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柿内芳文さん 後編
■独裁者って、成功者だから。

―なるほど、柿内さんの信念が強い本ですね。11月の刊行が待ち遠しい。順番が逆になりましたが、10月の2点もとても面白そうですし、タイトルに入る「独裁者」「資本主義」という言葉からして、教養新書的な香りが強いですね。

柿内:10月は「イズムの月」と位置付けました。
まず、『独裁者の教養』からお話ししましょうか。
独裁者というのは、その善悪は別として、一度は国の最高権力を握った成功者と言えますよね。その背景には、何かしらの教養・主義主張があります。その独裁者が持つ「教養」から動機が来ている。彼らなりの理想とする国家作りを決定づけるバックボーンとなる教養とは、果たしてなんだったのか、という目線を持ちました。しかし、日本で読める独裁者についての資料は、学者による専門書や重めのノンフィクション、またはその行為の残虐性に焦点を当てた薀蓄系が多くて、その間の本はあまりないんです。
この本は、そこを目指したものです。

―新書のコンセプトを反映した、柿内さんらしい狙いですね。「星海社新書らしさ」を実現するための手立ては?

柿内:著者の安田峰俊さんは29歳の若いノンフィクションライターです。独裁者の中には、30歳代くらいで地位を手にしている人が多いんですよ。そして多くの場合、理想に燃えていた若者がコンプレックスや挫折などによって歪み、最終的な独裁者が出来上がる。どういう背景があったのか、どこでその道を選んでしまったのか。
だから、近い年代の視点から独裁者を見るという面白さを考えました。ポル・ポトやヒトラー、そしてカダフィを始めとする10人の独裁者について章立てで取り上げています。
それだけでも面白いのですが、それだとやはり決定的な何かに欠ける。
そこで、実際に今でも独裁者の下にある国に行ってもらい、そのルポルタージュと、歴史的な独裁者列伝が交互に現れる作りにしたんです。

―柿内さんが、「独裁者の国に行ってください」と安田さんに命じたのですか?

柿内:まあ、そうなりますね。どうしても何かが足りないと安田さんと話すなかで、「だったら、独裁に触れてきますよ!」という流れになりました。
厳密にいうと国として認められていない、ミャンマーの「ワ州」という、反政府ゲリラの独裁軍事政権によって支配されている地区です。いわゆるゴールデントライアングルという、世界最大の麻薬・覚せい剤密売地帯で、主要産業はアヘンで、中心そのもの。そこには、鮑有祥(バオ・ヨーシャン)という謎の独裁者がいます。
今までに唯一、その地域のルポを書いているのが、かの高野秀行さん。『アヘン王国潜入記』が、そのものの場所です。そして日本のメディア関係者が行くのはおそらく高野さん以来じゃないかと思います。もちろん、高野さんにも話を伺ってから行きました。

このルポルタージュ部分だけ主語が「オレ」で、小説みたいに読んでいただけます。
国境地帯であちらの警察に捕まる場面から始まり、現代の知られざる独裁国家で暮らす国民は果たしてどう考えているのか、に迫っていきます。
住民は、もちろん日本という国を知らないどころか国や国家という概念がありません。
だからこそ、逆に読む側が「資本主義」って、「日本国家」ってなんだろうと非常に考えされられるのです。
堂々たる、教養系のテーマでしょう(笑)


■いままで作った中で、一番変な本

―2点目の『資本主義卒業試験』は、単純に題名だけ見ると試験問題と答えが並んでいるのかなと思うのですが、どういう内容なのでしょうか。

柿内:僕がいままで作った中で一番の変な本になると思うんです。これは正解を出す本ではありません。
成長する、そして勝つ、売り上げを伸ばすことが至上の資本主義は、社会主義とか共産主義とかよりもマシかもしれないけれど、どうやら多くの人を幸せにするシステムではない、ということに最近やっとみんな気づいてきた。勝つか、降りるか。間にいる人が一番苦しむ仕組みで、どんなに働いても働いても幸せになれない。今、特に若い人が苦しみの渦中にいます。
勝てもせず、ドロップアウトもできず「社蓄」のように働かされる。生きづらいこの仕組みの中でどうにか生きていく。そのために「何を失ってはいけないか」を考える哲学の、小説マンガなのです。

―新書で小説でマンガ、なんですか?

柿内:はい。著者の山田玲司さんは漫画家なんです。光文社新書で一緒に『非属の才能』という本を作り、本屋大賞の「中2賞」を受賞しています。


本屋大賞の「中2賞」とは、書店員によって選ばれた「多感な時期でありながら本から遠ざかっている中学2年生男子に、発行日やジャンルを問わず薦めたい本」(本屋大賞公式サイトより)のこと。

『非属の才能』はどう生きるかについて考える本で、今回も同じです。
冒頭の序章と、13章立ての各章の頭に3ページつづマンガが入っています。
資本主義的には、夢を持って、夢を叶えることが良いことだ、って決めつけられる。でも、この本の主人公は、「それはウソだ、むしろ、夢をかなえたことで苦しくなる社会だ」と気付き、資本主義卒業試験を受けるための旅に出るのです。ここまでマンガで描かれ、そしてページをめくると小説が始まります。
そのほかに、エコの国から亡命してきた人きたワーキングプア、エゴの国から亡命してきた人は売上至上主義の商社マンをはじめとする、日本の縮図と言えるような問題を抱えた登場人物が解放されていきます。読者はだれかしら、どこかしらにシンパシーを感じると思う。お金よりも大事なものがあって、その中で何を失ってはいけないか、という事をこの本で語り、ラストはベタですが、自分で考えてもらいます。

趣味はサーフィン

趣味はサーフィン。「僕からサーフィンを取り上げられたら生きている意味が無い」
ディスプレイの壁紙もサーフィン。