも小さいので持ち歩きにも便利。

『肥満とダイエットの遺伝学』
朝日選書631・1200円
同じものを同じように食べたのに、太らない人と太ってしまう人とがいるのはどうしてなのか。「遺伝子」が関係あるとするのは『肥満とダイエットの遺伝学』(蒲原聖可著・朝日選書631・1200円)だ。肥満が極端に増えてしまった地域が世界にいくつかある。それは歴史的に食糧が豊かではなかった社会では、エネルギーを倹約する遺伝子が受け継がれてきたからだというのだ。エネルギー倹約遺伝子を持っているところへ欧米型の高カロリー・高脂肪の食習慣がなだれこんだので、極端に肥満の人が増えたのだという。
同じ著者の『ダイエットを医学する』(蒲原聖可著・中公新書・880円)は、人がなぜ肥満になるのかを詳しく解説している。肥満の一部はウイルスに感染したことが原因だという説もあるという。「太るのは意思が弱いから」といったような単純な理由だけでは割り切れないような肥満の例が数多くあることがわかる。
もう少し社会学的側面から肥満について書いているのは『太りゆく人類』(エレン・ラペル・シェル著・早川書房・1900円)だ。肥満遺伝子研究の裏側ややせ薬の実態、ファーストフードの会社のマーケティング戦略など、肥満に関する問題を取り上げてレポートしている。

『デブの帝国』
バジリコ・1500円
人口の六割以上が肥満という研究報告もあるらしい、アメリカの事情については、『デブの帝国』(グレッグ・クライツァー著・バジリコ・1500円)に詳しい。ファーストフード店が経済的な理由でのみ原材料を選択した結果、必要以上に高カロリーの食品になってしまっただとか、誤った知識や運動量の低下によって子どもの肥満が増加しているだとか、恐ろしいことが書かれている。
肥満がさまざまな病気を引き起こしがちなのは確かだが、太りやすい食事を選択するかどうかということには、経済的な問題も大きいようだ。
「拒食症」や「過食症」という言葉を聞いたことがあるだろうか。どちらも食べることの異常なのでひっくるめて「摂食障害」と呼ばれている。
日本やアメリカで拒食症が注目されたのは、カレン・カーペンターが心不全で亡くなったことがきっかけだという。極端な食事制限の結果体力が落ち、心臓も弱くなってしまったのだ。まわりから見ると幸せなはずだった女性がなぜ死ぬほど痩せてしまうことになったのか。残念ながら伝記は絶版なのだが、『カーペンターズ』(河出夢ムック・1143円)にも、「太っている」と思い込んで何も口にしなくなっていく様子が少しだけ書かれている。「拒食症」への一般の理解があまりなかった時代に、まわりもうまく対処できずにいた。

『鏡の中の少女』
集英社文庫・552円
そのカレン・カーペンターの治療を受け持ったこともあるスティーブン・レベンクロン博士によって書かれた小説が『鏡の中の少女』(集英社文庫・552円)だ。拒食症になった少女と家族の物話で、病気をめぐる家族の葛藤がうまく描かれている。拒食症とはどういうものなのか理解する助けとなる。家族はダイエットを馬鹿げていると考え、ムリヤリ食べさせようと怒ったりなだめすかせたりするが、うまくいかない。自分が抱えているさまざまな問題を解決することなく、「痩せること」にすりかえているのかも知れない、と主人公が気付くところで物語は終わる。
また、現代の10代向けに、他にも摂食障害を扱った小説が何冊か出版されている。『ガールズアンダープレッシャー ダイエットしなきゃ!!』(ジャクリーン・ウィルソン著・理論社・1200円)は本当にいそうな登場人物たちが魅力的で、元気になれる。ちょっとダイエットをはじめたら、摂食障害の本を買い込んであれこれ研究し始める父親など、ユーモラスに描かれているので悲壮感はない。もちろん摂食障害の問題もしっかり書かれている。
自分は完璧でなくてはならないと思い込んでいたことに『ラーラはただのデブ』(シェリー・ベネット著・集英社文庫・600円)のラーラは気付く。痩せているうちは良かったが、太ってから、さまざまな問題から目をそむけていたツケがまわってくる。それらを全部受け入れることでラーラは強くなる。
これら摂食障害に陥りはじめるのは思春期が多いという。10代のメンタルヘルスについては、大月書店から全五巻のシリーズが出ている。一巻が『過食症』(1800円)、二巻が『拒食症』(1800円)についてで、いろんなトピックについて自分自身で考えるように工夫されている。同じ問題を抱えている人の具体的な例も多数収録されているので、自分のことと引き比べられる。

