トップページ > WEBほんのしるべトップページ > 文系人間のための<科学本棚>



 文系人間が科学の本を読もうとすると、数式の壁に阻まれ挫折することがある。それを契機になんとなく理科系を敬遠しがちになることは、とても残念なことです。
 ご存知の通り、理数系の本に傑作がなんと多いことか!宇宙、動物、植物、鉱石、動力、環境、医学、食物、気象……、こうしたものに無縁ですごすことは一日としてできない。文系の本好き人間だって、科学の本を読みたい。

 幸運なことに、古典的な自然理論から最先端の科学技術まで、噛み砕いた言葉でわかりやすく楽しく紹介してくれる作家がいます。その名は、瀬名秀明。言わずとしれたSF作家・瀬名さんですが、書評も群を抜いて面白い!
 これから毎月少しずつ楽しく読める科学読み物を紹介していただきますが、番外編としてSFや一般読み物までピックアップしてもらいます。
印が瀬名さんのおすすめの本です。


ナビゲーター 瀬名秀明(作家)

1995年に『パラサイト・イヴ』で彗星のごとく現れ、その後『BRAIN VALLEY』『八月の博物館』『デカルトの密室』など傑作SFを世に送り出す。瀬名さんは薬学博士でもあり、2006年から 2009年まで東北大学で機械系特任教授も務めた。近年、『おとぎの国の科学』『瀬名秀明ロボット学論集』『インフルエンザ21世紀』『未来への周遊券』(最相葉月との共著)など、科学読み物に力を入れて執筆している。

▶ まずは苦手な数式なしの科学本。すぐにでも買って読みたい1冊を。空や雲を見ると、なんか心ほぐれますよね。

『楽しい気象観察図鑑』 武田康男 (草思社)

空の写真集は数あれど、この人の本以上にすばらしいものにはなかなかお目にかかれません。もっと美しい写真集はあるでしょうが、この著者はいつもそこに掲げられた写真の見所を明解に教えてくれるのです。だから、次の瞬間から自分でも空を見上げて気象観察ができる。これって素晴らしいですよね。ブロッケンの妖怪、幻日、彩雲、光柱、名前だけ知っていてもこれまで見たこともなかった気象現象の数々が、この写真集には掲載されています!著者の継続的な観察活動があってこそ、ここまでクオリティの高い本ができたのでしょう。


▶ お次はネズミ。でもただのネズミじゃありません。一躍動物園のスターになったハダカデバネズミ。デバちゃんに負けず劣らず、著者のこのお二人、とんでもなく面白い人物です。

『ハダカデバネズミ』 吉田重夫、岡ノ谷一夫 (岩波科学ライブラリー)

動物と音楽が大好きな科学者・岡ノ谷さんは、このキョーレツな名前の生き物を学会で知って衝撃を受ける。こいつら、まるで『家畜人ヤプー』だ!
さっそく海外へ飛んでネズミを譲り受け、学生たちと研究を始める。まずは飼育環境を整えるまでが一苦労。地下にトンネルを掘るデバネズミたちはどんな声で挨拶し合っているのか?学生の吉田さんは工夫を重ねながらデバたちの声を録音してゆく。
かわいいイラストが満載のこの本、実は研究の面白さを見出してゆく科学者の眼差しそのものに読みどころがあるのです。


▶ どうです?面白そうでしょう。本の魅力を伝えるって簡単そうだけど、紹介の仕方でまったく印象が違ってくる。この人の紹介なら信頼できると思える人を見つければ、本との出会いが広がります。瀬名さんは間違いなくそのリストに加わることでしょう。なんといっても、その本の一番大事なところ、面白さの核心を絶妙に伝えてくれます。

▶ では今月の科学本3冊目。少しだけ難しそうなのを挙げてもらいましょう。

脳・身体性・ロボット』『身体を持つ知能』『発達する知能 既刊3冊
土井利忠、藤田雅博、下村秀樹編「インテリジェンス・ダイナミクス」シリーズ

かつてのソニーCSL研究陣が主導してきた「インテリジェンス・ダイナミクス」シンポジウムをまとめたシリーズ。身体と心の関わり、世界を捉える視点、人とロボットの境界など、まさにこれから大いに発展してゆく科学分野のエッセンスが詰め込まれています。人文・社会系の研究者にもお薦め。宮城大学に赴任した小嶋秀樹先生の、ヒヨコ型ロボット「Keepon」の研究も載っています!


今回の番外編は『未来への周遊券』(最相葉月・瀬名秀明/ミシマ社)で紹介された、この1冊。
サン=テグジュペリといえば『星の王子さま』ばかりが紹介されるが、実はこちらを彼の最高傑作として挙げる人が多いそうです。

『人間の土地』堀口大学訳(新潮文庫) サン=テグジュペリ

フィクションとドキュメントを融合させた独特の筆致で描かれる。「飛行機とともに、わたしたちは直線を知った」科学は一編の論文によって私たちの世界観を変え、技術は人の視点を変える。「進化」の発見は世界の見方を一新し、飛行機は人の眼差しを永遠に変えた。
直線を知った目で人間の営みを見下ろしたとき、私たちのいのちはやはり世界の一部なのだと、当時サン=テグジュペリははっきり感じていたのではないか。



瀬名さんはなんとパイロットの免許を持っている。
飛行機が重要なキーワードになる小説の執筆のため、なんと自分でも操縦できなければ、と思い立って免許を取得してしまったとのこと!

免許を取得するまでと、その後の飛行紀行を綴ったエッセイがこちらです。

『大空の夢と大地の旅』 瀬名秀明 (光文社) 

瀬名さんが紹介している本は沢山あるんですが、1冊1冊丁寧に読みたいので一度に載せる本は少なめにさせていただきます。

どうぞ、次回をお楽しみに。