―さて、長い時間伺ってきたインタビューもそろそろ終わりの時間です。
これからの柿内さんが目指すもの、こだわることを教えてください。
柿内:今までの本作りの過程で、僕なりに理解したことがあります。それは、若い人に受け入れられるように作ると、年配の方も買ってくれるという事。
若い人は「本を買う」行為に高いメリットを求めます。
逆に、年配の人には読書がカルチャーとして根付いているから、自然に本を買うし、本が好き。だから、かっちりとしたものしか読みたくないんだ、と思い込んでいたのですがそんなことは無かった。難しい本を手に取って、理解できていないけれども読んだつもりになっている人が多いことが分かってきました。
だから、若い人に向けの易しい本も、それが話題になってくると顔をしかめながらも近づいてきて、手に取ってくれるんです。多分、「近頃のテレビ番組は全然面白くない」と小言を言いながらも、実は文句を言えるほどに見ている、という心理と似ているかもしれませんね。
僕自身も本が好きだから、より多くの人の手に届けたい。そのために、どこに訴求しようかというと、「読む事が嫌いではないが、別に読まない」層です。
すでに本が好きな人のためではなくて、もっと裾野を広げることを目指したい。僕の手がけた本を読むことによって、読書って「悪くない」そして、「もっと読みたい」という人を増やしていければ、全体の循環を良くできる。
だから、過剰な分かりやすさを心掛けています。言葉の選び方や、どの漢字をひらがなにするかなどは徹底して考え抜きます。例えば『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』は、ページのどこを開いても小見出しがあるか、太字になっている部分があることを計算しながら作りました。
そうすると、読者が本屋で軽く立ち読みをするときも、どのページを開いたとしてもカギとなる言葉が目にひっかかります。
行間を開けたり文字数を減らしたり、読みやすい本にすることを「軽い」「薄い」とするカルチャーは一部で非常に強いので、僕の作る本もそう評されたりしますが、普段は読まない人に読んでほしいですから、軽くて結構。薄くて結構。
どの本も内容だけでなく、必ず入り口の読者にとっての読みやすさまでこだわりぬいています。でも、質は全く落としていません。
理解されること、されないことも含めて、地道に一歩ずつ進んでいく途中で、一緒にやっていく若い人たちが増えていけばいいかなと思います。
何のために仕事をするのか。誰にこの本を届けたいのか。この仕事によって、何をどのように変えていきたいのか。
常に問いながら常に走りながら、形あるものとして生み出していくのが、柿内さんのスタイルなのだ。
この強い思いが発するエネルギーは本に封じられ、人を呼ぶ。そして、本を手に取る人によって開かれる。
手に取った人の人生を少し、変えていけるのが本である――その思いを胸に、若き編集長は今日も熱い思いを本づくりに注いでいるはずだ。