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球春到来、である。毎年この時期になると、野球のことで頭がいっぱいになってしまうという人が、あなたの周りにもいないだろうか。年々観客動員が減少したり、テレビ中継の視聴率が下がり続けたりしてはいるものの、まだまだ野球ファンは健在だ。そこで、プロ野球の開幕を祝して、今月は「読んで知る『野球』」特集である。野球は興味ないけれど本は好き、という人へ。あるいは、野球は好きだけれど、本は読まないという人へ。そしてもちろん、野球も本も大好きという人へ。このブックガイドを贈る。
〈物語の中の野球〉 野球を全然知らないという人は、野球を題材にしたマンガや小説から入ってみてはどうだろうか。ルールがわからなくても楽しめるし、読むうちに野球の醍醐味やポイントがわかるようになってくるはすだ。 野球マンガを端から紹介していると誌面が尽きてしまうので、独断と偏見によって選んだものを、いくつかご紹介する。まずは、高校野球モノから『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ著・講談社・7巻まで刊行中)。スポーツを扱ったものは、どうしても熱血スポ魂マンガになりがちであるが、この作品には、まったくそういったところがない。これほど理論的な野球が描かれているマンガは、他にないのではないか。練習メニューも、キャッチャーの配球も、試合で展開される高度な心理戦も、とにかくよく計算されている。普通の高校生が集まった普通のチームが、練習を積み、試合でその成果を出し、少しずつ強くなっていく姿には、思わず引き込まれてしまう。野球初心者でも、野球マニアでも、どちらも楽しめる作品である。 『実録!関東昭和軍』(田中誠著・講談社・2巻まで刊行中)もまた異色の高校野球マンガだ。舞台は、甲子園まであと一歩というところにいる、強豪関東昭和高校野球部。そこでは、今日も前近代的なスパルタ練習が行われ、先輩による後輩へのしごき・体罰も日常茶飯事。甲子園に出るためには、理事長も監督も手段は選ばない。「高校野球=健全・爽やか」というマスコミが作り上げたイメージを粉々に打ち砕く作品だ。とは言っても、単に批判的に描かれているわけではないし、おそらく作者はかなりの高校野球ファンなのだろう。やり方はともかく懸命に甲子園を目指す選手たちの姿は、愛情を持って描かれているように感じられる。これを読めば、高校野球の真の魅力がわかる? かもしれない。 プロ野球マンガでは、『ストッパー毒島』(講談社・ハロルド作石著・全12巻)が面白い。MAX160キロの豪腕投手毒島が、弱小球団京浜アスレチックスに入団して、チームを優勝に導く……と紹介するとありがちな野球マンガのように聞こえるが、こちらもなかなか一筋縄ではいかない作品だ。登場人物のキャラクターが濃いのは、いかにもギャグマンガらしいのだが、パ・リーグの一球団としてのチームの描かれ方が、異常にリアルで凝っている。野球を知らない人は素直にギャグマンガとして読めるし、野球ファン、特にパ・リーグファンにとってはこの上なくツボを刺激される作品でもある。 数ある野球マンガの中でも、少女マンガは珍しい。その代表格が『メイプル戦記』(白泉社文庫・川原泉著・全2巻)だ。新たにセ・リーグに創設された女性選手だけのプロ野球チーム「スイート・メイプルス」のお話。「女に負けるわけない」と侮る男性選手を相手に、奮闘するメイプル選手たちの姿は、読むものを元気にしてくれる。外国人助っ人あり、元高校球児のニューハーフピッチャーありの、個性豊かな登場人物に目を奪われがちになるが、いたって真面目な野球マンガである。男性にも是非読んでほしい。 さて、マンガはこのへんにして、次は小説を紹介しよう。