書標 2004.2月号
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特集 図書館


 小誌をお読みになっている読書家の中にも、図書館を利用されている方はたくさんいらっしゃるだろう。近年、図書館のあり方や可能性が考え直される動きが大きくなっており、図書館のこれからについて興味をもたれている方も多いのではないだろうか。そこで今回は、図書館に関する本を集めてみた。様々な方向から記された「図書館」を、どうぞお楽しみください。

図書館とは

 まずは、図書館全体を見渡せる本を。『図書館読本』(本の雑誌編集部編・本の雑誌社・1500円)には、図書館での一日アルバイト体験や図書館職員の匿名座談会、職員のインタビューをもとに作られた「図書館職員採用試験」など、図書館の内情を知るにはうってつけの一冊である。『図書館逍遥』(小田光雄著・編書房・1900円)図書館そのものについて書かれたエッセイをまとめた珍しい本である。図書館にまつわる雑学が満載だ。


図書館逍遥
編書房・1900円

 海外には歴史のある図書館が多く、それについての本もたくさん出版されている。歴史上の図書館を振り返り、図書館の全体像を探ってみるのも面白いのではないだろうか。有名な所では古代世界における三大図書館の一つである(古代)アレクサンドリア図書館がある。アレクサンドリア図書館については、『知識の灯台―古代アレクサンドリア図書館の物語』(デレク・フラワー著・柏書房・2800円)『アレクサンドリア図書館の謎―古代の知の宝庫を読み解く』(ルチャーノ・カンフォラ著・工作舎・2800円)などがある。古代アレクサンドリア図書館は世界の知を一ヶ所に集めた古代世界最大の図書館。上に挙げた二冊は、この伝説的図書館にまつわる謎や歴史が様々な面から語られている。
 

アレクサンドリア図書館の謎
工作舎・2800円

 『ヨーロッパの歴史的図書館』(ヴィンフリート・レーシュブルク著・国文社・4000円)は、ヨーロッパ中に今なお残る歴史ある図書館を紹介したもの。各図書館のコレクションの紹介や、古代から現代までの図書館の発展などについて詳しい。他にも『世界の図書館―その歴史と現在』(寺田光孝編・勉誠出版・2000円)『欧米の図書館―建築と運営の水準を探る』(栗原嘉一郎著・丸善・3300円)『フランス近代図書館の成立』(赤星隆子著・理想社・2800円)など、様々な国の図書館に関する本が出版されている。
 翻って日本の図書館についての書籍を一冊。『図書館の近代―私論・図書館はこうして大きくなった』(東條文規著・ポット出版・2900円)は、すでに百年以上の歴史を持つ日本の図書館の歴史の中で、図書館がどのような役割を果たしてきたのかを探る。主題となるのは国家と図書館との関係。図書館勤続20年を超える著者による、近代日本図書館史である。
 図書館は本を借りるためだけの場所ではなく、読書をする場所でもある。『モダン都市の読書空間』(永嶺重敏著・日本エディタースクール出版部・2600円)では、図書館や書店といった読書空間の日本(東京)における形成過程がわかる。
 「読書と図書館」は切っても切り離せないものである。少々本筋から外れはするが、ここで何点か読書についての本をご紹介。『読書の歴史』(アルベルト・マングェル著・柏書房・3800円)は、96年の刊行以来、実に14ヵ国で翻訳されている。「読書」に関する史実、伝承に、著者自身の喜怒哀楽を交えて展開される、スケールの大きな歴史の書である。『読むことの歴史』(ロジェ・シャルティエほか編・大修館書店・6000円)は、古代のパピルス本から現代の電子ブックに至るまで、書物というものがどうやって読まれてきたのか、その時代時代と読書との関係を記した本。
 

