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UとQと…Left-Right
left-right -左右社さんに聞きました-

左右社とは――
編集者・小柳学さんが2005年に立ち上げた出版社。この5年間で31件の新刊を出版。
こんな本を出版しています。
建築を愛する人の十二章 内藤礼〈母型〉 東京詩 砂漠論 大西巨人闘争する秘密

ほんのしるべ編集部は、左右社を訪問して、小柳さんにこれまでつくってきた素敵な本のお話、そしてこれからのお話を伺いました。

■小柳さんについて
新書館編集部、太田出版「d/SIGN」編集長を経て2005年に左右社を立ち上げ。新書館時代は雑誌『ダンスマガジン』『大航海』や、金子勝『反経済学』の編集を担当。
ちなみに…金子勝さんといえばちくま新書『閉塞経済』が昨年ベストセラーに。
小柳さんが編集した『反経済学』の副題は「市場主義的リベラリズムの限界」、刊行は1999年。すごい先見の明の本です。


『本は読めないものだから心配するな』について

この本をつくったきっかけは?
―新書館で雑誌『大航海』を編集していた時代に管啓次郎さんと出会いました。いつまでも余韻が残るような文章が好きで、いつか彼の本を出したいと思っていました。

実は、この本とっても変わっている。基本は各媒体に寄せたエッセイ集なのだが、ひとつひとつのエッセイに区切りが無く、自然に続いていくのです。そして、目次が無い! 本は読めないものだから心配するな
管さんのアイデアです。
書評集というよりも「本についての文」で、ひとつひとつエッセイとして独立しているが全てがつながっている、ということを表すために目次をつけず、 文章の切り替わりを3行あきにしてあたかも文章と文章がつながっているように見せたのです。
管さんの文章を読んだときに感じたのが、音楽のように流れるリズム。これは詩だ、と思いました。
個々に小見出しを付けるのは、この本に似つかわしくない。管さんの文章の持つひとつひとつの本を読む気持ちをかき立てるリズムを保ちたかった。
言うならば・・・途中のどこから読んでもいい本だよというサインを送っているような造本を目指しました。
小見出しのかわりに、各エッセイの始まりをゴシックにしてあるだけ、それとページの左上に特に美しい一節を抜き出して書き、 読者の引っかかりどころになるようにしました。すると、自然に気持ちを掻き立てられ、流れるように文章を読み進められる。

本は読めないものだから心配するな そう、その魔法のゴシック―潮を打つように本を読みたい―に引っかかって、UとQのフェアも出来たのですから。まだまだ、たくさん素敵なことばがありますが・・・
私が何より好きなのが、一ページ目の言葉「本は読めないものだから心配するな」からはじまる一節です。この本全体を照らす光ですね。 こんなに本を読む人が「読めないものだから」と言ってくれる。
本が好きな人こそ救われる思いがするのです。

―本は読めないものだから心配するな。あらゆる読書論の真実は、これにつきるんじゃないだろうか。(p.3)

大江健三郎の師匠だったフランス文学者・渡辺一夫ほどの碩学でさえ、書き込みをした本の内容を 全く覚えていなかったというエピソードは、本好きな人の心を随分と慰めてくれる。


放送大学叢書、そして『自己を見つめる』との出会い

左右社さんで刊行している「放送大学叢書」と放送大学教育振興会の「放送大学テキスト」はどんな関係なのでしょうか?
自己を見つめる 「放送大学テキスト」は講義に合わせて4年毎にテキストの入れ替えが行われます。4年間の役目を終えた後は他社から単行本化されたり文庫化されたりして、 バラバラに散って行ってしまうし、そのまま再刊行されないものも多かったのです。
この知の財産を眠らせるのは勿体無い、特選版を放送大学シリーズとして世に残しておきたいという話を放送大学さんから頂き、 小社から刊行することになりました。
テキストは講義が前提ですから、叢書化するときは構成もタイトルも、授業を聴講していなくても十分わかるように変更しています。
また、電車の中でも気軽に読めるサイズにこだわりました。まずは学生さんに集まってもらって、字の大きさ、本の軽さなどについての意見を聞きました。 その結果、ソフトカバーで軽くて、ペーパーバックのような手になじむ形に造っています。