『バッテリー』(あさのあつこ著・角川文庫・540円)は、今もっとも人気のある野球小説と言っていいだろう。中学入学前の春休み、圧倒的な才能を持つピッチャー原田巧が、ある山間の小さな町に引っ越してくるところから物語が始まる。自らの才能に絶大な自信を持ち、ストイックに野球に傾倒するあまり、周囲から孤立しがちな彼の前に、巧とバッテリーを組みたいという同級生キャッチャーが現れて……。ぶつかり合いながらも徐々に「バッテリー」らしくなっていく二人から目が離せない。元々は児童小説だったが、幅広い読者を獲得した作品だ。 伊集院静の『受け月』(講談社文庫・580円)は、直木賞を受賞した表題作を含め、収録された七編すべてが野球を題材にした短編集。一つのモチーフで、これだけ様々な人間の生き方や、家族の姿を描き出すことができる著者の手腕に驚かされる。華やかな舞台で野球をしている人物は一切登場しないが、それだけに野球のもつ魅力の奥深さに気付かせてくれる作品である。 ![]() 野球は日本だけのスポーツではない。ベースボールの国アメリカにも、素晴らしい野球文学がある。『ジャパニーズ・ベースボール』(DHC・1575円)は、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作者として知られるW・P・キンセラの短編集。メジャーリーグをお払い箱になり、来日した選手を主人公にした表題作を始め、人生の悲哀を描いた作品が多い。しかし、切なさの中にも、登場人物に対する著者の暖かい眼差しが感じられ、読後感が素晴らしく良い。 ピューリッツァー賞作家ドリス・カーンズ・グットウィンの『来年があるさ』(ベースボールマガジン社・1995円)は、著者が野球に夢中になった子供の頃の思い出を描いた自伝的な作品だ。六歳のときに父親から真っ赤なスコアブックをプレゼントされた一人の少女は、地元ブルックリン・ドジャースの試合を連日克明に記録するようになり、やがて歴史学者へと成長した。希代のストーリーテラーである彼女が当時のスコアブックを紐解くと、単なる野球史にとどまらない、1950年代の古きよきアメリカの姿、そして当時のアメリカの家庭の暮らしまでもが鮮やかに蘇ってくる。著者の野球に対する並々ならぬ愛情が感じられ、野球に出会えたことを感謝したくなるような、珠玉の作品だ。 〈野球の歴史〉 今でこそ日本は野球が盛んな世界有数の国である。しかし「ベースボール」が、始めから日本にスムーズに定着したわけではない。そこには先駆者たちの数々の苦闘があった。 「野球」の名称の名付け親は、俗説では正岡子規によるものといわれているがこれは誤りで、鹿児島出身の教育者・中馬庚の命名である。この事実を丹念に検証したのが、『“野球”の名付け親――中馬庚伝』(城井睦夫著・ベースボールマガジン社・1009円)である。中馬は、テニスを「庭球」と呼ぶのにヒントを得て、フィールドの球技なので「野球」の名称を考案したという。中馬は、昭和45年に野球殿堂入りしている。 今となっては信じがたいことだが、明治時代、新聞社主導で、野球の害悪を訴えるキャンペーンが行われたことがあったのだ。その中心にいたのは、旧五千円札の肖像画で有名な新渡戸稲造であった。その大騒動の顛末は『熱血児押川春浪 野球害毒論と新渡戸稲造』(三一書房・横田順彌著・1835円)に詳しい。「野球は悪くいえば巾着切りの遊戯」で、盗塁や隠し玉など言ったずるい策略を教え込む教育上宜しくない競技であるという理論は、現在読むと驚かされる。しかもこの野球害毒論キャンペーンを載せた新聞が、現在夏の高校野球大会を後援している朝日新聞なのにはさらに驚かされる。 今は大リーグに移籍するプロ野球選手も決して珍しくないが、野茂英雄が渡米するまでは、元日本ハムの村上雅則ただ一人しか経験者のいない茨の道であった。