読むことの歴史
柏書房・3800円

これからの図書館

 図書館とはどういうものなのかを概観してきたが、では今・そしてこれからの図書館はどうなっているのだろうか。
 現在の図書館は、著作権や財政・職員についての問題から、図書館の意義・役割の見直しという根本的なところまでさまざまな課題を抱えている。それらを指摘しているのが『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一著・プレジデント社・1800円)。図書館だけでなく、出版社や書店などの本をとりまく業界の現状を鋭く描いている。逆に利用者側の問題を指摘したのが『図書館で考える道徳』(諸橋孝一著・鳥影社・1500円)。そこで紹介される、図書館の本への書き込みや「招かれざる客」の被害のすさまじさは深刻である。図書館という公共の施設を利用する以上、最低限のマナーは守りたいものである。そんな現状に対し、図書館界ではどのような動きがあるのだろうか。
 より地域・利用者に親しまれる図書館を目指しているのが『図書館の明日をひらく』(菅原 峻著・晶文社・2200円)。読書が盛んな北欧の図書館の様子も紹介され、よりよいサービス実現のための提案がなされている。『いま、市民の図書館は何をすべきか』(前川恒夫先生古希記念論集刊行会編・出版ニュース社・3500円)は、市民に開かれた図書館づくりに多大な貢献をしてきた前川恒夫氏の古希を記念して刊行されたもの。様々な観点からの論文がまとめられており、図書館の現状と展望を概観できる。


いま、市民の図書館は何をすべきか
出版ニュース社・3500円

 日本において「市民のための図書館」を初めて実践した例として有名な日野図書館も、最初は車に本を乗せて市内を回る、移動図書館という形で始まった。そこから住民の反響、全国的な波紋、そして建物つきの図書館ができていくまでの過程を記したのが『図書館の誕生』(関千枝子著・日本図書館協会・980円)だ。『浦安図書館にできること』(常世田良著・勁草書房・2600円)では、浦安市立図書館の館長である著者が、1983年の開館からの歴史を振り返り、今後の公立図書館の展望を考える。『浦安の図書館と共に』(竹内紀吉著・未来社・1800円)は、より良い図書館像を追って奮闘する図書館員たちのドキュメント。同著者による『図書館の街・浦安―新任館長奮戦記』(未来社・1500円)も、浦安図書館の成長の歴史がリアルに描かれている。
 最近活発な動きとして、レクリエーション中心ではなく、ビジネス支援などを中心に考えた「使える」図書館を目指すというものがある。貸出・余暇のための図書館から、本に限らずデータベースやインターネット利用も含めた情報基盤としての図書館を提案するのが『情報基盤としての図書館』(根本 彰著・勁草書房・2800円)である。そこでも紹介されているが、この「情報」を提供する図書館のモデルとなっているのはアメリカの図書館である。それを詳しく紹介しているのが『未来をつくる図書館』(菅谷明子著・岩波新書・700円)。アメリカでは図書館を活用することによって新しいビジネス、人材が育っているという。アメリカの強さの秘密は図書館にあり、なのかもしれない。そのような新しいタイプの図書館へ向けての提言をまとめたものが『進化する図書館へ』(進化する図書館の会編・ひつじ書房・6000円)である。情報の有用性が高まるなか、すべての人が情報を入手できる場として図書館は大きな可能性を持っているのである。


未来をつくる図書館
岩波新書・700円

 それを実践しつつあるのが東京都立図書館である。『都立図書館は進化する有機体である』(ライブラリーマネジメント研究会編・ひつじ書房・1000円)では、都立図書館の取り組みや今後のビジョンが紹介されている。そんな都立図書館にも課題は多い。資料保存の問題に焦点をあて、新しい保存のあり方を提案しているのが『東京にデポジットライブラリーを』(多摩地域の図書館をむすび育てる会著・ポット出版・1600円)である。苦しい財政状況を嘆くだけでなく、その状態からなんとか打開策を見つけていくという姿が頼もしく、日本の図書館も捨てたものではないと感じられる。


