書標 2006.2月号
今月の表紙 歳時記〈2月〉 著書を語る 特集「恋愛」 書標・書評
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恋愛



 今年もまた、愛の季節がやってきた。今回の特集は、ずばり「恋愛」だ。
 古今東西、様々な人間が愛について、頭を悩ませてきた。誰にも身近で、誰にも答えの出せない、深い問題として恋愛はある。恋愛に関する本は、ピンからキリまで、膨大に出版されている。
 人気の比較文学者・文芸評論家である、小谷野敦は、『恋愛の昭和史』(文藝春秋・1890円)で、数多くの文学作品を例に挙げながら、恋愛の歴史を解き明かしていく。近代日本に入ってきた恋愛観として、「結婚は恋愛のうえになされなければいけない」と、「恋愛は誰にでもできる」という考え方を挙げ、その二つを克服できなければ、恋愛の脱近代化は訪れないと説く。その博覧強記ぶりはすさまじく、一冊読めば、恋愛についていっぱしのことを語れるようになるかもしれない。
恋愛の近代文学』(渥美孝子ほか編・双文社出版・2415円)は、小説に見られる恋愛観変遷の概論が前半にあり、後半はその出典作品の抜粋が載せられている。個々の文章を追いながら、全体の流れを確認できるので、手頃なガイドとなっている。
「恋愛は論じるものではなく、するものだ」という言葉がある。その通りである。現実での実践は各人にまかせるとして、ここでは文学上の実践、つまりは恋愛小説を中心に紹介していく。まず読んでおきたい恋愛論を紹介し、あとは、文学史上その時代をよく表した恋愛小説を、順を追って見ていきたい。恋愛論や小説を読むことで、その時代の恋愛観やそれを形作った社会の様相を、感じ取れればと思う。
 なお紹介する作品は、前述の二作を参考に、時代を読み取れるという視点から選んだものである。

■恋愛論

 恋愛論なるものは膨大に出版されている。書店の棚の前でそのあまりの点数に、どれを選んでいいのかわからなくなってしまう人も多いのではないか。
恋愛論アンソロジー』(小谷野敦編・中公文庫・940円)は、ソクラテスから井上章一までと副題にあるとおり、多様な恋愛論をまとめてあるので、読みやすくお勧めだ。独特の切り口での解説が、面白い。小谷野敦のルーツである文章の数々に触れてみて、自分なりの恋愛論を組み立ててみるのもよいだろう。
もてない男』(ちくま新書・714円)『帰ってきたもてない男』(ちくま新書・735円)は、これまであまり恋愛論議に上らなかった、もてるもてないの問題を扱っている。自分は東大卒なのにもてなかったと、恨みが書き綴ってあり、小谷野敦ほどの人物も、恋愛のことになると我を忘れてしまうのが興味深い。結婚・離婚を経て、著者の主張にも変化が見られ、理論と実践は違うと実感させてくれる2冊でもある。
 フェミニズムやジェンダー論も絡んでくるが、『女という快楽』(上野千鶴子・勁草書房・2520円)は外せない。吉本隆明が『共同幻想論』(角川文庫・567円)で示した、共同幻想と自己幻想、そして対幻想という三つの視点から、上野千鶴子が恋愛を解き明かす。国家や社会に抱く共同幻想と、自我を形作る自己幻想は重なりやすいが、自我を解体し再編する恋愛という対幻想は、それらに相反する。政治と性は、両立しない。互いに補完しあう対幻想が成立すると、相手なしではアイデンティティを維持できない。この部分は、何度読んでもはっとさせられる。女性だけでなく、男性にも読んでほしい一冊だ。
電波男』(本田透著・三才ブックス・1500円)は、オタクによるオタク恋愛論として、興味深い。女性から無視され、迫害されつづけた、オタク男の悲しさをノリのよい文章で綴る。現代を恋愛資本主義だと批判し、現実の女よりも二次元の萌えキャラクターを愛するのが、これからの恋愛だと主張していく論理は、飛躍しているが痛快でもある。同著者で、より論理的に脳内恋愛のすすめを書いた、『萌える男』(ちくま新書・735円)もあり、今後さらに拡大するであろうオタクムーブメントとともに、注目の本である。恋愛の未来像を考えるには、読んでおきたい。

