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柿内芳文さん 後編

2011年9月21日、本州を台風が直撃したその日に創刊となった星海社新書は、文字通り出版界に旋風を巻き起こしている。 特にレーベルの精神を体現した「旗艦」ともいえる『武器としての決断思考』は11月8日に刷り上がる重版分で15万部の大ヒットとなっている。
一体、何が真新しいこのレーベルの本を、人々の手に取らせる力となっているのか。
柿内編集長とは、どのような人物なのか。前編から引き続き、インタビューをお楽しみください。

柿内さん
■就職活動、全敗でした。

―創刊の3冊が力作なのはもちろん、創刊第二弾、第三弾とやはり力が入ったラインナップになりますね。第二弾は10月25日発売の『独裁者の教養』そして『資本主義卒業試験』。第三弾が11月25日発売の『面接ではウソをつけ』。
まず、タイトルが強烈な『面接ではウソをつけ』のお話を伺いたいです。


柿内:構想9年です。

―柿内さんは確か社会人9年目ですよね、ということは…

柿内:そう、僕が自分の就職活動で実践したことです。この「ウソ」は、TOEICの点数や学歴、プロフィールなどでなく、自分の性格につく「ウソ」です。
先ほども言った通り、僕は全然自分に自信がありませんでした。それなのにうっかり電通の試験を受けに行った時に、本当にひどい気持ちに陥りました。まわりは体育会系やリア充ばかりで、みんな自信と成功体験に溢れているんです。もう気圧されてしまって、せっかくエントリーシートと筆記試験に受かったのに、面接会場を目の前にして逃げ帰り、家で頭から布団をかぶって「もうだめだ」と絶望的に落ち込みました。その後、円形脱毛症にもなりましたよ。
そこで切羽詰って考えたのは、演技をする事でした。
素の自分は、就職活動のシステムには向かない人格だけれども、面接というシステムをまず理解しようと思ったんです。そこで、「自己分析」をやめて「他己分析」にシフトしました。実際、1次面接を20回くらい受けて、全部落ちていましたから。

そもそも面接とは何なのか?と考え初めてたどり着いたのが、果たして人を15分で評価することが出来るんだろうかという疑問。無理ですよね。
では、何を評価軸として判断しているかを知るために、飛び込み営業の本など、一見畑違いと思われる本をたくさん読みました。そうしたら、決め手は「空気」であるという結論に至りました。
大事なのは、言っている「内容」では無かったんです。「こいつ、良さそうだな」っていう言っている「感じ」。

―そこに、学生の時に辿りついたのはすごいですね。

柿内:切羽詰まっていたんです(笑)
どうせ相手も自分の事を知らないから、恥ずかしさを捨てて、演技をすればいい。そこまで分かったら、今度は内定を何個もとっている友達何人かを観察して、平均して、「採用したくなる感じ」を研究しました。髪型から、話し方、そして目線の動かし方。僕、人の目を見て話すことがとても苦手だったんですが、きちんと目を見て話すことにしました。
そうしたら、如実に結果が現れました。面接で話す内容は以前と変わらず、「学生時代に頑張ったのはアルバイト」とか「美術の課題が好きだった」とか、普通の事を話しているだけ。
ちがうのは、ドアをノックする音を開演のブザーに見立てて、今から15分の独り舞台が始まるぞ!と、自分の世界に入ることです。
それからは一次面接で落とされることは一度もなく、殆ど、最終選考かその前までは行けるようになりました。
ここまで極端な成果がでたのですから、これは本にしたい、とその時から心に決めていたんです。


■演技の自分が、素になった。

―それは柿内さんの体験ですよね。でも、著者は別の方だ。

柿内:はい、著者の菊原智明さんは、以前住宅メーカーのトップ営業マンだったかたで、すでに何冊か本を出されています。偶然お会いする機会があり、もともとは口下手で人見知りだったというのを聞いて、なんとなく似ていますね、と話が盛り上がり、その時にこの企画をお願いすることを決めました。面接の専門家ではありませんが、だからこそ書ける話ですからね。

―え、なんで書けないのですか?

柿内:だって「それを言ったら終わり」な事ですから。本当のことだから、それを明かすと商売が成り立たなくなってしまうことって、ありますよね。多分この本は、面接官も困らせてしまうと思います。でも、悩んでいる弱者のためには、これが最終手段です。
そして、学生だけでなく、営業マンや若手のサラリーマンにも手に取ってもらいたいと考えて作りました。

―確かに、その手法は色々な職業に共通しますよね。

柿内:そう、働いた後も、その「空気」で物事が運ぶという本質は変わらないですから。
就職した僕に何が起こったかといえば、話は下手、人の眼を見るのも苦手、そんな自分だったのが、社交的でにこやかに人の目をみて話せるという演技の自分が素になってきたんです。
もともと、性格がなんていうのは自分の思い込み。「自信が無い」も「人見知り」も、自分で自分にかけた呪文にすぎません。
オーソドックスな自己啓発は、ダメな自分をいい自分に変えようとするんですよ。
でも、この本で言いたいのは「二つ作ってしまえばいい」ということ。ダメな自分はダメなままで良いんです。必要な時に必要な人格をつくってインストールしちゃえ、と。
ダメな自分を根本から変えようなんて考えると、しんどいだけですから。

―2つの人格を作ってしまって、自分の中で矛盾が生まれてきたりしないですか?

柿内:しないです。やっているうちに混ざってきて、リンクしてくるんですよ。そうするとダメな自分はそのままでいいので、とても楽です。