書標 2006.6月号
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ダ・ヴィンチ・コードの陰謀



  ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著・角川書店・巻各1890円)は、世界中でベストセラーとなったミステリー小説である。最近、文庫本化され(角川文庫・巻各580円)、映画も公開されて、日本でもより多くの人が知るところとなった。本書は、宗教象徴学者である主人公ロバート・ラングドンが、ルーブル美術館館長ジャック・ソニエールのダイイング・メッセージを手がかりに、その孫娘ソフィー・ヌヴーとともに聖杯伝説を追うという物語である。その背景には、キリスト教異端思想にまつわる女神崇拝や秘密結社の謎がちりばめられている。もちろんフィクションなのだが、はっきりそうと断言できない面白さがこの小説にはあり、それが人々の関心を惹くのだろう。陰謀や謎を好む人々はそれをさらに煽り、正統なキリスト教団体はこれに猛烈な反論をしている。両方の立場から多くの関連本、反論本が出版されている。実際に売り場を見てみても、『ダ・ヴィンチ・コード』のある文芸書売り場は当然のことながら、キリスト教書の新刊台までそういった書籍で埋め尽くされている。それだけ世間でも関心が高まっているのだろう。以下ではそういった関連本、反論本を紹介しつつ、『ダ・ヴィンチ・コード』が掘り出した謎に迫っていこう。




ダ・ヴィンチ・コードのネタ

  ダン・ブラウンは『ダ・ヴィンチ・コード』の物語を通して、キリスト教会によって異端であるとされている事柄は、実際はキリスト教会によって隠蔽された紛れもない事実であると主張しているようである。その事実については、ブラウンが最重要視した参考文献である、レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説』(マイケル・ベイジェント、リチャード・リー他著・柏書房・5040円)に書かれている。本書の主張は以下の通りである。イエスが弟子の一人であるマグダラのマリアと結婚し子を生した。イエスの死後南フランスに逃れたマリアによってイエスの血脈が後世に伝えられることとなる。そしてこの血脈を守ったのがテンプル騎士団であり、シオン修道会であった。イエスの血脈はフランスの基礎となる王国、メロヴィング王朝へと継承されたという。レンヌ・ル・シャトーの地にこの伝説が封印されていたのである。最近、著者ベイジェントらが、盗作されたとして著作権侵害でブラウンを訴えたことでも話題になった。なお『ダ・ヴィンチ・コード』の登場人物である聖杯研究家の書棚に本書が並べられていることも見逃せない。

 『ダ・ヴィンチ・コード』において、イエスと結婚したと語られているマグダラのマリアについて掘り下げてみよう。マグダラのマリアは新約聖書の福音書にも登場する女性で、悔悛した娼婦、罪深い女性にして聖女という、様々な面を持っている。『マグダラのマリア』(岡田温司著・中公新書・840円)にも書かれているように、彼女の描かれ方は福音書によって異なる。マグダラのマリアに対するイメージの振れ幅はきわめて大きい。だからこそ、『レンヌ=ル=シャトーの謎』にみられるような、イエスと結婚しその血脈を伝えたという解釈も生まれるのだろう。ブラウンも『ダ・ヴィンチ・コード』において、この解釈を用いて物語を進めていく。

 彼女に関してブラウンが参考にしている文献が他にもある。それが『マグダラとヨハネのミステリー』(リン・ピクネット著・三交社・2100円)であり、『レンヌ=ル=シャトーの謎』と同じく登場人物の書棚に並べられている。本書は『ダ・ヴィンチ・コード』の中で主人公がレオナルド・ダ・ヴィンチ作の「最後の晩餐」に対して行う象徴的な解釈の元となっている。

 『ダ・ヴィンチ・コード』にはマグダラのマリア以外にも様々な謎がちりばめられている。特にダ・ヴィンチの絵画にまつわる謎が、物語の鍵を握る暗号として用いられている。ダ・ヴィンチのみならず、数々の西洋絵画に秘められた異端思想の象徴的な暗号を読み解くのが、『シンボル・コードの秘密』(ティム・ウォレス=マーフィー著・原書房・1890円)である。『ダ・ヴィンチ・コードの謎を解く』(サイモン・コックス著・PHP文庫・680円)は、それらの謎を細かく取り上げている。ここから、各人が興味をもったテーマを掘り下げていくと面白いのではないだろうか。