1冊の素晴らしい本、『自己を見つめる』

もちろん、中身を変えないで出している作品もあります。
代表的なものが『自己を見つめる』。哲学者・渡邊二郎先生によるとても素晴らしい講義ですが、惜しくも叢書化の1年前にお亡くなりになったのです。 その代わり、渡邊先生をよく知る二人の先生に解説をつけていただきました。
東大教授時代は厳しくて有名でしたが、放送大学での講義は柔らかく、自身の人生の集大成として「生きることの哲学」を学生に語りかけるものとなり、空前の人気講義でした。
非常に慕われていて、休講になると「お体でも悪いのですか?」と心配の電話がかかってきたり、 亡くなった時には涙する学生も多かったりと聞いています。
この本は本当にひと一人の人生を変える力を持つほどの名著で、いまでも、小社に電話やハガキでこの本と渡邊先生に対する思いを伝えてくれる読者の方が絶えません。 私は直接先生にお会いする機会がなくて心から残念に思えて・・・。
私自身、『自己を見つめる』を読むたびごとに文章が心に突き刺さってきたり、励まされたりします。
最近では「孤独とは、そこで私たちがほんとうの自分を取り戻し、改めて純粋に、自己自身と世界と人間のすべてを見直し、 存在の真相に触れ直す瞬間なのである」という文章に感銘を受けました。

“ひとり雑誌”『大澤真幸THINKING「O」』、創刊。

大澤真幸THINKING「O」 創刊号 3月に創刊した雑誌の『大澤真幸 THINKING「O」』、前編は大澤とその号のゲストが対談し、後編は大澤が対談を踏まえた論文という、ユニークな形式です。
創刊号はアフガニスタンでペシャワール会の活動をしている医師・中村哲さんとの対談がメイン。とんでもなく忙しい中村さんの 帰国の合間を捕まえて、何とか時間を押さえていただきました。
聞き手としての大澤さんのすごさは、「中村さんが出来ることは他の人にも出来るはずだ」という前提で質問をぶつけていったところです。 「中村さんは特別な人だから」と、聖人的立場に祀り上げてしまう事をしなかった。
中村さんも飽きるほどインタビューされていますが、「対談でこんなことを聞かれたのは初めて」とおっしゃっていました。
「総合的なデパート」で様々な論者が登場するのが論壇誌の主流ですが、敢えてこの時期に創刊するのであれば個人誌、 言ってみれば「個人商店」の方がいい。一対一、読者と大澤さんの真剣勝負が生まれるからです。そちらのほうが大澤さんの対話の思考と 論文の思考を対比で見せられて面白い雑誌になるのではないかと。
ブログやウェブで発表するという手もありますが、大澤さんのようなトータルな議論は、全身で、五感で感じる事が必要だから、紙、雑誌形態での刊行にこだわりました。

鶴見俊輔さんから絶賛の言葉が届いたそうですね、と聞いた途端に小柳さんの相好が崩れた!
そうなんですよ。そうなんです。
「『O』を読み、感動した。日本をひきうける心がまえを感じた」と記したハガキが届きました。すごく嬉しいですよ。もう本当に!
この月刊誌を大事に続けていきます。第2号の対談者は姜尚中さんと民主党秘書・小木郁夫さん。 第3号が裁判員制度推進者の弁護士・四宮啓さんと松本サリン事件冤罪被害を受けた河野義行さん。第4号は辻井喬さん、第5号は茂木健一郎さんが登場します。

今の論壇が力を持たない理由は、問題の全体が見えていないから、ではないでしょうか。一例ですが、普天間にしても「鹿児島か沖縄か」ではなく、 日本がアメリカとの関係をどう考えるのか、という全体の議論が見えてこない。
若い人にはこれを読んで、全体を把握したうえで行動を起こすという事、「自分たちで考える・選択する」ようなことを促す雑誌にしたい。

左右社のこれから。

『誰も知らない印象派』のゲラをちょっと拝見

『誰も知らない印象派』のゲラをちょっと拝見

今年は、まだまだ出します。叢書シリーズと「O」以外では、6月に片岡義男さんの短編集、 7月には柏倉康夫さんの『評伝 梶井基次郎』や山田登世子さんの『誰も知らない印象派』が控えています。
『誰も知らない印象派』は、たとえば、ルノアールの絵を取り上げて、「この中に娼婦が何人いると思いますか?」という謎解きがあったり。 あと、有名な絵に描かれている島が実はナンパ島の絵だ、とかね。絶対面白い自信がありますよ。
この著者の本を出したい、と心に決めている著者の方が何人かいます。何より小社の名づけ親・石川九楊さんは3冊以上企画を持っています。 そして大澤さんや管さんは勿論、工藤庸子さん…あとは秘密です。

左:小柳さん 右:東辻さん

左:小柳さん 右:東辻さん


もう一人の社員、東辻さんは以前勤務していた出版社を退職した後に『本は読めないものだから心配するな』に惹かれて、左右社のドアを叩いたとか。本が、ひとを繋げた。
今は私と東辻、二人ですべてやっています。 尊敬する宮沢賢治は童話作家で詩人であり、画家であり、教師であり、農民もやってサラリーマンもやった。 左右社は一人ひとりが宮沢賢治でありたいのです。編集も営業も制作も、最初から最後までに参加すること。
そして社の名前の由来にありますが―つねに人間と社会の本意を尋ね求める出版活動をしていきたいですね。



最後に―左右社命名のことば
左右社命名のことば
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