あの名投手・江夏豊も、最晩年とは言え、大リーグのテストに合格することは出来なかった。ところが、それよりはるか以前の明治後期に、アメリカの野球リーグで活躍した日本人がいたのである。その名は聞くからに勇ましいジャップ・ミカド。本名は三神吾朗という。早稲田大学の野球部から、アメリカの独立リーグトムにスカウトされるまでの経緯は、『「ジャップ・ミカド」の謎』(佐山和夫著・文藝春秋・1733円)をどうぞ。横田順彌の『明治不可思議堂』(ちくま文庫・998円)でも一章を割いて紹介されている。 横田順彌の著書には、明治期の新聞・雑誌紙上の貴重な野球関係資料を集めた、『嗚呼!! 明治の日本野球』(平凡社ライブラリ・1680円)もある。 プロ野球に欠かせないのは、各チームがデザインに工夫を凝らしたユニフォームである。そのユニフォームについての事ならば全てがわかる百科事典的な本が、『プロ野球ユニフォーム物語』(綱島理友著・ベースボールマガジン社・7350円)である。プロ野球草創期から、楽天イーグルスまでの全ての球団のユニフォームを、緻密なイラストで紹介している労作である。7色のユニフォームの日拓ホームフライヤーズ、紫地に胸に背番号の入った太平洋クラブライオンズなど、珍しいユニフォームについてもカラーで紹介されている。眺めているだけで楽しくなる一冊だ。 昭和のプロ野球史を彩りながら、現在消滅してしまった球場を紹介したのが、『あの頃こんな球場があった 昭和プロ野球秘史』(佐野正幸著・草思社・1470円)である。近鉄バファローズの熱狂的なファンである著者が、実際に観戦に通った記述が多く、貴重である。かつて野球ファンたちの興奮と熱狂が渦巻いた夢の跡を偲ばせてくれる。後楽園球場、大阪球場、川崎球場……今のドーム球場と比べれば設備は粗末ながら、プロ野球の黄金時代を彩ったグラウンドの姿が眼に浮かんでくるようである。 〈ドキュメント・野球〉 山際淳司の短編集『スローカーブを、もう一球』(角川文庫・483円)は、野球の本を特集する上で、外すことのできない一冊だ。収録作品の中でも、79年の日本シリーズ、近鉄対広島の第7戦9回裏の息詰まる攻防を描いた「江夏の21球」は氏の代表作と言っていい。プロ野球史上に語り継がれる名場面を、冷静な筆致で丹念に描いたこの作品によって、彼は解説でも批評でもなく、ドキュメンタリー的な手法でスポーツに迫る、いわゆるスポーツノンフィクションというジャンルを確立した。ここでは、いくつか優れた野球ノンフィクションを紹介したい。 昨夏の甲子園決勝戦、引き分け再試合により2日間5時間半に及ぶ激戦が繰り広げられたのは、記憶に新しい。早稲田実業と駒大苫小牧の両エース対決への注目が集まり、関連本も数多く出版された。その中でも特にお勧めなのが『早実VS駒大苫小牧』(中村計・木村修一著・朝日新書・756円)だ。監督や選手のコメントが豊富で、時間をかけて丁寧に取材して書かれたことがうかがえる。決勝戦だけでなく、日頃の練習の様子も描かれており、甲子園で決勝まで残るチームは、普段からこれほどレベルの高いことを考え努力しているのかと驚嘆を禁じえない。試合を観戦するだけでは見えてこない部分を浮かび上がらせてくれる、これこそがドキュメンタリーの醍醐味だろう。手に汗握って読む一冊だ。 『122対0の青春』(川井龍介著・講談社文庫・560円)は、前述の決勝戦とは全く違った意味で歴史に残ってしまった一戦の記録である。1998年夏、青森県の地方予選大会で、県立深浦高校野球部は「122対0」という記録的なスコアで大敗する。この「事件」は当時ニュースで報道され、ちょっとした話題になった。試合の最中、当事者である選手たちはどんな心境だったのか、周囲の人たちはそれをどんな思いで見ていたのか、そして試合後の大反響を選手がどう受け止めたのか……。著者は当時の一年生部員のその後を追跡取材し、彼らにとって「あの試合」はどんな意味を持つのか、徹底的に迫ろうとする。