■時代を読む 明治

 次に時代を追って恋愛小説を紹介していきたい。まずは明治。西洋文化が入ってきたことで、社会が大きく変貌を遂げた。だが依然として、結婚は家同士がするもので、恋愛とは別とする価値観が残っており、すれちがいに悩む主人公が登場する。
 言文一致の見本とされる二葉亭四迷の『浮雲』(岩波文庫・630円)は、明治20年に書かれた。主人公内海文三は下宿先の娘お勢に恋心をよせる。英語を習うようなハイカラな娘であるお勢は、しかし、文三が役所を免職になると途端に冷たくなり、文三の同僚であり出世頭の本田に惹かれていく。
 ベルリンの描写がモダンな雰囲気を与える『阿部一族,舞姫』(森鴎外著・新潮文庫・420円)の「舞姫」は、豊太郎とエリスの恋とその破局の物語だ。エリスに出会い、真の自分を生き始めた豊太郎は、しかし帰国して立身出世の道に戻る。自由な自我の目覚めと、周囲の圧力による挫折を描いた、名作である。
 五千円札の顔に選ばれた樋口一葉『にごりえ,たけくらべ』(岩波文庫・420円)収録の「たけくらべ」は、花柳界に生きることを運命付けられた少女美登利の、淡い初恋を描く。相手は寺の息子の信如だ。互いに惹かれあいながらも、決して結ばれることのない二人。
 尾崎紅葉『金色夜叉』(新潮文庫・740円)は、自分を捨てて金持ちと結婚してしまった宮への復讐に、冷酷な高利貸しとなってしまった寛一を描く。映画や演劇でもくり返し演じられた、明治期最大のベストセラーだ。
 文学そのものも変化した時代で、恋愛の本質に迫ろうとする、作家の様々な取り組みが、作品に表れてくる。次はそんな小説を紹介したい。
 若くて美しい女性弟子に思いを寄せる中年男性作家の姿を赤裸々に表現し、私小説の源流となった表題作を含む、『蒲団,一兵卒』(田山花袋著・岩波文庫・399円)は、告白という小説の方法や、会話に現れる日露戦争後の社会的動向など、様々な読み方がなされてきた。芳子の去ってしまった後、残された蒲団を抱きしめて、彼女の香りに包まれながら、主人公が悲嘆にくれるラストは、あまりに有名である。
それから』(夏目漱石著・新潮文庫・420円)は、親友・平岡に自身の想い人を譲った代助が、三年後、その結婚は間違いだったと、友を裏切ってでも想いを完遂することを決意する。代助と平岡、三千代の三角関係を通して、当時の社会や、人はいかに生きるべきかといった問題が描かれる、漱石の代表作だ。
 日本人に「初恋とは?」と問うと五人に一人は島崎藤村の詩を挙げるであろう。
「まだあげ初めし前髪の」から始まる瑞々しいリンゴ畑の光景は、初恋のイメージとして根強い。美しい一遍の言葉が、その人の恋愛観を決定付けてしまうことも、あるかもしれない。『詩人の愛 百年の恋、五十人の詩』(河出書房新社・1575円)には、「初恋」以外にも様々な愛の詩が収録されており、叙情豊かな恋愛の姿を読むことができる。

■時代を読む 大正・昭和初期

 前時代に比べると、恋愛が次第に自由になっていくのが、読み取れる。
 近代抒情詩の最高峰と評される室生犀星の書いた恋愛小説、「性に目覚める頃」は、『或る少女の死まで』(岩波文庫・630円)に収録されている。タイトルどおり、17歳の少年の性の目覚めを描く。詩人である彼の特性は、故郷金沢の自然の描写に生き、その美しい文章は青春の儚さをも連想させる。『愛の詩集』(角川文庫・567円)と併せて、犀星の愛の世界を読んでみよう。
 そしていよいよ、谷崎潤一郎の登場である。彼を抜いて、日本の恋愛小説は語れない。文学史上に、数多くの名作を残した大家である。
「恋愛および色情」を含む『陰翳礼讃』(中公文庫・500円)では、そんな谷崎の恋愛観を読むことができる。平安朝の文学から、西洋の騎士道から、日本の伝統美から、恋愛の名手が自由に恋愛を語る随筆集。
痴人の愛』(新潮文庫・660円)は、28歳の技師譲治が、カフェで出会った15歳のナオミをひきとり、教育する話である。魔性の女ぶりを発揮し始めるナオミに振り回されつつも、離れられない譲治はやがて、その境遇に喜びを見出していく。「ナオミズム」という言葉まで作られ、当時の最先端の風俗を描いたとされる。
猫と庄造と二人のおんな』(新潮文庫・340円)は、猫のリリーを偏愛する庄造と、猫に嫉妬し争う、二人の女が出てくる異色作。谷崎作品につきものの妖艶な女性の代わりにリリーが設定されているのだが、崇拝の対象が猫であるが所以の、意味深いラストになっている。タイトルの順番が立場を表すと言われており、そこもまた意味深長である。
 近年、テレビドラマ化された『真珠夫人』(菊池寛著・文春文庫・600円)は、父の無念を晴らすため、30歳年上の成金に嫁ぎ未亡人となった瑠璃子が、男性社会に復讐するかのように男たちを手玉に取る姿が、大ヒットした。菊池は新聞上に、女性向け通俗小説を次々と連載した書き手である。教育が進み、恋愛小説に女性読者という存在が、台頭してきた時代とも読める。明治末から大正にかけての当時の風俗が、色濃く表れている一冊になっている。
 近代女性の恋愛と結婚、その破綻までを描いたものに、宮本百合子の『伸子 上』(岩波文庫・上巻588円・下巻693円)がある。女性側から性を書いた作品になっている。