ダ・ヴィンチ・コードの評価

  『ダ・ヴィンチ・コードの「真実」』(ダン・バースタイン編・竹書房文庫・680円)はブラウンを好意的に評価しながらも、題材の全てが事実に基づいているとしている点には異論を唱えている。また『ダ・ヴィンチ・コード実証学』(マリ・フランス・エトシュゴワン他著・イーストプレス・1575円)では、著者らが『ダ・ヴィンチ・コード』でブラウンが事実だとしている事柄のウラをとるべく詳細な取材を行った。結論としては扱われている素材の中には事実も含まれているとしながらも、物語をよりスリリングにするためにその事実を捻じ曲げて書いているとしている。
 『ダ・ヴィンチ・コード』はブラウンが創作した小説なのだから、重箱の隅をつつくように誤りを正していけばきりがない。ただ彼は、これまで人々の間でささやかれていた、イエス、マグダラのマリア、秘密結社、ダ・ヴィンチの絵画にまつわる謎についての議論を再燃させた。世界中の人々を虜にするミステリーを通して、人々にそれらの事柄について再考するきっかけを与えたことは評価されていいようだ。こうした『ダ・ヴィンチ・コード』についての評価はこの二冊に共通している。
 一方で、反論本も出版されている。邦訳されているものはまだ少ないが、ここで紹介しておこう。「ダ・ヴィンチ・コード」その真実性を問う』(ハンク・ハネグラフ他著・いのちのことば社・1000円)は「イエスとマグダラのマリアの結婚説」に反論する。本書は、『ダ・ヴィンチ・コード』がフィクションであるのにもかかわらず、さも数々の謎が事実であるかのように語られているため、多くの読者がそれらを信じ込んでしまうという点を強く批判している。
 併せて『「反」ダ・ヴィンチ・コード』(ホセ・アントニオ、ウリャテ・ファボ著・早川書房・1365円)も読んでみて欲しい。スペインのカトリック系週刊誌のジャーナリストによるもので、正統な立場からの見解がわかる。正統なキリスト教徒にとっては、自らのアイデンティティを揺るがされるのだから、『ダ・ヴィンチ・コード』に反発するのは当然のことだろう。




秘密結社

 『ダ・ヴィンチ・コード』の中で主人公達より先に、聖杯を手に入れようと暗躍する集団として描かれているのが、「オプス・デイ」というカトリックの組織である。オプス・デイはローマ教皇にも認められているれっきとした組織であり、彼らは物語の中での偏った描かれ方に対して猛烈に反発している。日本でも活動している「オプス・デイ」の精神、組織、生活を解説した入門書が『オプス・デイ―カトリックの新しい動き』(ドミニック・ル・トゥルノー著・白水社文庫クセジュ・999円)である。
 登場人物たちの語りの中にはいくつかの秘密結社が登場する。イエスの血脈を守り続けたとしているシオン修道会やテンプル騎士団がそれである。秘密結社については、『秘密結社の世界史』(海野弘著・平凡社新書・819円)が、わかりやすくまとめられていて読みやすい。本書を参考にテンプル騎士団についてみてみよう。
 十字軍が聖地エルサレムを奪い、ヨーロッパの人々が聖地巡礼に訪れるようになった十二世紀に、彼らの道中の安全を守るためにテンプル騎士団は創設された。その名は、騎士団がソロモン王の神殿を根城にしたことに由来する。彼らは巡礼者の路銀を預かる銀行の役割も果たした。それもあって騎士団は富を蓄え、教皇や国王の支配からも独立した存在となった。それゆえ妬みをかったのか、十四世紀になって騎士団は、仏王フィリップ四世によって異端として根絶やしにされてしまった。そういった騎士団の歴史的価値を強調するのが『テンプル騎士団の謎』(レジーヌ・ペルヌー著・創元社・1575円)である。本書は以下で述べるような陰謀説を否定する。その陰謀説とは、テンプル騎士団が、ソロモン神殿で莫大な財宝、そして聖杯を手に入れたというものである。フィリップ四世は騎士団を滅ぼすも、彼らの財宝を手に入れることができなかったという。彼らが手にしていた財宝とはなんだったのか、そして聖杯はどこへ。これが数々の陰謀説、秘密結社の源泉になっていく。
 このテンプル騎士団および陰謀史観を題材にした小説に、ウンベルト・エーコの『フーコーの振り子』(文春文庫・下巻各860円)がある。物語は、1970年代から80年代のミラノを舞台に、出版社に持ち込まれたテンプル騎士団の秘密の計画についての原稿が発端となり進んでゆく。その原稿にかかわった人間が失踪し、行き着く先はパリ、国立工芸院、「フーコーの振り子」のある博物館である。
 テンプル騎士団から派生する秘密結社の系譜上に薔薇十字団がある。薔薇十字団はクリスチャン・ローゼンクロイツを祖とする結社で、錬金術や魔術などの古代の英知によって世界を救うという。十七世紀初頭のドイツで刊行された二つのパンフレットと『化学の結婚』という小説によって知られるようになった。ただの都市伝説で薔薇十字団は存在しないという説もあり、その実体は謎に満ちている。この結社の真相を解明するのが、『薔薇十字団』(クリストファー・マッキントッシュ著・ちくま学芸文庫・1470円)である。また『薔薇十字の覚醒―隠されたヨーロッパ精神史』(フランセス・A・イエイツ著・工作舎・3990円)も、やや難解だが薔薇十字団についての詳細な研究書であり、ヨーロッパ精神史の裏側を暴く。
 そして現代に生きる秘密結社がフリーメーソンである。『ダ・ヴィンチ・コード』の続編でありラングドン・シリーズの第三作となる作品が、アメリカで早ければ今秋にも発売されるという。そのタイトルは『The Solomon Key』。『ソロモンの鍵』とでも訳せるだろうか。『「ダ・ヴィンチ・コード」イン・アメリカ 「ソロモンの鍵」解読ガイド』(グレグ・テイラー著・白夜書房・1680円)によれば、アメリカ合衆国建国とこのフリーメーソンの関わりがテーマのようである。ジョージ・ワシントン、ベンジャミン・フランクリンら建国の祖がフリーメーソンだったことは有名であり、一ドル紙幣にフリーメーソンの象徴「全能の目」が描かれていることも謎を深めている。現代の秘密結社といわれるフリーメーソンについてまず知っておきたければ、『フリーメイソン 西欧神秘主義の変容』(吉村正和著・講談社現代新書・七三五円)を読んでみて欲しい。
 より陰謀めいたものが読みたい方には『石の扉―フリーメーソンで読み解く世界』(加治将一著・新潮文庫・620円)がお薦めだ。いくら『ダ・ヴィンチ・コード』の続編でも、フリーメーソンとアメリカ建国の話では興味がわかないという人には『あやつられた龍馬』(加治将一著・祥伝社・1995円)を読んでほしい。もし、明治維新期の英雄のイメージがある坂本龍馬の黒幕がフリーメーソンだったとしたら、ワクワクしてこないだろうか。ブラウンの次回作に期待したい。