東京にデポジットライブラリーを
ポット出版・1600円

 21世紀の町村立図書館のあり方を提言した『図書館による町村ルネサンスLプラン21』(日本図書館協会町村図書館活動推進委員会・日本図書館協会・1200円)など、新しい図書館づくりに向けた動きは随所に出てきているのである。
 また、インターネットを介して情報を提供する「電子図書館」については『電子図書館が見えてきた』(宮井 均、市山俊治著・NECメディアプロダクツ・800円)『電子図書館』(原田 勝ほか編著・勁草書房・2800円)『電子図書館の神話』(ウィリアム・Fバーゾール著・勁草書房・3400円)などがある。電子書籍についても『ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日』(横山三四郎著・日経BP社・1500円)や『新・本とつきあう方法―活字本から電子本まで』(津野海太郎著・中央公論新社・660円)といった本が出ている。電子書籍・電子図書館の出現は、既存の図書館にどのような影響を及ぼしていくのだろうか。今後の展開に注目したい。
 図書館における著作権問題や、その時限りのベストセラーを何冊も揃えるような複本問題をとりあげ、解決策を模索する『図書館への私の提言』(三田誠広・勁草書房・2500円)など、図書館の抱える問題を解決する現実的な方策を提案する本もある。『税金を使う図書館から税金を作る図書館へ』(松本 功著・ひつじ書房・900円)ではこれまであげた諸々の問題に対し、出版社の経営者である著者が斬新な提案を行っている。「本をバリバリ破ろう」「つぼ八と図書館」など、今まででは考えられなかったような切り口でこれからの図書館の在り方を論じており、非常に刺激的でおもしろい。


税金を使う図書館から税金を作る図書館へ
ひつじ書房・900円

 時代のニーズを受けて、変わっていく図書館に期待したい。

図書館ではたらく

 
図書館のある暮らし
未来社・1900円
 図書館で働く人に対して皆さんはどのようなイメージを持たれるだろうか。司書というと図書館でカウンターに座っている人という印象があると思うが、実際にはどんな仕事をしているのだろうか。図書館で働いている人たちの書いた本をいくつか紹介したい。
 『図書館のある暮らし』(未来社・1900円)は、前述の浦安の図書館の初代館長竹内紀吉氏の図書館エッセイ。図書館でのエピソードや著者との出会いが書かれ、日々の仕事の様子や理念が伝わってくる。『ある図書館相談係の日記』(大串夏身著・日外アソシエーツ・1922円)は都立中央図書館のレファレンス係の記録。1989〜90年の記録のため現状とは異なる部分も多いが、図書館にやってくるさまざまな人々やその質問、それに対する著者の対応の様子などは興味深い。
 図書館界に身を置いて50年という藤野幸雄氏の半生をつづったものが『図書館へのこだわり』(勉誠新書・700円)である。図書館で働き、図書館学を教えてきた著者の体験は、戦後の図書館の歴史そのものであり、当時の図書館の様子がよくわかる。
 イギリスの児童図書館員アイリーン・コルウェル氏の自伝『子どもと本の世界に生きて』(こぐま社・1700円)も著者の図書館での取り組みや体験が楽しく描かれている。公共図書館ではないが、自らも児童図書の文庫を運営する「本の探偵」赤木かん子氏の『こちら本の探偵です』(径書房・1600円)もおすすめ。タイトルも著者もわからないが、内容やシーンだけを覚えているというような本を探し出すという本の探偵をやっている著者の本探しの記録。これは実は本来図書館がやるべき仕事の一種なのである。
 また、図書館の利用者の中には、通常の図書館のサービスを受けることが難しい人たちもいる。『すべての人に図書館サービスを―障害者サービス入門』(日本図書館協会障害者サービス委員会編・日本図書館協会・971円)にはそういった利用者に対するサービスのあり方の解説書。高齢者に対する宅配サービス、外国語の資料の充実、身体障害者のための什器の設備など、多種多様なサービスについて、実例を交えて説明がある。
 既存の図書館で働くのではなく、自分で図書館を作ってしまう人もいる。面白い例が山形県川西町の遅筆堂文庫図書館。その名の通り、遅筆堂こと井上ひさしさん縁の図書館である。なんと川西町住民の要請を受けて、井上氏の蔵書約13万冊をもとに図書館を作ってしまったのである。その様子を書いたのが『遅筆堂文庫物語』(遠藤征広著・日外アソシエーツ・1400円)である。また『本の運命』(井上ひさし著・文春文庫・390円)では井上氏側から見た遅筆堂図書館が書かれている。