■時代を読む 昭和戦後

 戦争を挟んで、社会が大きく変わった。その動きは、恋愛小説にどのように影響を及ぼしているのか。
 石原裕次郎らが主演する日活映画の原作者として名を馳せた、石坂洋次郎の『青い山脈』(新潮文庫・580円)は戦前の封建的な社会が、戦後の民主化によって解放される様を今に伝える。一緒に道を歩いただけで罪人扱いされる女子学校特有の倫理観は、誇張しすぎるとの批判もあるが、今日のドラマやコミックにおける、青春もの・学園ものの基礎となった作品である。
 また敗戦によって、姦通罪が廃止されたことを受け、姦通小説が書かれ始める。
武蔵野夫人』(大岡昇平著・新潮文庫・420円)では、武蔵野の地に住む一族の不倫騒動が、ヒロインの道子のまわりでくり広げられる。ドロドロした人間関係を断ち切るかのような、ラストの道子の自殺によって、家の終焉が暗示される。土地の因習と、そこからの解放を主題とした名作だ。
「武蔵野夫人」と並んで、当時のベストセラーとなったのは、三島由紀夫の『美徳のよろめき』(新潮文庫・380円)である。中産階級の貞淑な人妻が、姦通を行う点が受け、「よろめき」は流行語にもなった。純文学・通俗小説・戯曲・批評と、多彩な分野で活躍した三島の『新恋愛講座』(ちくま文庫・693円)は、恋愛をギリシャ、キリスト教、日本と三つにわけて考察し、面白い内容になっている。恋愛の技巧の章では、セリフ入りで場面が紹介されており、こんな歯の浮くようなセリフを、一体どこで使うのかよくわからないが、戯曲だと思って読めば、大変に楽しめる。
 放蕩にふける文豪のイメージを作り上げた吉行淳之介の小説には、娼婦がよく登場する。『原色の街,驟雨』(新潮文庫・460円)表題作の「原色の街」は、どぎつい色の氾濫した娼婦の街での、男女関係を描く。もとは中産階級の娘だったあけみは、空襲によって境遇が一変し、金で身を売るようになった。だが街に馴染んでいくにつれ、男を自分に快楽を与える道具にすぎないと思うようになる。
 檀一雄の放蕩ぶりは、『火宅の人 上』(新潮文庫・各660円)に詳しく、酒と旅に明け暮れ、公然と不倫を楽しむ姿は、豪快としか言いようがない。実名で登場する人物も多い。頽廃的なその思想は、常に自由であろうとすることであり、生きるとは何かと問い続けることなのだと感じる。『』(沢木耕太郎著・新潮文庫・500円)は、そんな作家を、陰で支え続けた妻からの視点で書かれた。一年余にわたって続けられた綿密な取材から、30年間作家の妻として生きた女の、愛と痛みが浮かび上がる。
 金はなくても、家族がいても、女と遊ぶことは、創作に必要だと信じられる風潮があった。
 反面、「火宅の人」と同時期に書かれた『死の棘』(島尾敏雄著・新潮文庫・820円)には、夫の浮気に精神を病んだ妻とのやりとりが克明に描かれ、その壮絶さで読者を震撼させた。浮気はするものではないと、恐れをなした人も多いのではないか。
 小説のもととなった『死の棘日記』(新潮社・2310円)が、著者の没後十八年を経て、昨年三月に発行され、話題を呼んだ。実際に著者の経験した地獄はさらに凄惨で、妻に誠実であろうとする夫の、心の痛みが伝わってくる。夫婦の愛のあり方や、人間心理の奥底について考えさせられる作品だ。
 他に、女性が精神を病むもので、古井由吉の『杳子,妻隠』(新潮文庫・460円)がある。主人公と深い谷底で出会った杳子は、奇妙な偏執癖や方向失調に悩む。恋人から庇護者であろうとする主人公は、やがて、そのどちらの立場も杳子を傷つけてしまうことを悟る。若い学生同士の恋愛を通して、人間の抱える孤独や不安を描く。
 この流れを汲み、自由恋愛の不自由を描いて、平成の恋愛小説の走りとなった『ノルウェイの森 上』(村上春樹著・講談社文庫・各540円)は、僕と直子、そして緑の重ならない恋愛について書かれている。直子は、その無垢さゆえに精神のバランスを崩し、自ら死を選ぶ。それにショックを受け混乱する僕は、やがて緑への想いを通して再び外の世界とつながろうとする。今も恋愛小説の定番として、不動の人気を誇る作品だ。