異端思想と福音書

 そもそも異端とは何なのだろうか。『異端事典』(チャス・S・クリフトン著・三公社・6090円)では、冒頭部分でわかりやすく異端が定義され、その歴史が説明されている。その上で正統な教会によって「異端」「危険」視された教義、運動、団体、人物などが解説されている。
 新約聖書には4つの正統な福音書、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの福音書が収められている。福音書とはイエスの死後、人々の間で語られていた彼にまつわる物語である。これら四つの福音書については『福音書=四つの物語』(加藤隆著・講談社選書メチエ・1680円)が詳しい。
 正統な福音書の他にも、それらとは異質な福音書が多数存在し、教会によって異端として消されてきた歴史があるという。20世紀中頃、2つの古文書がイスラエル死海沿岸とエジプトで発見された。それぞれ死海文書とナグ・ハマディ文書と呼ばれているものである。これらの古文書にはキリスト教成立に関わる謎を解く鍵が隠されていると期待されたが、なかなか解読が進まないことから様々な憶測が飛び、陰謀史観の温床となったようである。その代表格が『レンヌ=ル=シャトーの謎』と同じくベンジェントらによる『死海文書の謎 新装版』(柏書房・4893円)であろう。
このうち後者のナグ・ハマディ文書が異端とされた福音書の一つである。ナグ・ハマディ文書を日本に紹介したと言えるのが『ナグ・ハマディ写本 新装版』(エレーヌ・ペイゲルス著・白水社・3360円)である。同文書は異端としてその存在を消されていたグノーシス主義者たちが残したものとされている。この古文書にはいくつかの福音書が含まれているが、なかでもトマス福音書の研究をふまえ、グノーシス思想の実像に迫っているのが『禁じられた福音書 ナグ・ハマディ文書の解明』(エレーヌ・ペイゲルス著・青土社・2520円)である。ナグ・ハマディ文書には、正統な福音書とは異なり、マグダラのマリアがイエスと親密な関係であったことが書かれており、それが「イエスとマグダラのマリア結婚説」の出処となっている。なお、グノーシス主義とは、2、3世紀に興隆した神秘思想で、教会によって異端とされた。これに関しては『グノーシス 古代キリスト教の〈異端思想〉』(筒井賢治著・講談社選書メチエ・1575円)が詳しい。
 その他にも古文書の発見が相次いでいる。1970年代に発見されアメリカの銀行の金庫に眠っていた古文書が、最近復元、解読され、そこには驚愕の言葉が書かれていた。その古文書のタイトルが「ユダの福音書」だったのである。『ユダの福音書を追え』(ハーバート・クロスニー著・日経ナショナルジオグラフィック社・1995円)は、「ユダの福音書」が復元、解読されるまでのドキュメンタリーである。ユダがこれまで言われてきたような裏切り者ならば、福音書などないはずである。はたしてユダは裏切り者ではなかったのだろうか? 「ユダの福音書」自体の全訳・解説本も近々刊行される予定である。福音書を題材にしたミステリーに、『イエスの古文書』(アーヴィング・ウォーレス著・扶桑社海外文庫・巻各860円)がある。

