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‐ 第9回 番外編・読書にひたる年末の本棚 ‐

大みそか、そしてお正月。
この静かな時間にゆっくりと本を読むことを
楽しみにしている方もたくさんいらっしゃることでしょう。
科学本棚も年末の番外編です。

毎回、最後に1冊、文芸書をご紹介していますが、
今回はそちらがメイン。瀬名さんが熱くおすすめする
読み応えのある小説をご紹介します。
もちろん、ボリュームもたっぷりのものを、選りすぐりました。


ナビゲーター 瀬名秀明(作家)

1995年に『パラサイト・イヴ』で彗星のごとく現れ、その後『BRAIN VALLEY』『八月の博物館』『デカルトの密室』など傑作SFを世に送り出す。 瀬名さんは薬学博士でもあり、2006年から 2009年まで東北大学で機械系特任教授も務めた。 近年、『おとぎの国の科学』『瀬名秀明ロボット学論集』『インフルエンザ21世紀』『未来への周遊券』(最相葉月との共著)など、科学読み物に力を入れて執筆している。

印が瀬名さんのおすすめの本です。  印はほんのしるべ編集部おすすめの本です。

■なんと未完、の大傑作。どれだけ続きを待っているファンがいることか!

『虚無回廊』小松 左京 著  角川春樹事務所

いまだ未完のまま放置された小松左京の最終到達点にして最高傑作。
めちゃくちゃ面白いです。
第1巻のほとんどを費やして描かれる序章部分のスペキュレーションは、いまなお斬新。
第3巻に今後の展開を大胆予想した解説記事を寄稿しました。



■どこにでもいるような男二人が、ビジネスとして作った宗教はどこへ行くのか。

『仮想儀礼 上・下』篠田 節子 著  新潮社

半ば勢いでつくった新興宗教団体が、みるみるうちに信者を獲得し、 そして宗教間のパワーゲームに呑み込まれ、メディアのやらせと暴走に鎮められ、カルトの烙印を押され窮地に立たされてゆく。
篠田節子の最高傑作にして、あらゆる新興宗教を扱うエンターテインメントの頂点。教祖だけが最後まで正気を失わないことがこんなにも怖ろしいとは。
今後オウム真理教事件と似た事件が起こったとき、私たちは「もしかしたら正気なのはあの教祖だけで、狂気に陥っているのは私たちだけなのでは?」と考えずにはいられなくなります。
分厚いけれど決して怯まないように。一気読みの大傑作です。


■ホラー、ミステリ、そして一人の青年の成長物語。

『オッド・トーマスの霊感』ディーン・クーンツ著 早川書房

作家生活40年に及ぶクーンツが、ついに本当に心の通ったキャラクターを創造しました。それが20歳のコック、オッド・トーマス。 瑞々しい語り口、クーンツのキャリアを集大成する展開、何もかもが愛おしくなる傑作。 全部で6、7作になるというこのシリーズ、オッドは一作ごとに書き手として、またひとりの男として成長をみせてゆきます。
ホラー、SF、サスペンス、すべてのジャンルを書き尽くしたクーンツが、こんなに素敵な小説を書くとは、誰が想像したでしょう。心からお薦めします。


『オッド・トーマスの霊感』はシリーズの第1作目。タイミングが良く、シリーズ4作目となる最新刊『オッド・トーマスの予知夢』が12月に発売になりました。1巻から4巻までを一気に買って読むなんて、 ぜいたくな時間の過ごし方かもしれません。 >>『オッド・トーマス』シリーズはこちら


クーンツの大ファンとして知られている瀬名さん、もちろんこのかわいらしい本までちゃんと目配りされている。著者名はクーンツの愛犬の名前、トリクシー。

『犬が教えてくれた幸せになるヒント』トリクシー・クーンツ 著 ぶんか社

クーンツの家にやってきた、天使のようなゴールデン・レトリーバーのトリクシー。 彼女が病気で亡くなった後、作家クーンツは彼女の声を代筆して、こんなにチャーミングな本を書きました。ギフトにも最適の一冊です。



■故郷に貢献するため、高校教師になった男を襲う悲劇、そして―

『聖者は口を閉ざす』リチャード・プライス 著 文藝春秋

ここ数年で読んだ小説の中でも個人的にはベスト級。 物語に感動するとはいかなることか、物語る才能を持つ者が善意を為すとはいかなることか、この分厚い小説はそのことをまっすぐに伝えてくれます。 スクリーンの中で俳優が涙を流すとこちらも涙を流してしまう、そんな自動人形のような私たちに、著者は本当のエンターテインメントを贈り届けます。


■さて、今回の最後は、1年の最後、そして新しい1年の始まりに自身を振り返るための1冊にして、
科学本棚にもふさわしいこの本を。

『いつも上を向いて』マイケル J.フォックス 著 ソフトバンククリエイティブ

人気絶頂の29歳でパーキンソン病を発症した俳優は、それから毎日祈りを続けた。 「神様、自分では変えられないことを受け入れる平静さと、自分に変えられることは変える勇気と、そしてその違いがわかるだけの勇気をお与えください」。 前作『ラッキーマン』(SB文庫)は本当にすてきな本でしたが、その後の人生を綴った本書も豊かな一冊。 人気ドラマの降板を決意し、幹細胞研究推進の政治活動を進め、ユダヤ信仰と深く関わり、家族と共に生きてゆくマイケル。 日本ではほとんど知られていない再生医療の政治的側面がヴィヴィッドに描かれ、ES細胞からiPS細胞に至る科学問題に関心のある人も必読です。



おっと、ほんのしるべ編集部から大事な本を紹介しなくてはなりません。
瀬名さんの描き下ろし中編が入ったSFアンソロジーが刊行されました。

『NOVA 3』大森 望 編 河出書房新社

翻訳家・大森望による、SFを中心としたオリジナル・アンソロジー・ シリーズの第三作目。とり・みき、円城塔、東浩紀、浅暮三文といった 個性的な面々による本格SFが集まる中、瀬名さんの中編「希望」は 本書のトリを飾ります。 大森氏は、「希望」をこのように語っています。 ――ある意味で本編は、"『虐殺器官』以後"の日本SFを引き受けよう とする瀬名秀明の決意表明かもしれない (P.346)

冷たく、美しく、明晰にして恐ろしい。瀬名SFの新境地として語られる作品、必読です。


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