■時代を読む 平成

 時代の様相を反映してか、多様な恋愛が小説に登場するようになった。
きらきらひかる』(江國香織著・新潮文庫・420円)はアルコール中毒で情緒不安定に苦しむ笑子と、同性愛者である睦月の結婚生活が描かれる。睦月の恋人である紺も含めた三角関係の中で、恋なのかどうかわからない、奇妙な愛情が育まれていく。お互いを思いやるがゆえに傷つけてしまう繊細な関係性を、透明感があると定評の文章で表現していく。
 男女両方の側からひとつの恋を描いて話題となった『冷静と情熱のあいだ RossoBlu』(江國香織、辻仁成著・角川文庫・各480円)も、恋愛小説の表現の試みとして、紹介しておきたい。
親指Pの修業時代 上』(松浦理英子著・河出文庫・上巻591円・下巻578円)では、主人公の女性・真野一実の右足親指がある日突然、ペニスに変化してしまう。一実のペニスを忌み嫌う恋人との別れや、新しい出会い。そして奇形を見世物にする一座のメンバーとなった一実は、その修行の中で様々な愛の形を模索していく。読み進むうちに、通常の恋愛の枠組みが覆されてしまう作品だ。著者は『ナチュラル・ウーマン』(河出文庫・509円)でも、異性より同性との恋愛を求める女たちを描いた。
 不倫ブームの火付け役ともなった、渡辺淳一の『失楽園 上』(角川文庫・各580円)は、50代半ばの祥一郎と、38歳の凛子の、熱病のような恋愛が話題となった。互いの世界に没頭するあまり、静かに追い詰められていく2人は、最後は青酸カリ入りのワインを煽って心中してしまう。年配者向けのデートガイドブックとしても使える。
センセイの鞄』(川上弘美著・文春文庫・560円)は、十数年ぶりに再開した高校時代のセンセイと、ツキコさんのしっとりとした恋物語だ。不倫でもなく、教師生徒の関係でもなく、川上弘美ワールドとしか表現できない、独特の世界が広がる。
 携帯で配信され、渋谷の女子高生が夢中になった『Deep Love』(YOSHI著・スターツ出版・1000円)は、援助交際や薬物依存など、荒廃した社会の中で生きる少女たちが描かれる。扱うテーマがセンセーショナルなこともあり評価は分かれるが、時代を表すという点で、注目の作品。   
 その対極とも言える、純愛ブームはまだ記憶に新しい。「セカチュー」こと『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一著・小学館・1470円)は、中学から高校にかけてのアキと朔太郎の短い恋の物語だ。『いま、会いにゆきます』(市川拓司著・小学館・1575円)とともに、映画化され多くのファンを泣かせた。純愛は、中学生という若さや、相手の死などの別れがなければ、できないのかもしれないと感じる。現実感はないが、夢のような気分を味わわせてくれる。そんな純愛が流行る裏に、どんな時代の意味があるのか。
 2001年にデビューし、注目を浴びている舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる。』(講談社・1575円)は、いきなり「愛は祈りだ」と語りかけてくる。恋人が不治の病という設定で、並列して進んでいく互いにリンクしあう短編が、濃密な世界を作り上げていく。ストーリーというよりは、作者のメッセージを読み取る恋愛小説だ。家族愛も含め、愛とは何かを突き詰めていく『みんな元気。』(新潮社・1470円)もお勧め。独特な文体も魅力だが、主題に直球でぶつかっていく潔さが、今後も期待の作家だ。