ダ・ヴィンチの暗号

  『ダ・ヴィンチ・コード』の冒頭でソニエールが残したダイイング・メッセージはダ・ヴィンチの絵画にまつわるものだった。『図解 ダ・ヴィンチの暗号』(田辺清編・宝島社・1500円)はダ・ヴィンチの絵に隠された暗号について解説してくれる。映画を見る上でも役に立つだろう。その一方で『モナ・リザの罠』(西岡文彦著・講談社現代新書・882円)は、美術の専門家らしい視点からブラウンの誤りを正してくれる。例えば、ダ・ヴィンチがMona Lisaという名前にアナグラムで暗号を隠したとしているが、Mona Lisaは英語であり、イタリア人のダ・ヴィンチがそこに暗号を隠すはずがないという指摘である。本書は、モナ・リザだけでなく西洋絵画全般への見方を平易に解説してくれ、素人が抱きがちな疑問に答えてくれる。 モナ・リザと数学 ダ・ヴィンチの芸術と科学』(ビューレント・アータレイ著・化学同人・2310円)では、人間の創造する芸術には数学的な要素が隠されているという。『ダ・ヴィンチ・コード』にも暗号として登場するフィボナッチ数列や黄金比といった自然界にも隠されている美の法則に迫る。この美の法則に関しては、『黄金比とフィボナッチ数』(R・A・ダンラップ著・日本評論社・1995円)が詳しい。
 ダ・ヴィンチの生涯を描く歴史ミステリーに『レオナルドのユダ』(服部まゆみ著・角川文庫・820円)がある。彼の遺したモナ・リザの謎に迫る作品である。


