書標 2004.2月号
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 レポート ジュンク連続トークセッション

池袋本店で行われたトークセッションの概要を御紹介します。

 
12月12日(金)
「戦火の下の子どもたち」

豊田直巳(フォトジャーナリスト)

 米英軍の空爆の下、豊田さんはバグダッドで取材を続けた。「サダム像」倒壊のシーンが米軍の演出であったことも目の当りにしているし、「空爆でひどい目にあって『解放してくれてありがとう』というバカはいない」という気持ちをイラクの人びとと共有している。
 さて、自衛隊派遣が現実化したサマワである。確かに現地の人たちは日本人を歓待してくれる。但し、安全なのは鉄砲を持っていないからこそである。武器を携行し軍服を着た人々が歩くと、途端に緊張が走り、戦闘の危機が生じるのだ。
 劣化ウラン弾による病に苦しむイラクの人びとが何よりも期待しているのは、広島・長崎の経験を持つ日本の医療技術なのだ、と豊田さんは訴える。

 *『「イラク戦争」の30日
(七つ森書館・1800円)


12月19日(金)
「いいダニ、悪いダニ」

青木淳一(農学博士、神奈川県立生命の星・地球博物館館長)

 ダニの生息場所として思いうかべるのは、おそらく、じゅうたん、布団、畳などの家の中だろう。しかし、ほとんどのダニは山林などの自然の中に生息しており、肉食ではない(動物の血を吸わない、つまり人間を刺さない)ものが多い。そんなお話を皮切りに、青木さんは「ダニは悪者ばかりではないんですよ」と何度も語りかけた。
 青木さんは、ダニの中でも特に「ササラダニ」のスペシャリストである。ササラダニは、土壌中に生息し豊かな自然を支える「いいダニ」である。当日、参加者に配られた青木さんによるササラダニのスケッチは、感動的な細かさで、普段わたしたちがダニに対して抱きがちな「気持ち悪い」などという感情をみじんも感じさせなかった。
 これまで数々の新種のダニを発見なさった青木さん。余談だが、お知り合いの名前を新種のダニにつけたところ、当人には不評だったとか。今後もたくさんの新種のスケッチがコレクションされていくことだろう。

*『ダニにまつわる話(ちくまプリマーブックス99・1200円)


1月17日(土)
「『競争相手は馬鹿ばかり』の世界へようこそ」

金井美恵子(作家) 
鈴木一誌(デザイナー)
  インタビュアーである鈴木さんは冒頭からエディトリアル・デザイナーの本領を発揮する。金井さんの著書『競争相手は……』の目次立ての分析である。「目次は一つの文章になってなければならない」と。納得。
 次に金井さんにとっての「書く」とは、である。「文章を書くとき重要なのは、どれだけ連想できるか、という事です」と金井さんは語る。「言葉から自分の記憶をどれだけ手繰り寄せられるか、でしょうか。記憶を教養と言いかえられるかも」と話はどんどん核心に迫っていく。「私の小説は心理描写で進行して行くのではなく、作中人物の〈行為〉が次の展開を呼び寄せるポイントになっています。時に書いている途中で思わぬ記憶が蘇って、本人が面白がっていたりします」
 作家から直接聞く〈小説作法〉は実に興味深い。金井さんの本音を引き出した鈴木さんの手腕にも拍手。

 *『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ
(講談社・1800円)


1月18日(日)
「作家と文芸誌についての二・三の事柄」

小川洋子(作家)
聞き手…『群像』編集部
 昨年後半からヒットを飛ばしている『博士の愛した数式』を題材に、著者の小川さんにとっての「書くこと」とはなにかを話して頂いた。
 「ひとは『死』とはなにかという根源的な問題に答えられないまま生きていきます。いわば自分の起源を知らないまま生きるのです。でも物語なら曖昧なままでも〈死とは何か〉に答えることができます。突き詰めれば小説の効用は〈死の準備への手助け〉、といってもいいと思います。作家は物語として〈死〉を解説するのが役割、と私は思います」小川さんの〈小説観〉の深さに脱帽。会場も水を打ったような静けさであった。
 それでは小川さんの小説はどのようにして生まれるのだろうか。「まず、シーンとしての映像が浮かび、『博士…』の時は数学者と家政婦が台所に座っている姿、そこから映像と映像をつなぐようにして言葉になっていきます」小川さんにとって表現とは?「人を描写する時は、〈悲しいとか嬉しい〉等の直接表現するのではなく、例えば洋服や靴などの外見を書くことによって心を表現します」
 小川さんが好きな本は、と最後の質問。『富士日記』(武田百合子著・中公文庫・上中下巻すべて933円)だそうだ。日常を淡々と書き記すことによって人間の尊さを感じさせる素晴らしい本、と激賞。

*『博士の愛した数式
(新潮社・1500円) 


1月22日(木)
「翻訳文学ブック・カフェ パート10」

新元良一(翻訳家)
越川芳明(翻訳家)
 新元良一さんによる翻訳文学ブック・カフェも十回目を迎えました。今回は越川芳明さんをゲストに、現代アメリカ文学の鬼才スティーヴ・エリクソンの『真夜中に海がやってきた』(筑摩書房・2300円)を中心に語っていただいた。

*『真夜中に海がやってきた
(筑摩書房・2300円) 




光雅堂書店

光雅堂書店は、店長の安野光雅さんが選んだ書籍を展示しています。池袋本店には1ヶ月に1回程度安野光雅さんが来店し、イベント等を行います。次回は3月2日(火)18時30分から奥本大三郎さんと「プロヴァンスとファーブル」というトークセッションを開催いたします。入場料はドリンク付きで1000円です。詳細はお問い合わせ下さい。(03-5956-6111)