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柿内芳文さん 後編
■アイデアなんて、どこにでもある

―最初に伺った、柿内さんが星海社新書立ち上げに携わった気持ちにリンクしますね。
柿内さんの企画はずっとひとつの考え方として筋が通っていますが、どんな風に素材を拾ってくるのか、その秘訣は何でしょうか?


柿内:日常的な疑問を考えるのが好きなんです。
誰もが考えつかないような、頭のいい人の思考なんて出来っこないですから。例えば、芥川賞作家の平野啓一郎さんのブログを読むと、本当にすごいなって思います。
「普通のプロ」の僕なりのやり方はそうではなく、誰しもが見ているところを突き詰めることです。
例えば、トイレに入っても、つらつら考える。レバーの位置についての考察とか、トイレってあの形が最終形なんだろうか、とか。傘だって僕にとっては不思議のかたまりです。あの形が完成形だって、思えないんですよ!傘を良く見てください。本当に原始的な形態をしているんですよ。ipodみたいな発想法で、雨をよける道具はもっと違う形に進化できるのではないかな。いや、傘の最終形は、濡れても気にならない衣服とカツラではないか!! ……なんてことばっかり考えています(笑)
あとは、何気ない喜怒哀楽の感情を気にします。なんで嬉しかったのかな、とか、なんで相手が悲しんでいるのかな、なんでこんなにムカついているんだろう、とか。誰しもの目の前で繰り広げられている事ですけれど、追及して考える人はそのうちの一握りです。
それだけではなく、その考えたことをアクションに移します。実際に提案するんです。

―さすが、色々な会社にコネクションがありそうですね。

柿内:いえいえ、一消費者として体当たりするのみです。ゲーム会社にホームページの問い合わせフォームからゲームプランの提案をしたこともありますね(シンプル1000シリーズ『ザ・黒バイ』)。提案と言っても、たった3行くらい(笑)
あとは、吉野家に「純レバ丼」を作ったら絶対売れると投書したこともあったなあ。タクシーの「空車」マーク表示が分かりづらいと思ったら、タクシー会社に提案のメールをしたり。あ、最近はさすがにやってませんよ。

―へえ。何か反応はありましたか?

柿内:いえ、一件もありませんね(笑)


■むしろ無名の人を有名に仕あげて見せる

柿内:タクシーと言えば、運転手さんとお話しするのも、すごく好きです。この前も、乗ったタクシーの運転手さんの言葉がすごく秀逸で、企画のとっかかりをもらいました。
車内に流れているニュースで、日本の負債額についてやっていたんです。そしたら運転手さん、「国の借金とオレの借金はどこがどう違うんだ!」って叫び出して(笑)
国は財政が悪化しても、国債発行して平気な顔しているけれど、市井のぼくたちは絶対そんなことできない。おかしいじゃないか、というのがおじさんの話。
勿論、それとこれとは話が違うというのは分かる。でも、何がどう違うのか、誰にでもわかるレベルで説明が出来ないですよね。本にできそうじゃないですか?

−もう一つの特徴として、有名な方には企画を持ちかけないという事ですね。

柿内:いや、必然性があればご依頼しますよ。でも、有名だからという理由だけで依頼することが無いというだけです。
できれば自分が新しいフォーマットを作りたいんです。
例えば、今ビジネス書の流行は「20代までにやっておきたい」「30代までに」「40代までに」という方向が決まったフォーマットになっています。それをなぞるのではなくて、自分が拓きたいんです。だから、まだ知られていない著者を取り上げたいと常に思っています。

―さすがですね。

柿内:これは、私が尊敬する名編集者で、光文社の社長も務めた神吉晴夫さんの考え方です。著書『カッパ大将』にある言葉ですが、「俺は有名人と称する男のおこぼれは頂かぬ、むしろ無名の人を有名に仕あげて見せる」、と。いいですよね。

神吉晴夫(かんき・はるお)さんは、1901年生まれ。戦後に創業された光文社で、大衆向けの教養新書「カッパ・ブックス」レーベルを創刊。
ミリオンセラーを次々と生み出し、第1次新書ブームを牽引した。のちにビジネス書のかんき出版を創業。1977年没。

■裾野を広げるために、こだわりぬく。

―さて、長い時間伺ってきたインタビューもそろそろ終わりの時間です。
これからの柿内さんが目指すもの、こだわることを教えてください。


柿内:今までの本作りの過程で、僕なりに理解したことがあります。それは、若い人に受け入れられるように作ると、年配の方も買ってくれるという事。
若い人は「本を買う」行為に高いメリットを求めます。
逆に、年配の人には読書がカルチャーとして根付いているから、自然に本を買うし、本が好き。だから、かっちりとしたものしか読みたくないんだ、と思い込んでいたのですがそんなことは無かった。難しい本を手に取って、理解できていないけれども読んだつもりになっている人が多いことが分かってきました。
だから、若い人に向けの易しい本も、それが話題になってくると顔をしかめながらも近づいてきて、手に取ってくれるんです。多分、「近頃のテレビ番組は全然面白くない」と小言を言いながらも、実は文句を言えるほどに見ている、という心理と似ているかもしれませんね。
僕自身も本が好きだから、より多くの人の手に届けたい。そのために、どこに訴求しようかというと、「読む事が嫌いではないが、別に読まない」層です。
すでに本が好きな人のためではなくて、もっと裾野を広げることを目指したい。僕の手がけた本を読むことによって、読書って「悪くない」そして、「もっと読みたい」という人を増やしていければ、全体の循環を良くできる。
だから、過剰な分かりやすさを心掛けています。言葉の選び方や、どの漢字をひらがなにするかなどは徹底して考え抜きます。例えば『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』は、ページのどこを開いても小見出しがあるか、太字になっている部分があることを計算しながら作りました。
そうすると、読者が本屋で軽く立ち読みをするときも、どのページを開いたとしてもカギとなる言葉が目にひっかかります。
行間を開けたり文字数を減らしたり、読みやすい本にすることを「軽い」「薄い」とするカルチャーは一部で非常に強いので、僕の作る本もそう評されたりしますが、普段は読まない人に読んでほしいですから、軽くて結構。薄くて結構。
どの本も内容だけでなく、必ず入り口の読者にとっての読みやすさまでこだわりぬいています。でも、質は全く落としていません。

理解されること、されないことも含めて、地道に一歩ずつ進んでいく途中で、一緒にやっていく若い人たちが増えていけばいいかなと思います。

何のために仕事をするのか。誰にこの本を届けたいのか。この仕事によって、何をどのように変えていきたいのか。 常に問いながら常に走りながら、形あるものとして生み出していくのが、柿内さんのスタイルなのだ。
この強い思いが発するエネルギーは本に封じられ、人を呼ぶ。そして、本を手に取る人によって開かれる。
手に取った人の人生を少し、変えていけるのが本である――その思いを胸に、若き編集長は今日も熱い思いを本づくりに注いでいるはずだ。

柿内さん


ふつうの人のための
決断術


「つもり」じゃない
ですか?


こんな世界史の教科書が
よみたかった


独裁者の教養


資本主義卒業試験