本の運命
文春文庫・390円
 そのほか『図書館をつくった!』(林 健生著・青弓社・1800円)や『図書館づくり奮戦記』(山本宣親著・日外アソシエーツ・1900円)など図書館をつくったという話は意外と多い。自分の経験をもとに図書館の作り方を具体的に述べた『図書館をつくる。』(岩田雅洋著・アルメディア・2400円)という本も出ている。
 『指と耳で読む―日本点字図書館と私』(本間一夫著・岩波新書・660円)は点字図書によって読書の楽しみを知った著者が、やがて点字図書館開設に至るまでの苦闘が語られる。同じ著者による『我が人生「日本点字図書館」』(日本図書センター・1800円)は、点字図書館の発展に力を尽くしてきた著者の82年の人生を振り返った自伝。

図書館員への招待
教育資料出版会・1700円
 最後にこれから図書館で働きたい人のための本。司書の仕事となり方を紹介している定番といえばぺりかん社の『司書・司書教諭になるには』(森 智彦著・1170円)や『図書館司書という仕事』(久保輝巳著・1750円)。もう少し詳しく知りたい人には『図書館員への招待』(塩見 昇著・教育資料出版会・1700円)がおすすめ。仕事の紹介から勉強内容、試験情報まで図書館で働くために抑えておきたい情報がそろったガイドである。また、昨年から日本図書館協会より『図書館職員採用試験問題集・解説』(1500円)も出ているので、活用したい。
 図書館を本業にしなくても、仕事にかかわってみたいと思っている人には『図書館ボランティア』(図書館ボランティア研究会編・丸善・2400円)という道もある。図書館でのボランティア活動の実践例を紹介し、その在り方をさぐったものだ。生涯学習時代における図書館と市民の在り方を学ぶためにもお勧めである。

図書館を使う

 本を借りる以外にも、図書館は本に関する様々なサービスを提供してくれる場でもある。代表的なのが、レファレンスサービスである。これは簡単に言えば、利用者が必要とする本を探す手助けをすることであり、書店の役割にも通じるサービスだ。『まちの図書館で調べる』(『まちの図書館で調べる』編集委員会編・柏書房・2000円)は、図書館で調べ物をするためのするための徹底ガイド。レファレンスサービスについて一章を割いての詳しい説明がある。『情報収集・問題解決のための図書館ナレッジガイドブック』(東京都立中央図書館編・ひつじ書房・2800円)は、特定の分野の文献資料を所蔵する421機関を紹介したもの。

情報収集・問題解決のための図書館ナレッジガイドブック
ひつじ書房・2800円
 サービスの提供者側のための本としては『レファレンスサービス―図書館における情報サービス』(長沢雅男著・丸善・2300円)『レファレンスサービス演習』(田沢恭二編著・東京書籍・2000円)などがある。いずれも専門的なものだが、司書の仕事に興味がある方は、一度手にとって見てみてはいかがだろう。
 こういったサービスを行うにとどまらず、図書館を生涯学習の場として捉え直す動きが近年活発になっている。『図書館を遊ぶ―エンターテイメント空間を求めて』(渡部幹雄著・新評論・2000円)は、三つの図書館の開館に携わった著者による人と人、知識と人との交流の場としての図書館のあり方について語られた話題の本。人の集まる図書館を作り、そこから地域の活性化を図りたいという著者。書店員としても大いに参考になる姿勢である。

図書館を遊ぶ―エンターテイメント空間を求めて』 
新評論・2000円
 同じような立場から書かれた本としては、『図書館に行ってくるよ―シニア世代のライフワーク探し』(近江哲史著・日外アソシエーツ・1900円)がある。利用者が図書館とどのように付き合えば良いのか? 定年後、図書館通いを日課とする著者による、図書館利用法が記されている。
 次は実用的な図書ガイドを何点か。『おもしろ図書館で遊ぶ』(毎日新聞社・1429円)は全国の個性豊かな専門図書館のガイドブック。前出の「遅筆堂文庫」も掲載されている。『東京ブックマップ』(東京ブックマップ編集委員会編・書籍情報社・780円)は図書館だけでなく、新刊書店、古書店、出版社など本との出会いの場のガイド。東京だけに限られてはいるが、本探しのための頼れるガイドである。隔月誌『レコレコ』(メタローグ・590円)のVOL・8では「決定版! 遊べる図書館」という特集が組まれ各種図書館を紹介。また『書店&図書館ガイド/東京』(レコレコ編集部編・メタローグ・890円)が一月に出版された。