『「食べない心」と「吐く心」』
主婦と生活社・1300円
昔は摂食障害を「思春期やせ症」と呼んでいたが、思春期に限られる病気ではないことがわかってきた。『「食べない心」と「吐く心」』(小野瀬健人著・主婦と生活社・1300円)は、拒食症や過食症などの摂食障害は、単なる痩せ願望からくるわけではないことを、実際に症状のある人の具体例を挙げて説明している。自分が摂食障害でなくとも、まわりに摂食障害の人がいる場合の対応の参考にもなるかもしれない。
一般に摂食障害は女性に多い。『女はなぜやせようとするのか』(浅野千恵著・勁草書房・2600円)は、社会学者が書いた摂食障害とジェンダーを論じた書。摂食障害になる人は痩せていないと生きていてはいけないと思い込んでしまっているそうだが、それはどこに原因があるのか。女性誌などでも、過剰に痩せたり太ったりするのはいけないと表面上言われるが、過剰なダイエットを作り出す一因と思われる社会状況に対する言及がない。それはどうしてなのか、など興味深い問題的をしている。

『なぜそんなに痩せたいの?』
TBSブリタニカ・2200円
『なぜそんなに痩せたいの?』(ヴァルトラウト・ポッシュ著・TBSブリタニカ・2200円)は、痩せている美しい体であることが社会規範となっていると主張する。それを一体誰が決めたのか。いろいろなメディアに氾濫する「痩せなければならない」というメッセージを取り上げている。
大島弓子の漫画「ダイエット」(白泉社文庫『つるばらつるばら』所収・581円)の主人公は摂食障害。家族との関係がうまくいかず、拒食と過食を繰り返している。そんな主人公の友人たちは、ある決心をする。摂食障害はなかなか完全には治りにくいというが、よくなるためにこういう方法もあるのかと驚きながらも納得する。
ダイエットの方法は十人十色である。実際どのようなダイエット方法があるのかを見て、ダイエットを実践する際に人は何を求めるのか、どういう目的なのかを考える。
ダイエットの方法は大まかに分けると食事と運動の二つに分けられるが、目的は、肉体改造にまで発展するもの、リラックス効果も求めるもの、また人生をもがらりと変えようとするものまである。
◎食事
かつてはダイエットといえば、食事の改善が中心だった。漫画『林檎でダイエット』(佐々木倫子著・白泉社・390円)にあるように、林檎など一つの物を食べ続ける単品ダイエットは体重の減少と即効性を重視している。しかしこの方法は健康的ではなく、ダイエット終了後体重が元に戻ってしまう「リバウンド」があるため廃れてしまった。
代わりに、食事を中心としたダイエット法では『1日3〜4杯でOK!日本茶カテキンダイエット「飲むだけ」でやせる!』(大森正司監修・ぶんか社・1200円)や『絶対やせる晩ごはんダイエット』(美波紀子著・海竜社・1400円)、『ビジュアル版石原式朝だけニンジンジュースダイエット』(石原結實著・海竜社・900円)等、単品ではなく、何かと併用しつつ健康的にやせることを重要とした書籍が出ている。対象は、若者よりも中年以上で、健康法の一環として提案されている。
『キレイになれるもっと断食ダイエット』(ファスティング愛好会著・フィールドワイ・1280円)にあるように断食をするという方法もある。断食といっても突然食事を絶つのではなく、徐々に食事を減らしていき、断食中はジュースやヨーグルトなどを一日のうちの一回分ないし二回分分の食事に変えるだけである。またこの方法は断食道場など断食を専門家に指導してもらいながらできる施設に入ることを勧めている。
その他食事を中心としたダイエット法では『専門医が教える「低インスリンダイエット」完全プログラム』(浅野次義、則岡孝子著・幻冬舎・1200円)『完全保存版低インシュリンダイエット ちゃんと食べてしっかり痩せる』(永田孝行著・新星出版社・1000円)という、食事をしっかりとりつつリバウンドをみすえたダイエット法がある。