過疎化や少子化による、高校野球部の地域格差の問題も垣間見え、内容の濃いドキュメンタリーに仕上がっている。 98年は怪物松坂が甲子園を席巻した年でもある。あの夏、予選で、あるいは甲子園で、松坂と同じグラウンドに立った球児たちは、怪物投手から計り知れないほどの影響を受けたのだった。『松坂世代』(矢崎良一著・河出文庫・830円)は、そんな彼らの甲子園後の野球人生を追跡取材したものである。ある選手は、松坂ともう一度対戦することを夢見て、それまで考えてもいなかったプロ野球の道へ進み、またある選手は、自らの野球選手としての限界を悟り、野球以外の進路を選択した。甲子園で対戦した選手だけでなく、松坂のシニアリーグ時代のチームメイトにまで取材を行い、膨大な証言から「怪物松坂」を中心とする一つの群像を浮かび上がらせた著者の手腕は見事である。 何も、試合や選手について書いたものだけがスポーツノンフィクションではない。『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著・ランダムハウス講談社・798円)は、メジャーリーグ球団アスレチックスのゼネラル・マネージャー、ビリー・ビーンの革命的な球団経営手腕を取材したドキュメンタリーだ。昨今の日米プロ野球界は、さながらマネーゲームの様相を呈している。資金力の豊富な球団ほど、有力な選手を獲得し、そうでないチームとの戦力の差は開く一方。資金がなければ試合に勝てない――。そんな大方の球団経営者の主張に、ビリーは異を唱える。肝心なのは、「資金をどれだけたくさん持っているかではなく、どれだけ有効に活用できるかにある」と。そのために、実力よりも過小評価されている選手を発掘し、育て、市場評価が高まった頃に高額で放出する。一見単純明快なこのメカニズムによって、年棒総額がヤンキースの三分の一程度しかない弱小球団が、そのヤンキースと首位争いをするようなチームに変貌した。打率やホームランよりも出塁率を重視し、あらゆるデータを用いて選手の「本当の価値」を科学的に算出しようとするアスレッチクス経営陣のやり方はには、目から鱗の思いがする。第一級の野球ノンフィクションでありながら、ビジネス書としても読めるはず。 ![]() 昭和30年代初頭、圧倒的な強さを誇っていた読売巨人軍を、日本シリーズで三連覇した伝説的なチームがあった。西鉄ライオンズ(現・西武ライオンズ)である。鉄腕投手と呼ばれた稲尾和久、巨大ホームランを量産した怪童中西太、強気の打撃でチームに活気を与えた豊田泰光……など、個性的な選手たちの群像は、『西鉄ライオンズ 伝説の野武士球団』(河村英文著・葦書房・2310円)に活写されている。自らもライオンズのエースだった著者だけあって、チームの裏話も満載で面白さは満点。近年流行の管理野球には見られない、豪放な野球チームの姿が生き生きと描かれている。 この野武士球団をまとめていた監督が、三原脩である。巨人監督から、西鉄に移りチームを強豪にし、万年最下位だった大洋ホエールズを就任一年目で日本一に導いた。『魔術師 上・下』(立岩泰則著・小学館文庫・各690円)は、この名監督の生涯を精緻に描く。中でも印象的なのは、理解のないフロント陣との軋轢の酷さである。グラウンド以外の部分でも、監督は戦わなければいけない過酷な職業であることを教えてくれる。 圧倒的な強さと熱狂的人気を誇った西鉄ライオンズであるが、数度の身売り・移転などの紆余曲折を経て、現在は西武ライオンズとなって、埼玉県所沢をフランチャンズとしている。なぜライオンズは、九州を去らなければならなかったのか。ライオンズが身売りを繰り返した激動の6年間を、元代表が振り返るのが『波瀾興亡の球譜――失われたライオンズ史を求めて』(坂井保之著・ベースボールマガジン社・2300円)である。