読者から

昔夢会筆記
田村余里古(滋賀県・56歳・パート)

 この本は私がこの世で出会ってよかったベスト10冊の中に入る。徳川慶喜のインタビュー集。徳川慶喜といったら、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康クラスの人である。豊臣秀吉の肉声は聞けないが、徳川慶喜の肉声はここにある。声質、話し方などはわからないがまさしく彼の語った言葉がここに記録されている。
 そういう記録者・聞き手を得たということ、語り得る時まで天が徳川慶喜に天寿を与えたということ、徳川慶喜の記憶力、冷静な人柄、そのどれが欠けてもこの本は世に出なかったろう。奇跡の書である。
 だいたい、革命で倒された政権の代表者が、倒して天下をとった人達の誰よりも長生きした、なんて世界の歴史にも滅多に無いのではないか。徳川慶喜は30歳で将軍の座を追われてから、47年も生きたのだ。その間に、彼を倒す側の中心人物だった西郷隆盛は盟友大久保利通率いる新政府と戦って敗死し、西郷とともに討幕のリーダーだったその大久保利通は暗殺された。日清戦争があり、日露戦争がおこり、慶喜に代わって新政府の中心に立たれた明治天皇もおなくなりになった。
 この本の中で、世間に流布している慶喜に関するドラマチックなエピソードを、彼自身の口で「そんなことはない」「それは面白く言ったもので事実ではない」とあちこちで否定しているのが興味深い。彼が否定しなかったらそれは事実ということになっていたろう。歴史は見る人の数だけある、とはよく言ったものだ。
 そして徳川慶喜が自身で徳川慶喜を語ってすら、思い違い、記憶違い、あるいはこの部分の真実は墓の中まで持って行く、と思っている部分もあるやに見えて、何回読んでも新しい発見があり飽きない。
 校訂の大久保利謙氏が大久保利通ゆかりの人だったりしたら、この本の奇跡度は天井まで行く。

昔夢会筆記
徳川慶喜著 澁澤栄一編 大久保利謙校訂 東洋文庫・3000円


四国遍路のはじめ方』を読んで
鈴木秀保(名古屋市・51歳・会社員)

 今、四国に年間10万人以上の遍路が巡拝している。特に歩き遍路が数年前の千人位から二千五百人位へと急増している。こうした時代背景のもとで本書が刊行された意味は大きい。
 四国八十八ヵ所歩き遍路記は非常に多く刊行されている。しかし、どの著作も自己の体験談に終始している内容である。中には、辰濃和男著『四国遍路』(岩波新書)、森春美著『女へんろ元気旅』(JDC)、加賀山耕一著『さあ、巡礼だ』(三五館)等々の読みごたえのある著作もあるが。
 串間さんの「掬水へんろ館」は、遍路のホームページの中で最も内容が充実している。本書はその内容を軸として執筆されているので、とても読みやすく、四国遍路をこれから歩いてみようと思われる方の必読書である。著者自身歩いた体験に裏打ちされているので説得力がある。
 四国1400キロを二度通しで歩いたわたしが読んでも楽しく読めた。私自身は先入観をもって歩くのは感動が薄れると考えている。けれども、串間さんの書かれている事ぐらいは最低限の知識として頭に入れておくべきだ。
 忙しい社会人でも2年〜3年で四国八十八ヵ所を歩くことができると本書は教えてくれる。著者の体験、遍路の心得や準備等々が楽しく語られ、気軽に遍路に出る事を勧めている。遍路に出る動機は各人それぞれだが、初めて歩く方への導きとなる書である。

四国遍路のはじめ方
串間 洋著 明日香出版社・1400円



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