書標 2004.2月号
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著者が語る○383           


  「現代中小企業の経済分析―理論と構造―」

               流通科学大学商学部教授 田 亮爾



 現在、日本における企業数は非一次産業計で約470万社存在する。このうち、99.7%にあたる約469万社までが中小企業である。
 このように多くを占める中小企業は、単にその量的存在が重要であるだけではなく、日本経済を支える質的役割もまた極めて重要である。たとえば、大企業と取引関係にある協力中小企業を想起すれば、日本経済が決して大企業のみで成り立っているわけではないことがわかる。
 ひるがえって、1970年代以降、約30年間の日本経済は大きな構造転換期にあった。73年の第一次石油危機を契機として、日本経済の高度成長も終焉し、経済構造の転換が急速に進展してきた。さらに、80年代末から90年代初めにかけてバブル経済のあと、2000年代にかけての十年余の間、日本経済は長く停滞し、構造変化が加速してきた。
 こうした状況を中小企業の視点からみると、おおむね次の三つの側面から構造変化が進んできたと考えられる。
 第一に、小売業や製造業において、小零細企業数が80年代初めから減少が続いていること、第二に経済構造、需給構造の変化は企業数の減少のみならず、雇用構造の変化にもあらわれ、雇用不安、就業形態の多様化等が中小企業の雇用構造と深く関連してきたこと、第三に中小製造業の中核を占めてきた下請中小企業が中小企業上位層を中心に減少してきたこと等である。
 以上、三側面のいずれも中小企業構造の変化を具体的にあらわすものであり、これら三側面は相互に深く関連してきたと考えられる。
 本書は、このような問題意識から、現代の中小企業とその構造変化を1970年代以降、30年余にわたり、主に企業間関係視点と企業内関係(雇用関係)視点から捉え、その現代的意義を考察したものである。
 筆者の理論的仮説は、企業間取引分業関係における「関係財」概念の適用である。すなわち、企業間取引分業関係に効率性がみられるのは、組織間学習による能力向上、創造性をもつ優れた関係財の発揚によるものと考えられる。それは、・関係する企業の経営資源蓄積状況、企業能力(competence)の程度、・関係する企業間で相互補完性の程度、・関係する企業の経営資源充実・向上への自己学習能力・改善能力・革新能力等の程度に規定される。
 中小企業の企業間取引分業関係において、効率性側面が強くあらわれるか、問題的側面が強くあらわれるかは、こうした諸条件に規定される。これら諸条件は一般的に中小企業上位層に主としてみられる傾向であり、逆に下位層においては、こうした諸条件が整わないことが多く、それが問題性発現の一要因となっている。あるいはまた、その結果として企業間格差を生んでいる。したがって、中小企業下位層においては、資源依存論の片務的依存関係モデルが有効な説明力を持つと考えられる。
 近年、中小企業の構造は大きく変化しつつあるが、そうした中小企業構造変化を規定する要因の中でも、とくに企業の対外的関係の中枢である企業間取引分業関係は中小企業構造変化の原因となり、結果となって深く関係してきた。さらに、それは経営資源の中枢である労働力構造とも深く関係してきた。
 本書の後半では、こうした仮説検証のための実証分析を約30年間の各種統計分析のもとで、行っている。
 こうして、中小企業構造とその変化は、企業間取引分業関係を中心とする企業間関係と雇用関係・労働力構造を中心とする企業内関係が対応し、深く関連しつつ、進展してきたのである。
 しかしながら、現代の生産構造は効率性と問題性を合わせもつ統一体である。効率的な生産力面では発展性が認められつつも、企業間取引分業関係の裏面では階層によって取引関係の非対称性等の問題性も有している。
 このような経済構造下で、より一層の経済発展を図るための課題は「効率と公正」を整合的に達成しつつ、広範な社会的分業関係を構築してゆくことである。それがまた中小企業の発展に資することにもなる。現代経済は「効率と公正」を同時に達成してゆくことの重要性が、従来にも増して一段と高まっているのである。




現代中小企業の経済分析
ミネルヴァ書房・3,500円