◎運動
80年代のダイエットをリードしたのはジェーン・フォンダである。食事制限ではなくて、運動を主体としたものを提案した。『ジェーン・フォンダのからだ術こころ術 30歳をこえて美しく生きるために』(堂浦恵津子訳・晶文社・3107円)は、いつまでも美しく健康でいるためのエクササイズや心得が書かれている。当時46歳になるというジェーン・フォンダ自身がモデルとして登場する。運動せずにダイエットしても脂肪は減らせないという彼女の主張はとてもとても説得力がある。
『ジェーン・フォンダのからだ術こころ術 30歳をこえて美しく生きるために』
晶文社・3107円
『「かくれ肥満」に目覚めよ“脂肪率”の減らし方』(岡部 正著・青春出版社・1000円)『体脂肪を燃やすスポーツトレーニング』(別冊宝島編集部編・宝島社文庫・600円)等にあるように、最近は体重よりは体脂肪に注目し、痩せる+α健康というキーワードがある。さらにどう理想のボディラインを手に入れるか、という運動を中心としたダイエット法が増えているようだ。『体脂肪を燃やすダンベルダイエット』(鈴木正成監修・日本文芸社・1200円)はダンベルを使ったエクササイズの本である。
さらに、ピラティスダイエットというものがある。これは呼吸や骨盤の位置を整える、基本はストレッチのエクササイズである。『本気できれいな体をつくりたい人のピラティスダイエット綺麗の法則』(酒井里枝著・青春出版社・1300円)『ステファン・メルモンの実践ピラティスダイエット』(ステファン・メルモン監修・しょういん・1200円)『決定版ピラテスのすべて 体の芯から美しくなるアンチ・エイジングメソッド』(山口実由紀監修・アスコム・1200円)など多くが出版されている。
また運動を中心としたダイエット方法は、ダイエットをする側に具体的な理想の体型があるように思える。『バレリーナのダイエット・ブック』(クロワゼ編・新書館・1600円)はバレリーナのためのダイエットの本。太めのプリマが解雇されたりもするバレリーナの世界。筋肉を保ちながらもスリムでいるように誰もが努力しているようだ。プロのバレリーナがどういう食生活をしているのかがわかる。
ダイエットをするのは女性が多いが、男性向けのダイエット本もいくつか出版されている。『「献立力」があなたを救う!できる男の知的ダイエット』(荒牧麻子著・旬報社・1600円)等男性向けのダイエット本は中高年向けで健康管理の一環として成人病予防・治療を目的としたかなり切実なものが多い。
『ぜったいできる 男のやせる本』(大野 誠、田中直子監修・保健同人社・1456円)は、昼ご飯によく食べられる外食や、お酒やおつまみのカロリー表が充実している。ついつい食べ過ぎてしまっていないだろうか。自分の行動を把握することからはじめて、失敗しないダイエットへと導いている。
また「鍛える」という事が痩せると等しく重視される。『痩せる、鍛える、20代の体力を取り戻す!男のパワーダイエット』(清水茂幸著・小学館・1200円)では、帯に「ダイエットはスポーツ感覚の「知的ゲーム」だ!!自分のボディーを改造する!!」と書かれている。
タレントの香取慎吾が書いた『ダイエットSHINGO』(香取慎吾書・マガジンハウス・952円)は八週間で14.9キロ体重を落とす一部始終が詳しくリポートされている。『ダイエットSHINGO』ではジムに通い、ただ体重を減らすだけでなく筋肉をつけ、ボディラインのデザインを中心にしている。
デブはロックじゃない!という理由から、『ロックンロール・ダイエット』(中丸謙一朗著・中央公論新社・1500円)の著者は15キロ痩せた。確かにロックンローラーでかつ太っているという人は瞬時には思い浮かばない。革パンが似合うためには痩せていなくてはならないのである。痩せるつもりはなくてもロック好きには読んでいて面白いし、男性が自己のダイエット記録を出版するのは珍しいので貴重でもある。