おもしろ歴史ミステリー

  『ダ・ヴィンチ・コード』を読まれた方にはブラウンの他の作品もぜひ読んで欲しい。
 『パズル・パレス』(角川書店・巻各1890円)、『デセプション・ポイント』(角川書店・巻各1890円)この2作は、国家の安全保障をテーマにした暗号ミステリーであり毛色の違う作品だが、そのスリリングな展開は『ダ・ヴィンチ・コード』と同様、物語に引き込まれ、時間を忘れて読みふけってしまうだろう。ブラウンへの取材を元に『ダ・ヴィンチ・コード』誕生までの裏話を知ることができるのが、『「ダ・ヴィンチ・コード」誕生の謎』(ライザ・ロガック著・角川書店・1470円)である。売れない作家ブラウンが、大ベストセラー作家になるまでの苦悩が描かれている。
 『ダ・ヴィンチ・コード』の中でラングドンがしばしば思い出す「ローマでの出来事」が描かれているのが、『天使と悪魔』(角川書店・巻各1890円)である。宗教象徴学者ラングドンは、スイスの科学研究所ケルンから、殺された男に印されていた紋章についての調査依頼を受ける。その紋章は17世紀にガリレオが創設したという科学者たちの秘密結社「イルミナティ」のものだった。そして殺された男が生成していた核の数十倍の破壊力を持つ「反物質」が、殺人者によって教皇選挙真っ最中のヴァチカンに持ち込まれてしまう。そこからラングドンの追跡劇が始まる。『ダ・ヴィンチ・コードの「真実」』と同じ著者による『天使と悪魔』の解説本、『天使と悪魔の「真実」』(ダン・バースタイン編・竹書房・1680円)も併せて読んでみると良い。
 『天使と悪魔』は教皇選挙当日のヴァチカンが舞台だが、この選挙が「コンクラーベ」と呼ばれている。教皇の死後、カトリック教会の枢機卿達がシスティーナ礼拝堂内に缶詰にされ、全会一致で新しい教皇を選出するまで終わらない選挙システムである。現在ではさすがに缶詰にされることはなくなったようだが、まさに「根競べ」な選挙システムだったのだ。このコンクラーベについてより詳しいことが知りたくなったら、『コンクラーベの謎 ヴァチカンの権威に挑む』(小河原通著・けやき出版・1890円)がある。
 その他にも歴史的な事柄をテーマにするミステリー、過去を舞台にするミステリーに面白い作品がたくさんある。最後にそれらを紹介しよう。
 荒俣宏が『レンヌ=ル=シャトーの謎』にインスピレーションを受けて書いた作品が、『レックス・ムンディ』(集英社文庫・880円)である。主人公が謎の宗教団体の依頼を受け、レンヌ=ル=シャトーに眠る遺物を発掘に向かい、『ダ・ヴィンチ・コード』と同様にマグダラのマリアやテンプル騎士団にまつわる謎とタブーに挑む物語。かなりオカルト的な要素の強い作品だが、お薦めである。本書にも登場する聖骸布にまつわるミステリーが『聖骸布の仔』(中央公論新社・2310円)である。2026年、アメリカ政府はイエスのクローン計画を再始動し、聖骸布の血痕から創られたという若者を発見する。そこには様々な陰謀が渦巻き、やがて予期せぬ結末をむかえる。同様のテーマのミステリーを挙げると、『聖骸布血盟』(フリア・ナバロ著・ランダムハウス講談社文庫・上下巻各798円)、『イエスの遺伝子』(マイクル・コーディ著・徳間文庫・上巻620円、下巻500円)などがある。
 1980年代に出版され、今再び脚光を浴びているミステリーが『ダ・ヴィンチ・レガシー』(ルイス・パーデュー著・集英社文庫・820円)である。ダ・ヴィンチ研究家の主人公が、ダ・ヴィンチの手稿を手に入れるも、一部がすりかえられていることに気付く。「手稿=遺産」を追う先々で殺人事件が起こり、その背後には秘密結社の陰謀が見え隠れする。消えたページにはいったいどのような秘密が書かれていたのだろうか。
 『フーコーの振り子』以前にエーコが書いた歴史ミステリーに『薔薇の名前』(東京創元社・巻各2415円)がある。14世紀北イタリアのカトリック修道院を舞台に起きる怪事件の謎を、フランシスコ会修道士バスカヴィルのウィリアムと若きベネディクト会修道士メルクのアドソが解き明かしていく。物語の背景には当時の神学論争や異端審問があり、読むにはキリスト教神学の知識が求められるが、読み応えは充分だ。
 『ダンテ・クラブ』(マシュー・パール著・新潮社・2520円)はブラウンも絶賛したミステリー。19世紀後半南北戦争後のボストンとケンブリッジを舞台にダンテの「地獄編」の劫罰を模した猟奇殺人事件が続発する。そのメッセージに気付いたダンテ・クラブのメンバーが犯人を追う物語。
 『ヒストリアン』(エリザベス・コストヴァ著・日本放送出版協会・TU巻各1785円)は、歴史学者の主人公が竜の挿絵がひとつある以外は何も印刷されていない奇妙な本に導かれてドラキュラ伝説を追う物語である。彼の指導教官もかつてその伝説を追い失踪し、自らも失踪する。それを追うのが主人公の娘であり、3つの時代にまたがる物語が展開される。その舞台はイスタンブールからブダペスト、ブルガリア、ルーマニアへと次々と移り、読者は主人公の旅を追体験でき、今にも旅立ちたくなる。本書と同様に1冊の本から始まる物語が『コーデックス』(レヴ・グロスマン著・ソニー・マガジンズ・2100円)である。休暇中に公爵家の蔵書を整理することになった銀行員エドワードは、その中に「キムメリア人の国への航海」という幻の古写本(コーデックス)があることを知る。そこにはどのような謎が秘められているのか、どのような価値があるのか。彼はその謎解きに挑む。
 ミステリー好きの間で評判が高いのが、『時の娘』(ジェセフィン・テイ著・ハヤカワミステリ文庫・630円)である。中世イングランドのばら戦争のころ、王位を簒奪するために王子を殺したとして悪名高いリチャード3世は、本当に残虐非道な人物だったのだろうか。入院中で退屈なグラント警部が、ある肖像画を見たことからリチャード3世の人物像に疑問を抱き、その素顔を推理し始める。

 たとえそれが虚構だとしても、小説を通して歴史に秘められた謎に迫ることは、「歴史」の面白さのひとつだろう。