八百長事件でガタガタになったチーム、ロッテとの遺恨試合を「演出」した顛末、江川事件など、未曾有の混乱に巻き込まれた一地方球団の姿と、周囲で奮闘するスタッフ陣の姿が印象的である。 その西鉄ライオンズとパ・リーグで覇を争った名球団が、南海ホークスである。『南海ホークスがあったころ 野球ファンとパ・リーグの文化史』(永井良和・橋爪紳也共著・紀伊国屋書店・1890円)は、戦後プロ野球史を、南海ホークスを軸にして分析するユニークな一冊である。従来、セ・リーグ、特に読売巨人軍を中心にプロ野球史は語られてきただけに、パ・リーグを本格的に回顧し評論したこの本は貴重である。大阪の戦後文化史としても読むことが出来る。 ![]() 〈野球好きが語る本〉 野球解説者でも、野球ジャーナリストでもない、在野の人が書いた野球本も結構多い。大上段に構えた野球論ではなく、肩の力を抜いて楽しめる野球読み物をいくつか紹介しよう。 『野球の国』(奥田英朗著・光文社文庫・500円)は直木賞作家による傑作野球紀行エッセイ。春は各チームのキャンプを見に沖縄へ飛び、開幕すると地方開催の試合を観戦するため四国や東北、時に台湾まで足を運び、マスターズリーグを見に九州へ行ったりもする。基本は野球観戦記であるが、道中の出来事を徒然なるままに書いてある部分がまた面白い。皮肉っぽいと言うか、愚痴っぽいと言うか、著者の独特の筆致が笑いを誘う。読むと今すぐ旅に出たくなってしまうこと請け合いである。 日本を代表する現代詩人・平出隆もまた野球狂である。『白球礼讃』(岩波新書・777円)は、そんな彼の野球に対する愛情が一杯につまった随筆だ。「天職野球への道」と題された、自身の所属する草野球チームに関する話が楽しい。「天職野球」とは、「職業野球」であるプロ野球に対抗して考案された概念で、「職業意識をこえる過剰な情熱をつねに抱え、にもかかわらず現実的には『職業』と同様かあるいは下位の形態をとることに甘んじているようなかかわり」のことを言うそうだ。真剣でありながら、どこかユーモアを感じさせる文章である。 平出は、『日本の名随筆・野球』(作品社・1890円)の編者も担当している。子規や漱石などの文豪から、平出の野球仲間であるねじめ正一や稲川方人など現代の作家まで、超豪華な執筆陣が嬉しい。中でも野球馬鹿ぶりが突出しているのは、やはり子規であろうか。「運動となるべき遊技」は、かくれんぼや相撲、競馬に競争と数多くあるが、どれも「愉快の味少」なく、テニスも「いまだ幼稺たるを免れず(中略)壮健活潑の男児をして愉快と呼ばしむるに足らず」、と他のスポーツをさんざんこきおろした後、「愉快とよばしむる者ただ一ッあり ベース、ボールなり」と続ける一節に思わず笑ってしまう。 『おしゃれ野球批評』(DAI‐X出版・1365円)は、そんな『日本の名随筆』現代版、といった趣で、各界の野球好きがこぞって自分の野球観を綴ったコラム集。一見何だかよくわからないタイトルではあるが、「おしゃれ」という言葉には、既存の野球批評にない、独自の視点を持つ「洒落者」たちによる野球批評、といった意味合いが込められているそうだ。執筆者に共通しているのは、野球好きであるというその一点だけで、各コラムのテイストや方向性はまったくばらばら。一般的にはあまり知名度のない執筆者が多く、マニアックな本であることに違いない。が、読む人が読めばお腹がよじれるほど笑ってしまうようなコラムが満載だ。野球馬鹿を自認する人には、是非一読をお勧めする。 ![]() 〈ちょっと変わった野球本〉 野球関連書籍のバラエティには、目を見張るものがある。こここまで紹介してきた本の分類に当てはまらない、意外な野球本を紹介していこう。 『ベースボールの物理学』(ロバート・アデア著・紀伊国屋書店・1631円)は、メジャーリーグのひとつひとつのプレーをナショナルリーグ専属の物理学者が検証したもの。