『ロックンロール・ダイエット』
中央公論新社・1500円
◎リラックス
多くの人がダイエットをしたいと思いつつ実現しないのはなぜか。それはダイエットには辛いというイメージがあり、実際地道な努力が必要とされるからだ。タレントのKABA.ちゃんが書いた「KABA.ちゃんの燃焼系ダンスで楽しくやせよう」(宝島社・1300円)はDVD付きで「楽しく」痩せることが目的とされている。
その他にも『1mウォーキング・ダイエット』(デューク更家著・講談社・1200円)でも写真が多く、楽しく微笑みながらエクササイズをする様子が載っている。著者のデューク更家は体にぴったりしたウエアを着用し理想的なボディラインを体現している。
身体だけでなくメンタルの面も注目されている。女性がエステティックサロンに通うのは、ダイエット=美容もさることながらストレスにさらされる心身ともにリラックスしようという目的がある。『きれいなカラダに変わるリンパマッサージダイエット』(渡辺佳子著・青春出版・1300円)『スリムになる!リンパマッサージ』(渡辺佳子著・PHP研究所・1300円)『ハリウッド・ヨーガダイエット』(CHIMA監修・ゴマブックス・950円)等「マッサージ」「ヨ―ガ」という、本来ならリラックス効果を目的とした方法がとり入れられている。
◎人生を変える
既に取り上げたように、女性がダイエットをするのは、痩せる=綺麗になるという思考があるためでもある。きれいになればいいことがあるかもしれない。自分が変われるかもしれないという期待から、客観的に見て決して太っていなくてもダイエットを始める。
『変心 壮絶!ダイエットの日々』(林まつり著・ワニマガジン社・1200円)では115キロから一年で50キロまで減量した漫画家が身も心も「変心」したいとダイエットした記録である。ダイエットで自分自身を変えるきっかけとしている。

『変心 壮絶!ダイエットの日々』
ワニマガジン社・1200円
『脂肪』(中島唱子著・荒木経惟写真・新潮文庫・400円)は、「ふぞろいの林檎たち」の女優が、一時は100キロ以上あった体重を30キロあまり減らした軌跡。アラーキーが美しく写真を撮り下ろしている。ダイエットとともに、今までの自分の過去も振り返り、どうして太ってしまったのかを考えている。ダイエットをしたことで、客観的に自分を見つめられるようになったという。
最後に、げんなりするような小説を紹介しよう。読んだだけでもげっそりして痩せてしまうかもしれない。
インターネット隆盛の現在を予告しているかのような小説は『電話男』(小林恭二著・ハルキ文庫・620円)だ。部屋に閉じこもって電話ばかりしているので、必然的に体重が増える。電話の合間に食事をするので冷凍食品など簡単に調理できるものしか食べないし、時間も不規則になり、膨れあがっていく。
『20世紀SF5 1980年代』のなかの一編、オーソン・スコット・カードの「肥育園」(河出文庫・950円)は、クローン人間をつくりだす技術が実用化された時代を描いたSF。「欲望は追求してもいい」という思想と、「太るのは意思が弱いから」という思想をあわせるとこんなに怖い話が出来上がる(?)。欲求のおもむくまま、自堕落な生活を送った主人公はついに動けなくなるほど太り、金にまかせて自分のクローンとチェンジしようとするが・・・。SFというよりもほとんどホラーだ。
小説のなかの世界だと切り捨てられるならよいのだが、全く現実的ではないとも言い切れない。脂肪分を多く含んだ食事を取る機会が多い現代は、食事をコントロールして健康に暮らすだけのことでもとても難しい。それなのに一方では「痩せているべき」というメッセージがメディアに氾濫している。極端なダイエットはよくないし、痩せただけでどうなるものでもないと頭ではわかっていても、刷り込まれたメッセージをなかなか否定できない。どうしたら必要以上に痩せたいと思わなくなるのか。それに応えてくれる本は、「いかに痩せるか」ということを追及したダイエット本に比べて圧倒的に少ない。