書店&図書館ガイド/東京』 
メタローグ・890円

舞台は図書館

 本が大好き、図書館が大好きな少女、月島雫は今日も図書館に通う。選びに選び抜いた本を開き貸し出しカードを取り出すと、自分の名前の前にはいつも同じ、「天沢聖司」という名が…。スタジオジブリによって映画化もされたコミック『耳をすませば』(柊あおい著・集英社・390円)のワンシーンである。20代以上の読書家にとっては懐かしいシーンではないだろうか。続編『耳をすませば 幸せな時間』(柊あおい著・集英社・390円)もある。

耳をすませば 幸せな時間
集英社・390円

 この作品のように図書館という場が物語のキイとなる物語というのは、実は少なくない。最近よく書評で取り上げられている『図書館の神様』(瀬尾まいこ著・マガジンハウス・1200円)もそのひとつ。国語教師である主人公が、赴任先の高校の図書室で一人の少年と出会うことから物語が動き出す。今回はこういった「図書館小説」を、町田市立図書館の院丸さんに下記のとおりご紹介いただいた。



 図書館にはミステリーが似合うらしい。まずは図書館が舞台のミステリーからご紹介しよう。J・アボット『図書館の死体』(ハヤカワミステリアスプレス文庫・740円)はアメリカ片田舎の町立図書館が舞台、探偵役は若き図書館長ジョーダン氏。彼が活躍するシリーズは『図書館の美女』(740円)『図書館の親子』(860円)『図書館長の休暇』(940円)と続く。
 紀田順一郎『第三閲覧室』(創元推理文庫・700円)は大学図書館で、ローレンス・ブロック『泥棒は図書室で推理する』(早川書房・現在出版社品切れ)ではホテルの図書室で死体が発見される。まったく図書館は死体累々である。二作とも事件の謎解きだけでなく、その合間に語られる本に関する薀蓄話も楽しい。
 恩田陸『麦の海に沈む果実』(講談社文庫・714円)では、世間から隔絶した全寮制学校の図書館で百科事典に挟んであった不思議な詩から物語が始まり、次々と謎の事件が起こっていく。またウンベルト・エーコ『薔薇の名前 上』(東京創元社・各2300円)は、迷宮のような中世ヨーロッパの修道院の図書館が舞台だ。
 法月綸太郎の「図書館シリーズ」と呼ばれる短篇連作では作者と同名の主人公法月綸太郎と区立図書館の女性司書穂波のコンビが事件を解決する。『法月綸太郎の冒険』(講談社文庫・695円)に四篇、『法月綸太郎の新冒険』(講談社文庫・667円)に二篇が収められている。実はこのシリーズの中には一部問題がある。主人公が図書館の貸出記録から犯人を割り出そうとする場面があるのだ。もちろん貸出記録その他利用者の個人情報を部外者が見ることは許されない。この問題については『法月綸太郎の冒険』文庫版後書きに作者による解説と反省の弁があり、後に書かれた『法月綸太郎の新冒険』所収の二篇では貸出記録を調べようとすると司書がピシリと断るようになっている。解説と合わせて読み比べていただきたい。
 村上春樹の作品にはよく図書館が登場する。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上』(新潮文庫・上巻590円・下巻552円)では、たくさんの古い夢を保存するという異世界の図書館が描かれる。また『海辺のカフカ 上』(新潮社・各1600円)は、家出して私立の専門図書館に身を寄せた十五歳の少年カフカが、メタファーに満ちた自分探しの旅をする物語だ。村上春樹の世界では図書館は単なる背景ではなく、物語の重要なキーワードでもある。
 最近の図書館はずいぶん明るく開放的になったが、それでもその奥深くに何かが潜んでいそうな怖いイメージがあるのだろうか。スティーブン・キング『図書館警察』(文春文庫・914円)はそんな図書館の怪談だ。こうした図書館の醸し出す不思議な雰囲気がさまざまな物語を産むのだろう。
 一方ごく普通の図書館の一隅でのささやかなドラマを描いた作品もある。丸谷才一「鈍感な青年」(『樹影譚』文春文庫所収・現在出版社品切れ)は図書館に通う学生カップルの話。彼女との関係をなかなか進展させられないオクテで鈍感な青年に、図書館という背景がピッタリはまっている。図書館では今日も人知れずドラマが生まれつづけているはずだ。