変化球はなぜ曲がるのか? ボールはなぜ飛ぶのか? そんな素朴な疑問を物理学的に解明してくれる。大学の物理学の授業でも使われるような本なので、物理の素養が全くないと読むのに少し骨が折れるかもしれないが、薀蓄好きの人にとっては格好の書だ。 続けて野球科学ものを紹介しよう。『メジャーリーグの数理科学上・下』(J・アルバート、J・ベネット著・シュプリンガーフェアラーク東京・各2835円)は、野球を素材にした統計学の解説書。本塁打数、打点、盗塁数……数ある野球のデータの中から、何をどのように用いれば真実を探り出すことができるのか。統計を誤用したおかしなデータが氾濫する中、これさえ読んでおけばデータに振舞わされないで済むはずだ。野球のデータを楽しみながら、数学的思考法のトレーニングができる、画期的な一冊。 昨今のメジャーリーグブームで、野球英語の本も注目を集めている。『最新MLB情報 ベースボール英和辞典』(佐藤尚孝著・開文社出版・2940円)は、辞書としての機能以外に、メジャーリーグ諸制度の解説もあり、きわめて有用性の高い本である。普通の英和辞典には載っていないような野球用語も、この本を引けば一発でわかる。MLB観戦には欠かせない。また、ボリュームではこれに劣るものの、『決定版!野球の英語小辞典』(黒川省三、ジェイソン・B・オールター著・創元社・1785円)もお勧め。「実況アナウンサーの決まり文句」「スポーツ新聞の読み方」といった章立てが面白い。メジャーリーグ中継を、日本語解説なしで聞く日も遠くないかもしれない。 『野球食』(ベースボール・マガジン社・海老久美子著・2100円)は、強い野球選手を作るための「食」を徹底追究した本。「朝練のある日の朝ごはん」や「試合のある日のお弁当」など、具体的なレシピが載っており、野球以外のスポーツをやっている人も重宝しそう。子供向けの『野球食Jr』(1470円)も出ているので、親子で栄養管理に取り組んでみるのもいいかもしれない。 ![]() 『野球でメシが食えるか?』(ノースランド出版・1470円)と『プロ野球に関わる生き方』(斉藤直隆著・アスペクト・1470円)は、どちらも野球に関わる仕事につきたいという人のための職業ガイドだ。球団職員や、新聞記者、スポーツライター、メーカーなど、野球業界で働く人と、その仕事内容、どうすれば就職できるかを紹介してくれる。ありそうでなかった本である。 最後に、現在の日本を代表する野球選手ふたりを描いた本を紹介して締めくくろう。その道を究めた者の言葉は、心に響く。 今年の2月に刊行して以来、売り切れ店続出のベストセラーとなったのが、メジャーリーガー松井秀喜による『不動心』(新潮新書・714円)である。タイトルからしてストイック。いかにも松井らしい。野球を通して彼が学んだ、生きる姿勢とでも呼ぶべきことが綴られている。 謙虚で誠実な人柄が伝わってきて、パブリックイメージの松井像そのもの、といった印象だ。 3月に刊行されたばかりの、『夢を見ない男松坂大輔』(吉井妙子著・新潮社・1470円)は、レッドソックスに移籍して更なる活躍が期待される、松坂選手を描く。夢をかなえるためではなく、自分の目標を達成するためにメジャーに行く――という松坂の冷静な態度を見ると、日本野球も新たなステージに入ったのでは、と何となく感慨深くなる。 野球はグラウンドで見ても、テレビやラジオで見聞きしても楽しいものである。最近では海の彼方の大リーグまで生中継で見られるなど、ファンにとっては選択肢が増えて、益々心が高鳴ってくる開幕シーズンである。プロ野球観戦をより楽しくするためにも、是非今回ご紹介した本を手にとってみて下さいませ。
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