■2005年を読む

 『この恋愛小説がすごい! 2006年版』(宝島社・730円)が出版されるように、恋愛小説というジャンルが、近年注目を集めている。さて、2005年はどういう恋愛小説が読まれたのか。
ナラタージュ』(島本理生著・角川書店・1470円)は、野間文芸新人賞を最年少で受賞した作者の描く切ない恋が、多くの読者の共感を呼んだ。「本の雑誌」の選ぶ、上半期ベストにも選ばれており、今年一番の恋愛小説と言ってもよいのではないだろうか。
 表紙に散りばめられた、キャラメルのような味わいの『風味絶佳』(文藝春秋・1260円)は、デビュー20周年の人気女性作家・山田詠美の短編集で、これまでとは一味違った大人の恋に出会える。肉体労働に従事する男性の恋愛が描かれ、まさにほろ苦く甘い。
I LOVE YOU』(伊坂幸太郎、石田衣良ほか著・祥伝社・1680円)は、人気男性作家6人による、恋愛アンソロジー。豪華な顔ぶれによる、濃密な短編は恋愛小説ファンにはたまらない。これまで読んだことがない作家に出会えるのも、アンソロジーのよいところだ。
 山崎ナオコーラの『人のセックスを笑うな』(河出書房新社・1050円)は、そのペンネームとタイトルの奇抜さが目をひいた。19歳の男子学生と、39歳の美術教師の恋愛を描いた作品だが、年齢差や不倫という立場を感じさせない、不思議と透明感のある物語である。
 全体として、派手ではないが、味わい深く、独特の世界観を大切にしたものが、よく読まれた印象がある。
 そして去年、映画化・ドラマ化と話題に事欠かなかったのが、『電車男』(中野独人著・新潮社・1365円)だ。恋愛小説と括ってしまうことは難しい本だが、相手にどう接していいかわからず、電話をかける前にためらう姿など、忘れかけていた新鮮な気持ちを思い出させてくれる。インターネットが発達し、希薄になっていく人間関係が問題になる中、ネット世界の住人たちの熱い励ましや助言が、心温まる一冊である。
 小説ではないが、もしかしたらそれ以上に影響力のある漫画界でも、恋愛は主要なテーマだ。『NANA』(矢沢あい著・集英社・14巻まで刊行・各410円)は、映画化・CD発売とこれまた、話題のコミックである。連載はまだ途中であるが、不穏な未来を予感させる語り口調に、二人の少女「奈々」と「ナナ」を取り巻く恋愛物語から、目が離せない。精神科医である香山リカが、二人の恋愛問題を読み解く『NANA 恋愛勝利学』(集英社インターナショナル・1000円)もあり、ぜひ併せて読んでほしい。恋に不器用な2人を分析して、「恋愛も大切、でも恋愛以外のことも大切」と、香山先生からのアドバイスだ。
「恋愛するより、家で寝ていたい」と恋愛を放棄した「干物女」という新しいキャラクターを生み出した『ホタルノヒカリ』(ひうらさとる著・講談社・4巻まで刊行・各410円)は、女を捨てた27歳のOLに、突然年下の彼ができるというストーリーの漫画。同居している部長との関係も見逃せない。主人公蛍に、共感する女性も多いだろう。20代OLの心理や気持ちを、うまく表した作品である。
 社会問題になりつつある、引きこもりを扱い、そのタイトルもずばり『ニート』(絲山秋子著・角川書店・1260円)は、女性作家とニートの青年の関係を描く表題作を含めた、5編の短編集。恋愛にも仕事にも、生きることにさえも熱意を見せないが据え膳は食うという、まさに現代の若者が登場する。女性と男性の、立場や関係性も、変化してきていることを感じさせる。
 全てに疲れた三十歳、一目ぼれした男を追いかけて、土建会社に飛び込む、人生あとがない梨央の恋は『くうねるところすむところ』(平安寿子著・文藝春秋・1750円)で読める。いわゆる負け犬女の、パワフルな恋愛と仕事ぶりが、読者に勇気を与えたようだ。

 取りこぼしも多々あると思うが、紙面の関係上、これで紹介を終わりとする。
 恋愛観は個人によって異なるが、時代の大きな影響も、また受けやすい。それを読み解く、鍵になればと思う。